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1-5-9

「まあ、君のその勇気には感服させてもらった。今後とも、私の話し相手になって欲しいものだ」


「誰がするか」


「まったく、つれないな。少しはマトモな話し相手が欲しいんだが」


「お前、友達いなさそうだからな」


「確かに。友達は、誰もいないな」


 クラッススはふざけていると言う風ではなかった。寧ろ切実に友を求めているような、本当に俺に友になって欲しいと言う風に見えた。


 まあ、こんな面倒な奴の話し相手になってやる気は更々ないが。


「東條さん! 聞こえますか!?」


 その時、腰にぶら下げておいた通信機から眞柄二等兵の叫び声が聞こえてきた。だが雑音が激しく、聞き取りにくい。


「眞柄か」


「無事なんですね!?」


「いやあ、まあ、無事かと言われると……」


「お友達かね?」


 クラッススは言った。


「ああ。そうだが」


 ん? 今何と?


「話したいだけ話すがいい。私は止めはしない」


「へ? あ、ああ。じゃあ遠慮なく」


「ど、どうかしましたか?」


「いや、何でもない」


 全く何でもなくはないが、まあ取り敢えず向こうを混乱させるようなことは言わないようにしよう。クラッススが目の前で棒立ちしているのが非常に気になるが。


「そちらの状況は? 東條さんのいた空母が撃たれたのを確認しましたが」


「芳しくはない。ティーガーⅡが撃たれて、動けなくなった」


「なっ…… しかし、クラッススは釣り出せていますよね?」


「ま、まあな」


 釣り出すどころかそこにいるんだが。それに、あんまり作戦を口にしないで欲しい。まあ既にバレてる以上、隠す意味もさしてないが。


「分かりました。では、最終手段を取ることとします」


「最終手段?」


 んなことは聞いていない。


「ええ。これより全軍で突撃を行います。以上です」


「本気か?」


 塹壕に籠ってやっと互角くらいにやり合えているのだ。野戦に出ては、木っ端微塵にされるのは目に見えている。


 それでもやると?


「はい。既に準備は出来ています。次は直接お会いしましょう。ではまた」


「あ、ちょっ……」


 通信は切られた。あいつは本気だ。死んでは意味がなかろうに、何が眞柄二等兵を動かしているんだ?


「なるほど。万策尽きて突撃か。面白い」


 そう、そうだ、今の会話は討ち取る対象の本人に駄々漏れである。これでは流石に逃げられてしまうのではないか?


「あんた、逃げるのか?」


「まさか。このような挑戦、受けて立たねば武人の恥だ」


「そ、そうか。勝手にしろ」


 少なくとも一抹の可能性が残されたことを言祝ぐべきか、或いはクラッススにそれ程までの余裕があることを呪うべきか。


 兎も角、俺に出来るのは眞柄二等兵らの健闘を祈るだけだ。


「さて、君もここで見物するといい。我々の戦を」


「どうやってだ?」


「ふむ、そうだな、確かに、人間には何も見えないな」


「あんたには見えるのか?」


「ああ。私は全ての配下の五感を掌握している。前線で何が起こっているかは、全て分かる」


 さしずめ、ここにいるのはクラッススの親衛隊と言ったところか。一人が全ての兵士の一挙手一投足を支配する。人類が夢見た究極に効率的な方法を、こいつは片手間に実践している。


 一筋縄ではいかないぞ。眞柄二等兵がどうにか出来るのか?


「諸君らは、面白い武器を使う。この時代で竹槍とは」


「実際有効だから使ってんだ」


「他にいい武器はなかったのか? 確かに我々は金属類を崩壊させる技術を持っているが、であれば、有機物の弾丸なども作れたのでは?」


「それはあるにはあるが、数が足りない。末端の兵には竹槍くらいしかマトモな武器はない」


 って、何で俺は解説員みたいなことをやってるんだ? 何なら利敵行為じゃないか。


「なるほど。どうしてそんな状態で戦争など仕掛けたのか……」


 クラッススはやれやれと首を振った。


「そもそもお前らがいきなり地球に乗り込んできて、侵略を始めたのが悪いんだろうが」


「誰がこの馬鹿げた戦争を始めたのか。決めるのは、この戦争に勝った者だろう」


「何を言ってる?」


「それより、彼らが来たようだ」


 鬨の声と言うか、がむしゃらな叫びと言うかが聞こえた。割と近くにまで味方は迫ってきているのである。


「彼らの闘争心は凄まじいな…… 私の軍が押されている」


「じゃあ、素直に死んでくれるか?」


「それは、微妙だ。私はこれでも、我が軍の中では必要な部品の一つだからな」


「チッ……」


 やっぱり最後は逃げる気か。まあ、そもそも何でアイギスに騎士道精神を求めているのかと言う話だが。


 クソッ。俺は何も出来ずにこいつが逃げ去るのを傍観するのか?


「おーい! お前ら! 生きてるか!?」


「ん?」


 通信機を通したのではない生の声。それが、今戦闘が行われているのとは反対方向から聞こえてきた。また同時に、どうも馬の蹄のような音も聞こえてきた。


「馬……?」


 馬、である。俺達の後ろから、騎兵のような兵士の集団が突撃して来たのである。

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