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「ティーガーⅡ!」
ティーガーⅡの上には装甲だったものが覆い被さっていて、状況はよく分からない。
ただ、呼び掛けても反応がないと言うことだけは分かった。
「すぐ助け…… いや」
違う。既に空の見える穴が空いているが、それはまだ拡大し続けている。
このままここにいては、全員が瓦礫の下敷きになって死ぬ。それに、既に瓦礫を被っているティーガーⅡの状況は、これ以上悪くはならない。
なれば、何をすべきかは明らかだ。
今は、何をすべきかだけを考えねば。
「さっさとここから出ろ! 死ぬぞ!」
俺がそう叫んで、ようやく兵士は我に帰った。俺達は身と銃だけを携えて空母から飛び出した。
「て、敵」
「囲まれて……」
「チッ。クラッススが」
既に空母は包囲されていた。どうやら俺達はクラッススの手の内で踊らされていただけらしいな。
さて、どうしたものか。
敵は歩兵型のみだが、数はこちらより遥かに多く百くらい。流石に、これと戦うのは無理だ。
「諸君。銃を置いて両手を上げたまえ」
「まったく、うざったい奴だ」
クラッススの声だ。余裕綽々の様子がひしひしと伝わってくる。
こんな奴に素直に従うなんぞ甚だ不愉快だが、しかし、今のところこの状況を打開する策はない。何も思い付かない以上、生存に最適な行動を取るしかないのだ。
俺は手に持った九九式狙擊銃をゆっくりと地面に置き、両の手を上げて降伏の意を示した。もっとも、懐にはRP-52(五二年式無反動拳銃)を隠しているが。
俺が抵抗を示さないのを見て、他の者もまた銃を捨てた。
どうする? どうしたらここから逆転出来る?
「結構。我々とて無意味な死人は出したくないのでな」
「いつも後ろから命令するだけの奴が、よく言うな」
挑発してくれば、万が一くらいにはクラッスス本人が出てくるかもしれない。そんな浅はかな目論見からの言葉である。
「確かに。私は前線に出て戦ったことはない」
「そんな奴に、命の価値など説く権利があると思うか?」
「確かに、ないかもしれんな」
「だよなあ。だったら、少しくらいは姿を見せてくれてもいいんじゃないか?」
陳腐な挑発である。それに、言葉が陳腐であるにとどまらず、俺の演技も下手くそだ。
これに乗ってくれるとは……
「よかろう」
「なっ」
まさか、本当に?
「お初にお目にかかる」
アイギスの間を抜け、古代の鎧みたいなものを着た一人の男が歩いてきた。その声は、クラッススのそれそのものである。
見た目は、やはり人間そのものだ。アイギスと言われなければそうであることを疑いはしないだろう。
「あんたが、クラッススか」
「いかにも。それに、そちらのティーガーⅡ君とは違い、私はこの体が本体だ。諸君ら人間と、何も変わらないのだよ」
「ほう。じゃああんたは、生物なのか?」
こう言う知性を持ったアイギスについて、人類はその正体を十分に把握出来てはいない。まあ、その他の点についても、分からないことが多過ぎるが。
「いや、違う。私は機械だ。我々は、被造物に過ぎない」
「じゃあその創造主は?」
「さあな。私は知らない。ただ、私の主は有機生命体ではあるが」
「アイギス人、みたいなものがいるのか?」
実に興味深い。クラッススの命があればいつでも殺されると言う極限の状況下であるし、今は暗殺の絶好の機会なのだが、俺は、アイギスとは何なのかがもっと知りたい。
「諸君が想像するような生命体、我々の創造主達は、確かに存在する。いや、存在していたと言った方が正しい表現だろう」
「今は滅びたと?」
「実質的には滅びたと言っても過言ではないだろう。少なくとも私は、一人しか知らない」
「それがあんたの主だと」
「その通りだ。さて、立ち話はここらで終わりにしよう。後は我々の管理下でゆったりと語らおうではないか」
クラッススが片手を上げると、周囲のアイギスがじわじわと俺達に向かって歩き出した。このまま捕縛するつもりらしい。
さて、話は終わった。クラッススはそこにいる。
俺は拳銃を取り出し、無言のままクラッススに向け、有無を言わさず引き金を引いた。
この距離だ。外すなんてあり得ない。
銃弾は確かに、クラッススの頭を貫いた、筈だ。
「おやおや、まだ抵抗する気があったのか?」
クラッススは何食わぬ顔で、はあとため息を吐いた。
「死んでいない、のか……」
確かに弾は当たった。だが、それがクラッススを貫くことはなかった。
「我が配下すら殺せない鉛弾で、私が殺せるとでも思ったのか?」
「チッ……」
AÄ彈(對アイギス彈)の撃てる九九式狙擊銃は足元にある。拾うことなど叶うまい。
「その銃も、捨てたまえ」
「ああ」
拳銃を投げ捨てた。
まさか殴り合いでどうにかなる訳もない。ティーガーⅡは依然沈黙したまま。
なるほど。
これが万事休すと言う奴のようだ。




