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それから数日が過ぎた。
いつ戦いが始まるとも知れぬ日々は、今日で終わりになる。
「敵確認。戦車型およそ二百、歩兵型およそ八百。距離はおよそ90キロ、全て北西から来る」
臨時司令部にて、ティーガーⅡは淡々と告げた。彼女のアイギスを探知する能力の為せる業である。
「ついに、来ましたか」
真柄二等兵は落ち着いた声で言った。ここまで来たら覚悟を決めるしかないのである。
「ああ。ここで奴をぶっ殺せば、万事解決だ」
「そう願いましょう。では、全て計画通りに、作戦を始めます」
クラッススがおおよそ北西から来るであろうと言うのは既に予想されていたことだ。奴らの拠点が北にあるのだから、自然な推理である。
一応は全方位からの襲撃に対応出来るように準備をすすめてきたが、実際は北に重点を入れていた為、この報告はありがたいものであった。
兵は各所の機銃や地雷を悉く北に移し、戦闘に備える。
一方、俺とティーガーⅡ、その他二十名程度の奇襲部隊は、船の墓場の北の端に落ちていた空母の中に身を潜めた。
眞柄二等兵率いる主力部隊が敵を釣りだし、ついにクラッススの本陣が出てきた時、それを叩くのである。
「ティーガーⅡ、準備はいいか?」
「ああ。何も問題はない」
「ならよかった」
流石の俺も、回りの人間の雰囲気に呑まれて心臓が高鳴っている。全く動じる様子のないティーガーⅡが羨ましい。
「ああ、ああ、東條さん、聞こえますか?」
通信機から響くのは眞柄二等兵の声。
「聞こえてる」
「了解しました。以後、無線には注意を払って下さい」
「分かった」
外と中を繋ぐ唯一の扉がこれだ。全員分の通信機など、そんな豪勢な物資はないのである。
但し、ティーガーⅡは自分の力を使って通信機など使わずとも向こうと会話が出来る。
「……何だ? ……ああ。 ……承知した。通信終わり」
「何だって?」
「これから敵軍への砲撃を開始する。驚くなよ」
「頑張ってくれ」
「ああ」
戦艦の主砲の射程は50から60キロメートルと言ったところ。その距離にまでアイギスが接近して来たのだろう。
アイギス側に長射程の砲兵や空軍が存在しない(砲兵型とは言え射程は20キロメートル程度)以上、まずはこちらから一方的に殴れる。
砲撃が開始された。
一発でも鼓膜を破壊してくる爆音なのに、それが何十も同時に、それが何回も連続で続く。
とは言え、アイギスに対してそれが大して有力でないと言うのは、人類が大昔から知っていることである。
「どんなもんだ? あまり効かないとは思うが」
「いや? 結構殺せているぞ?」
「本当か?」
「これを見ろ」
と言ってティーガーⅡは黒い板を懐から取り出した。本当にただの黒い板である。
しかしそれは瞬時に画面になった。その板に、砲撃を食らって破壊された幾らかのアイギスの映像が流れたのである。
まあ、その技術の解説はまた今度にするとして。
「以外と壊せているんだな」
「ああ。奴らも、まさか自分らが砲撃を食らうとは思っていなかったらしい」
「違いないな」
こんな歩兵しかいない集団が砲撃をしてくるなどと考える方がおかしい。実際、ティーガーⅡがいなかったらこんなことは不可能だっただろう。
つまりは奇襲に成功したと言うことである。
しかしそれはあくまで奇襲。意味を持つのは最初の一撃のみ。種を見破られれば、後はどうしようもなくなってしまうだろう。
もっとも、そんな士気を削ぐようなことを言ったりはしないが。
「最外周より、距離3キロメートル。順次砲撃を打ち切る」
今のは眞柄二等兵に向けた言葉だろう。ここにあるのは地面に乗っかった戦艦だ。その主砲はそれなりの高さにあり、至近距離では役に立たない。
一応側面についた副砲が使えないこともないが、威力では無論数段劣っている。
やがて、砲撃の音とは別種の音、地を蹴る音、即ち、人のおめき声、銃声、爆音が入ってきた。
ついに前線の兵とアイギスとの戦闘が始まったのである。
「総員! 本作戦の目的は時間を稼ぐことだ! 前に出る必要はない! 退くときは躊躇わずに退け!」
おやまあ、眞柄二等兵もこんな感じの声を出せるのか。
ティーガーⅡがさっきの黒い板で戦場の様子を見せてくれる。
この至近距離だ。当然、砲撃などは不可能である。兵士は自らの力のみに頼るしかない。
なけなしの機銃や小銃を使い敵を牽制しつつ、塹壕に入ろうとした敵は爆槍(先っぽに爆薬に詰め込んだ槍)を突き付けて破壊し、また塹壕に籠る。
先程の砲撃が功を奏したのか、敵の襲撃はまばらだ。それか救いとなって、何とか耐えられていると言った感じだ。
「第一防衛線放棄! 下がれ!」
防衛線が破られたのを装って、敵を引き込む。学徒にしては上手な采配だ。
そうして防衛線は徐々に下がっていき、陣は南に向かっていく。アイギスはどんどん船の墓場の中に引き込まれていく。
「ライ! 見えたぞ! 恐らくはクラッススの反応だ!」
ティーガーⅡは珍しく声を張り上げた。それもそのはずである。ついに奴を見つけたんだ。
「わ、分かった! すぐ眞柄二等兵に連絡しろ」
だが、一瞬だけ気を緩めたその時、予想だにしないことが起こってしまった。
爆音と、装甲の崩落する音。
空母の甲板が貫かれた。俺達が敵の砲撃の的にされたのだ。




