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1-5-6

「まあ、現状、それしか手はないからな」


 今の俺達に打てる手はこれだけだ。残念だが、ティーガーⅡには腕を斬ってもらうしかないだろう。


「だ、大丈夫なんですか? そんなことをして」


 眞柄二等兵は震える声で尋ねた。まあ確かに、初見でそんなことを言われてはビビるのも仕方ないかもしれない。


「ああ。私は機械だ。痛みは自由に制御出来る」


「で、では、機能上の問題は、大丈夫なのですか?」


「片腕があれば銃くらい使える」


「そ、そうですか…… では、いいのでは、ないでしょうか」


 まったく、軟弱な奴だ。まあ一応同意を得られたからいいとしよう。


「磯埜は?」


 ティーガーⅡは磯埜二等兵にも律儀に許可を求めた。


「別に俺はどうだっていい」


 磯埜二等兵はティーガーⅡの身など心配していないように言った。


 ティーガーⅡが機械の体であるとちゃんと理解しているのだろう。或いは本当にどうでもいいのかもしれないが。


「了承と取ろう」


「ああ。さっさとしてくれ」


「何か、刃物はないか?」


「刃物?」


 少なくとも俺は刃物の持ち合わせはない。冷静に考えたら結構問題だが。


「ほら、これは?」


 磯埜二等兵は銃剣くらいの大きさをした短刀を取り出し、ティーガーⅡに刃を向けながら差し出した。


「問題ない。使わせてもらおう」


 と言ってティーガーⅡは刃をそのまま握りしめた。機械の手であるから、血が流れることはない。いや、そもそも皮膚が斬れてもいない。


 ティーガーⅡは右手で短刀を握ると、それを左腕の関節に押し当てて、表皮を斬り始めた。表皮は人間のように薄いようだ。


 そう言えば、ティーガーⅡの中身を見たことは一度もなかった。


 これまで散々色んなものを見せられて、彼女が機械だと言うことに疑いを抱いたことはなかったが、こうして鉄の骨と関節を見ると、それをより強く実感するものである。


「これは返す」


 ティーガーⅡも刃を磯埜二等兵に向けながら差し出した。磯埜二等兵は刃をつまむ感じで無事に受け取った。


 そしてティーガーⅡは右手で中身の露出した左の前腕を掴み、そのまま一気に引き抜いた。


「う……」


 眞柄二等兵は少々気分を害したようである。しかし俺は平気で、磯埜二等兵も平気そうであった。


「これをここに置いていく。後はここに用はないだろう」


 ティーガーⅡは体から離れた前腕を例の破壊した操作台に突っ込んだ。するとその腕は動き、中の導線をがっちりと掴んだ。


 俺もそれには少々驚かされた。


「ティーガーⅡ、それでいけるんだよな?」


「ああ。私を信じろ」


「何か他にやりたいことは?」


 眞柄二等兵と磯埜二等兵に尋ねた。二人とも首を横に振った。


 そうして俺達は戦艦近江を後にした。


「あ、これ、どうしよう」


 道中、ティーガーⅡが投げ落とした浅井中将の死体があった。もう黒焦げで生前の面影と言う奴は殆ど残ってはいない。


「ええと、一応、埋めときましょうか」


「そう、だな」


 眞柄二等兵が正しい。


 俺達は、不承不承のティーガーⅡにもシャベルを持たせて、人一人は入れれるくらいの穴を掘って、死体を埋めた。


 さて、近くに落ちていた飛行空母の格納庫の中に仮の司令部が設営された。電灯を一つ吊るして、机と通信機が置いてあるだけのお粗末なものである。


 眞柄二等兵がほぼ1人だけで指示を出しており、それを俺とティーガーⅡは見物していた。


 俺達だけが暇しているのは、眞柄二等兵にわざわざ手伝ってくれなくてもいいと言われたからである。


 もっとも、見えないだけでティーガーⅡはちゃんと仕事をしているが。


「よし、出来たぞ」


 その瞬間、艦内の電灯が一斉に灯った。


 そう、ティーガーⅡはこの飛行艦隊を再起動する仕事を現在進行形でやっているのである。


「すごいですね。こんなことが出来るなんて」


 陰鬱な環境から解放された眞柄二等兵は感心の声を上げた。


「ふっ。これが私の力だ」


「この調子で、次もお願いします」


「了解だ」


 次の作業とは、動く全ての艦を戦闘可能な状態にすることである。もっとも、それには1分もかからなかったが。


「艦砲の再起動、完了した」


「ありがとうございます。これで何とか希望が見えてきました」


 実質砲兵師団の何個かが味方に加わったようなものだ。心強い。


「眞柄、1発撃っていいか? 一応、確認をしておきたい」


「ああ、まあ、安全な方に撃って下さるのなら」


「任せろ」


 ここからは何が起こってるか全く分からんが、外ではどこかの砲塔が回っているのだろう。


「撃つぞ」


「どうぞ」


 その瞬間、重くのしかかるような轟音が轟いた。足元が揺さぶられたように感じられた。


「問題なしだ」


「では本番も、宜しくお願いします」


「任された」


 準備の半分は完了した。


 後は兵士諸君が塹壕掘りを終えれば、出来ることはもう何もない。

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