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「で、どうすんだ? これ」
この臭気の中で活動するのは耐え難い。それは他の2人も同様なようである。
「燃やすか?」
ティーガーⅡは言った。
「まあそれがいいだろうが……」
「ではさっさと燃やしてしまおう」
「ん?」
俺は非常に嫌な予感がして、ティーガーⅡを止めようと思ったのだが、それはもう手遅れであった。
ティーガーⅡが浅井中将とやらの肩に手を触れると、たちまちそこから火が上がったのである。
「そんな芸当も出来るのか」
こいつにはまだ俺の知らない機能があるようだ。
「ああ。もっとも、戦闘ではまるで役に立たないが」
「確かに」
アイギスは燃えないし、直接触れねばならないと言うのも残念なところだ。
その時、当然と言ったら当然だが、焦げた肉の臭いが鼻をついた。まあさっきの臭いよりはマシではある。
「ちょっ、東條さん!」
眞柄二等兵は今にも俺が死にそうであるかのように叫んだ。
「何だ?」
「いや、このままだと死にますよ! 一酸化炭素中毒で!」
「ああ、確かに」
ここは密室だ。換気など全くされてはいない。ここにいたら確実に死ぬ。
「何ぼさっとしてるんですか! 逃げますよ!」
「あ、ああ。分かっている」
3人の人間は艦橋を出て、念のためそこの3つ程下の階にまで退避した。
「ん? ティーガーⅡは?」
ティーガーⅡが見当たらない。恐らくは艦橋に残っている。
「あいつなら心配要らないだろ」
磯埜二等兵はぶっきらぼうに言った。まあ、それもそうか。
しかし困ったことになった。
有機物の不完全燃焼で生じる一酸化炭素は、無論、目には見えない。よって、上が安全になったかどうか確かめようもないのである。
「待つしかないか」
「ですね」
ティーガーⅡが何かをしてくれることに期待するしかない。
さて、暫く待っていると、上から硬質な足音が響いてきた。
「上は安全だ。さっさと上がってこい」
流石はティーガーⅡ。仕事が早い。
上に上がると、浅井中将の死体はなくなっていた。そして艦橋の正面の窓が割られている。
「ティーガーⅡ? これは……」
「見ての通りだ。死体は外に捨てておいた」
「そう、か……」
合理的な行動ではあるが……
「眞柄二等兵とか、何か言ってやってくれ」
「わ、私ですか?」
「ああ」
「え、ええと、死体をそう言う風にぞんざいに扱うのは、誉められたことではありません」
別に間違ったことなど言っていないのに、眞柄二等兵は自信なさげに言う。お陰でティーガーⅡは怪訝そうな顔をしている。
「要は何が言いたい? はっきり言え」
「はっきり、ですか。ええ、つまり、死体を捨てないで下さいってことです、はい」
「……そうか。まあ、そう言うのなら気を付けてやってもいいが」
「お願いします」
これは、ティーガーⅡは多分話の趣旨を理解していない。本人は多分、眞柄二等兵がよく分からない要求を突き付けてきたと思っているだろう。
眞柄二等兵は使えんと察した俺は、今度は磯埜二等兵に目で合図を送った。
「俺は別に死体を捨ててもいいと思うぞ」
「あ、じゃあいいわ」
こいつに喋らせたら状況が悪化する。
では俺が何か言おうかとも思ったが、この俺が高尚なことを説くのは気持ち悪い。
もう面倒臭くなった。この話はここで終わりにしよう。
「ところで、ティーガーⅡ、本当にこの船を動かせるのか?」
「やってみないと分からない」
「やってみてくれ」
ティーガーⅡは軽く頷くと、近くにあった操作台を軽々と破壊して中身を剥き出しにし、それに手を触れた。
そして数十秒の沈黙の後、それは唐突に起こった。
艦橋の照明が突然点いたのである。
「おお、すごいな」
「これだけではないぞ」
とティーガーⅡが言うと、今度は艦橋から見える砲塔が回転し出した。これは素直にすごいと言わざるを得ない。
「これと同じように他の艦も操れるのですか?」
真柄二等兵は尋ねた。それが出来れば戦闘は格段に有利になる筈である。
「ああ。可能だ。しかし少々問題がある」
「問題?」
「この艦さえ制御していれば他の艦はこの艦に組み込まれているシステムで制御出来るが、この艦自体は私が直接触れ続けなければならない」
つまりはここにいる少女の方のティーガーⅡが戦闘に参加出来なくなるということか。
ティーガーⅡは強い。是非ともいて欲しい。だが、それと支援砲火とを比べれば、どちらの方が大事だろうか。それが問題だ。
「お前を取るか砲撃を取るかって話か」
「いや、違う」
「違う?」
「私は腕を切り離してもそれを遠隔操作出来る。そうしてよいかと言う話だ」
俺の最初の思ったことは見当違いだったようだ。
ティーガーⅡが腕を切り落とせば問題は解決するが、果たしてそれでいいのかと。
合理的に考えればティーガーⅡは今すぐそれを実行すべきである。最初に会った頃のティーガーⅡなら迷いなくそうしていたかもしれない。
つまるところ、俺はティーガーⅡの成長を感じて少し嬉しさを感じているのだ。まあそんなことを言ってる場合じゃないが。




