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1-5-4

「一応、二、三十人は兵を付けた方がいいでしょうね」 


 流石、眞柄二等兵にはまっとうな判断力があるようである。


「別に、私だけでも問題ないんだが」


 対してティーガーⅡは不服そうな様子。


「お前だって、前に歩兵がいた方がいいって結論になったじゃないか」


「確かに…… そうだったな」


「じゃあ、奇襲部隊はその程度にして、他は囮に回してくれ」


「了解しました」


 戦車一両に対して兵士数十名、そう悪い編成ではない。欲を言えば装甲兵員輸送車が欲しいが、ないものねだりはよそう。


「後は、囮が上手く機能するかにかかっています」


 囮が上手くクラッススを引き込まねば、例えば本陣など出る幕もなく殲滅されてしまえば、全てご破算となる。


 囮とは言え、しっかりと戦う必要がある。


「あそこの飛行艦を使えないのですか?」


 遠藤二等兵は言った。


「と言うと?」


「だから、つまり、あの艦砲を動かせば、結構いい感じになるんじゃないでしょうか?」


「はあ……」


 何を言い出すかと思えば、荒唐無稽なことを。あれは機能が停止したから地に落ちているのであって、それが動く訳はないのだ。


 眞柄二等兵も半ば呆れたような様子であった。


 遠藤二等兵もその空気から何かを察したように黙り込んでしまった。


「私なら、出来るやもしれん」


 彼女に助け船を出したのは、意外にもティーガーⅡであった。


「出来る、とは?」


「人間の兵器なぞ、我々の技術と比べれば児戯のようなもの。それを再起動させることは可能かもしれない」


「なるほど…… 確かに、通信機の例もありますしね」


 冗談ではなさそうである。ティーガーⅡなら、本当にやってくれるかもしれない。


「じゃ、早速現場に行って試せばいいんじゃないか? クラッススがいつ来るかも分からないしな」


 磯埜二等兵は言った。


 合理的な意見である。これもまた、ここで議論したところでどうにもならない話だ。


 と言う訳で、その後作戦の詳細を詰めた俺達は、例の飛行艦の墓場にやって来た。


 飛行艦と言うのは、大きさの感覚としては洋上に浮かぶ戦艦とほぼ同程度である。


 その側に立てば、視界の端から端までが装甲に覆い尽くされる。ティーガーⅡも既に見る人を圧倒する程の気迫を備えているが、こちらはそれすら塵のように見える程だ。


「では、各班、仕事を初めて下さい」


 眞柄二等兵が作業開始を告げると、帝國の将平は素早く仕事を始めた。学徒の生き残りとあって不安もあったが、杞憂だったようだ。


「これが、旗艦と言う奴なのか?」


 ティーガーⅡは尋ねた。


「ああ。副砲の配置、艦橋の形からして、こいつがこの艦隊の旗艦、近江だ」


 磯埜二等兵と言うのはそのなりに反して情報屋だ。こういう質問にはそつなく答えてくれる。


 眞柄二等兵、磯埜二等兵、ティーガーⅡ、俺の4名(遠藤二等兵は置いてきた)は、戦艦近江に入る。


 中には、当然だが、誰もいなかった。それに死体の一つもない。全員がとっとと逃げたのだろう。


「取り敢えずは艦橋まで行けば何とかなるかもな」


 磯埜は言った。確かに、艦の全ては艦橋で制御出来るようになっている。


「昇降機は、まあ動きませんよね……」


 眞柄二等兵は残念そうにため息を吐いた。そりゃ、動いてる訳がないだろう。


 俺達は暗い楼閣を階段で登った。ティーガーⅡの作った懐中電灯も再び使う時が来た。


「うっ…… 何だ、この臭いは?」


 艦橋に入ろうとした時、その奥から鼻をつく凄まじい臭いが漂ってきた。これは明らかに死体の臭いである。


「お前達、こんなもので怯むのか?」


 ティーガーⅡ以外は苦しんでいるのだが、ティーガーⅡだけは平気そうである。まあ機械なのだから臭いなど関係ないのだろう。羨ましい。


「仕方ないだろ。室内は臭いがこもる」


 外ならまだよかった。戦場に充満した腐敗臭も、ある程度は拡散してくれた。


 だがここではそんなことは全くない。死体の臭いが直に来る。


「はあ…… 残念な奴らだ。私は進むぞ」


「わ、分かった……」


 ティーガーⅡは容赦なく扉を開いた。


「これは……」


 目を引くものはただ一つ。


 艦橋に入ってすぐ、艦長の席に一体の骸が腰掛けていた。彼が臭いの原因であろう。


 顔も手も、外から見える部分は腐り始めている。だがまだ原型は十分留めている。


 服に勲章を沢山ぶら下げていることから、これがそれなりの地位の軍人だと言うのは分かる。


 しかし、具体的な階級が何かは俺には分からん。肩章の見分け方などすっかり忘れてしまった。


「これは、浅井少将閣下かもしれませんね」


 眞柄二等兵は言った。


「誰だ? それ」


「私達の、と言うより九州全体の軍の最高司令官です。どこかで戦死されたという噂は聞いていましたが……」


「そうだな。こいつの勲章は浅井中将の勲章だ。間違いない」


「へえ。これが少将閣下ねえ……」


 眞柄二等兵らがこんな羽目に遇っている原因とも言える人物だ。どういう感情を持つべきか分からん。


「しかし、何でこいつだけが死んでるんだ?」


「自殺だろう。ほら、腹に刀で斬った痕がある」


「……本当だ。確かにあるな」


 腹には確かに横に一文字に斬りつけた痕がある。つまるところ、割腹自殺と言う奴だ。

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