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「まあまずは奇襲を前提として話を進めようか」
「そうですね」
「そうだな」
いやお前が突撃とか言ったんじゃねえか。
「奇襲、となると、やはりあの飛行艦の墓場が役に立つでしょうか?」
眞柄二等兵は言った。
「そうだな。まさにおあつらえ向きだ」
飛行艦なら隠れるところは沢山ある。艦内に隠れておけば、兵士の数十人、ほぼ完全に隠し通せるだろう。
もっとも、クラッススがすぐそこにいたとして、兵士の数十人でどうにかなるとは思えないが。
「まずはクラッススを墓場の奥深くまで誘い込む必要があるな」
磯埜二等兵は言った。
「確かに……」
それもそうだ。墓場の端っこに陣取っていてはクラッススは近くまで来ない。
つまり囮要員が必要だ。
「そしたらいよいよ兵が足りないよな?」
眞柄二等兵の言うことはもっともだ。囮にもそれ相応の人数が必用な訳で、それを差し引いた兵しか奇襲に使えない。
やはり兵士の絶対数が足りなさ過ぎる。奇襲をすることすらままならない。
「手詰まりだな」
「同意する」
そもそも戦闘と言うのは双方が勝てる希望を以て戦おうとするのに、作戦を考えている時点で勝機の一つも見出だせないとは絶望的な状況過ぎる。
眞柄二等兵も磯埜二等兵も、何も思い付かなくなって黙り込んでしまった。
いやまあ、俺も俺でTigerⅡと言う最大戦力を隠してはいるんだが、言おうかなあ?
しかしなあ……
「元気ないですねえ? 大丈夫ですか?」
「ん?」
気付くと磯埜二等兵の後ろに遠藤二等兵が満面の笑みを浮かべて立っていた。いつの間に……
て言うか、何か知らないけどティーガーⅡも遠藤二等兵の隣に平然と立っている。
「うおっ?」
磯埜二等兵は変な声を出しながら振り返った。人は驚くと普段の姿勢を忘れるものだ。
「何しに来たんだ?」
「ちょっと、これをお届けに」
遠藤二等兵の腕には籠が引っ提げられており、そこには握り飯が山ほど入っていた。
「食って、いいのか?」
「はい! どうぞ!」
と言いつつ、遠藤二等兵は握り飯を手にとって、磯埜二等兵の手に無理矢理握らせた。
また同じことを凄まじい速度で俺と眞柄二等兵に対してもした。
握り飯を手に持って、一瞬唖然としてしまって言葉も出なかったのだが、すぐに俺は正気に戻り、ティーガーⅡに目がいった。
「お前は何してるんだ?」
「私は、こいつに連れまわされていただけだ」
「懐柔されたのか?」
このティーガーⅡに限って?
「い、いや、ただわざわざ抵抗するのも無意味だと思っただけだ」
「はあ」
思いっきり懐柔されている気がするんだが。
「ところで、ライ、お前達は何をしているんだ?」
「作戦会議をしていただけだ」
「私も参加してよいか?」
「まあ、いいぞ」
面倒臭くなりそうだが。
「じゃあ私もいいですよね!?」
「あ、ああ……」
遠藤二等兵も、入れてやるしかなかろう。
と言う訳で、5人で円陣を組んだ。
まあ一応、何か有力な意見が出てくることにも期待して、ここまでの流れをざっと二人に説明した。理解はなかなか早いようで助かる。
「つまり、本陣を叩く攻撃力が必要、と言う訳ですね?」
「そういうことだ」
「じゃあ、ティーガーⅡさんの本体にやってもらえばいいのではないでしょうか?」
「何?」
ティーガーⅡに本体と言えば、ティーガーⅡ重戦車、こいつの本体を指すとしか考えられない。
だが俺はまだ一言もそれについて説明したことがない。ここの誰も、こういう少女の形をしたアイギスだとしか思っていない筈なのだ。
それがどうして知っている?
「本体、とは?」
「ああ。何のことだ?」
やはり、真柄二等兵と磯野二等兵は知らない。
「ええと、あれ、お二人ともご存知ないのですか?」
両名は揃って首を縦に振った。
どうしよう。本当にどうしよう。ここで言うしかないのか?
「ええ、じゃあ、東條さんは、知ってますよね?」
「あ、ああ。勿論だが……」
「何の話ですか?」
真柄二等兵ははぐらかしても無駄そうである。
はあ。言うしかないか。俺が隠してたって言うことで印象が悪くなるんだが、それは嫌なんだが、もうどうしようもない。
「つまりだな……」
こうなっては仕方がない。俺はティーガーⅡについて洗いざらい語ることとした。
どうして本人に言わせなかったのかは謎だが。
「なるほど…… その力があれば、或いは何とかなるかも知れませんね……」
眞柄二等兵は、隠していたことを特に怒ったりはしないようである。
しかし、磯埜二等兵はそうではないようだ。
「おい、どうしてそんな大事なことを俺達に隠していた?」
「お前ら、戦車型のアイギスなんか見たらいよいよ信用しないだろう?」
ティーガーⅡがまだ少女の姿をしていたからあまり敵愾心を持たれずに済んでいた。
だが、それが生身の兵士ではどうにもならない戦車だったら話は別だろう。
信頼と言うほどのものでは断じてないが、現状の一応の共闘状態すら結べなかったに違いない。




