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1-5-1

 元いた安息の地を捨てて数日、俺達はどこかの廃村にいる。見るからにколхоз(コルホーズ)(集団農場)の類だ。そこそこの規模の集落の跡である。


「これから、どうしましょうか?」


 眞柄(真柄)二等兵は言った。


 クラッススに喧嘩を売ったはいいものの、逃げてばかりだったこいつらが如何にして戦うかと言うのは全く考えていないのである。


「俺に聞かれてもなあ……」


「ですよねえ……」


 眞柄二等兵はため息を吐いた。ここまで何も使わず徒歩で歩いて来たのだ。誰もが肉体的にも精神的にも疲れている。


「おい、眞柄、いいか?」


 磯埜(磯野)二等兵は無骨に割り込んできた。


 眞柄二等兵が俺に目で許しを求めると、俺もまた軽く頷いて返した。


「ああ。何だ?」


「朗報だ。こんなものを見つけた」


 と言って磯埜二等兵は小さな電子機器を取り出して、そこに何かの映像を流した。


「何だ?」


 俺も気になって見てみる。


 映っていたのは、広い平野に地平の果てまで並んでいる飛行艦の群れであった。


 いや、艦隊の所々が吹き飛んでいる。つまり、これらはことごとくΑιγίς(アイギス)に撃沈(或いは撃墜)された飛行艦だと分かる。


 さしづめ、かつての戦場の跡を見つけてきたという感じだろう。まあそんな昔の話ではないが。


「で、これが何で朗報なんだ?」


「ちっとは自分で考えろ」


「ええ、教えてくれよ 」


「ここを戦場とすれば、多少はマシになるかも知れないってことだ」


 なるほど、脳筋だと思っていたが少しは頭が回るらしい。


 平地でアイギスとぶつかると言うのは、最悪の状況だ。それは機関銃で固められた塹壕線に生身で突っ込むようなものである。


 故に、アイギスと戦おうとするならば、少しでも入り組んだ場所で戦う方がいい。奇襲を仕掛け白兵戦に持ち込む、つまり自爆すれば、最高でアイギス一体に対し人命一人分の消費で戦える。


 また、帝國の飛行艦ともなれば、そうそう簡単には壊されないだろうから、遮蔽物としては相当優秀な部類に入る。


「それはそうだけど……」


 眞柄二等兵はちっとも嬉しそうではない。


「何だ?」


「この兵力でどうにかなるとは思えない」


「そこを何とかするんだよ」


 磯埜二等兵は眞柄二等兵の肩をポンと叩いた。もっとも、当の彼にも自信があるようには思えなかったが。


 さてどうしたものか。ここにいるのはまだまだ子供な奴らばかり。それも全員が士官候補生未満の技能しか持っていない。


 ここは大人の俺が力添えしてやるところではないだろうか。


「なあお前ら、『勝つ』って何だ? 何を以て勝利と為す?」


 クラッススの兵を全部殺せば、まあそれも勝利ではあろうが、実際の戦争でそんなことは誰もしない。


 何を目的として戦うか、それを決めないのは愚かであって、雲を掴もうとするようなものである。


「何とかクラッススを撃退すること、でしょうか?」


 眞柄二等兵は言った。


 実に普通の回答である。ただ、それは現実的とは言えない。


「出来ると思うか?」


「東條さんもそれ言っちゃうんですか?」


「ああ。現実的に考えて、無理だろうな」


「はあ…… そうなんですね……」


 眞柄二等兵は視野が狭いようだ。俺は勝ち目がないなんて一言も言っていないのに。


 ところが、磯埜二等兵はこれまでになく真剣な面持ちで考え込んでいるようだった。そして俺の思惑を察した様子で顔を上げた。


「敵の大将を刈ると言う事か」


「正解。ほぼ唯一勝機が見出せる策はそれだ」


 如何なる手段を以てしても、敵野戦軍自体に打撃を与えることは不可能だ。よって、クラッスス本人を殺すことを考えるしかない。


 奴が直接出てこなかったらそれで終わりと言う甚だ運任せなものではあるが、まあ、これしかない。


「しかし、クラッススは自分から出てくるんでしょうか?」


 眞柄二等兵も俺と同じ懸念を抱いたようである。


「それは分からんが、あいつの性格からするに、自分から出てくる公算はそれなりに高いと俺は思う」


「まあ、分からなくもないですが……」


 あの劇場型犯罪が大好きそうなクラッススが、決戦を挑もうと言って、後方から臆病に指揮を執るとは思えない。そんな希望的観測である。


「どの道それしかない。クラッススだけを狙う作戦を考えようじゃないか」


「桶狭間の戦いみたいなことをやればいいんですよね」


「そういうことだな」


 やはり奇襲が妥当だろう。桶狭間の時の織田軍はそこまで不利な訳でもなかったと言うのが定説ではあるが、とは言え、正面から当たればまず勝てない戦力差をひっくり返したのは確か。


「或いは大阪の陣の信繁に倣うか」


 磯埜二等兵は言った。


「いけるのか? それ」


 大阪夏の陣で真田信繁は、最後の作戦として家康本陣へ突撃した。大御所さえやってしまえば何とかなると言う、今の俺たちと同じ発想に至った訳である。


 まあ、結果は失敗に終わったんだが。


「さあな。これはただの提案に過ぎん」


「止めといた方がいい気がする」


 クラッスス一点を目掛けて全軍で突撃…… 上手くいく気がしない。

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