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1-4.5-1

 私、皇帝Heinrich(ハインリヒ)は宮殿の露台から無数の兵士を見下ろしていた。


 はためくHakenkreuz(ハーケンクロイツ)(鉤十字)と双頭の鷲が彼らを囲み、私の足元には皇帝の紋章を掲げた巨大な帝國政府旗がぶら下がっている。

(帝國政府旗↓)

挿絵(By みてみん)


 因みにどちらも縦向き掲揚旗である。


 大昔からのドイツの伝統的意匠である双頭の鷲は、帝國軍の軍旗の紋章である。

(帝國陸軍旗↓)

挿絵(By みてみん)


 ハーケンクロイツは、特に何かの旗と言う訳ではないが、例えば日本人が慶事に紅白の旗を掲げるような、謂わば文化のようなものである。

(ハーケンクロイツの例↓)

挿絵(By みてみん)


 兵士らは皆一糸乱れぬ隊列を成す。


 その左右には最新の戦車、自走砲、核兵器などが並んでいる。


 またその上空では、戦闘攻撃機が旋回飛行をしているのと共に、圧倒的な存在感を放つ飛行艦が浮いている。


 飛行艦とは、その名の通り海の軍艦を空に浮かべたようなもので、主に地上への支援砲撃の為に使われる兵器である。


 もっとも、ここにある十隻程度の艦隊では殆ど無力に等しい訳ではあるが。


 さて、どうしてここに兵士と兵器が集まっているのか。それは今日が閲兵式の日だからである。


 これは正直言って儀礼でしかない。とは言え、毎年の恒例行事を欠かすと言うのは宜しくない。


 もっとも、緒戦の勝利に浮かれていた去年と比べて半分未満の規模でしか行えていないが。


 さて、私がここにいる目的は、帝國の将兵に演説をする為である。実に面倒臭いが、欠かすわけにはいかないのだ。


 私が一歩踏み出すと、兵士らは一斉に姿勢を正した。これを行える程度の余力は、まだ、ある。


「兵士諸君! 余は、ヨーゼフ大帝の御代より変わらず壮健なる諸君の姿を見られることを幸福に思う。諸君らの忠君愛国の心はますます強くなった。


 昨今の戦況は厳しい。戦況は必ずしも好転せず、アイギス軍に敗北を喫することがあったのも事実。しかしそれは戦術的な一部の敗北に過ぎない。


 人類が皆力を合わせ、帝國の為にその身命を賭すならば、勝利は必ず我らのものとなるであろう!」


 自分で言っていて虚しくなってくる台本だ。


 最早人類に優位な形での勝利を掴むことは不可能、十三億の玉砕を以て敵の戦意を挫き国体を護持することを期する他なし、それが帝國指導部の共通認識である。


 しかしこのような公の場でそんなことは言えない。プロパガンダまでが敗けを認めては何もかも終わりである。


「諸君の背中には戦えぬ者がいる。諸君らが敵を通してしまえば、彼らの平穏は一瞬にして崩れ去るだろう。


 故に諸君はその命に代えても帝國の神聖なる国土を守らねばならない。兵士の本分は確かに敵を撃滅することであるが、同時に無数の無辜の笑顔を守ることでもあると忘れてはならないのだ。


 護るにあたりて兄弟のような団結があるならば、我らの国土が欠けることはない!


 Sieg(ジーク) Heil(ハイル)(勝利万歳)!」


 これはいつものお決まりのようなものだ。


 演説の終わりに演説者がジーク・ハイルと叫べば、群衆もまた同じ言葉を大声で復唱する。


 また同時に右腕を斜め上に突き出すローマ式敬礼を(別段演説の時に限ったことではないが)両者が行い、演説は終了となる。


 これは確かファシズムの祖、ムッソリーニが始めたものだった筈だ。よくは覚えていないのだが。


 演説が終わりと言うことで、十数秒程右腕を伸ばした後、私は宮殿の中に戻った。


「無駄なことにお金をかけるのですね」


 いつもの執務室に戻ると、そこに待ち受けていたのは物静かな少女、μύθος(ミュトス)のうちの一人、M26Pershing(パーシング)であった。


 もっとも、声音こそ静かなのだが、その内容はなかなかえげつない子である。


「これが儀礼と言うものだ」


「人類は本当に不合理ですね」


「ははは。何も言い返せないよ」


 そんなこと誰でも気付いているのに誰も止めようと言い出せない、そんなことはよくある話で、しかもそれは政府と言う規模ですら存在している。正しく人類の陋習である。


「私も出してくれればよかったのに」


「人前に出たいと?」


 珍しいことを言うものだ。


「あんな雑魚みたいな戦車よりは、私の方が余程見栄えがよいと思うだけです」


「見栄え、か……」


 見栄えがいいかと問われると、正直微妙と言わざるを得ない。


 あそこの帝國の戦車と比べて圧倒的に強いことは確かなのだが、M26の見た目については、あまり格好よいものではないと思う。


「私が格好よくないとでもお思いですか?」


 な、心を読まれただと……


「いやいや、君は十分な威厳を持っているよ」


「本当ですか?」


 M26は殺気を帯びた笑みを浮かべた。末恐ろしいことこの上ない。


「あ、ああ。本当だ」


 私は動揺を隠せなかった。


「ふふ。まあいいです。ところで、あの空に浮いているのは何なのですか? 飛行船には見えませんが」


「あれは、飛行艦だが」


「聞いたことがありません」


「そうなのか?」


「はい」


 確かに、考えても見れば、この子に与えていた仕事は全て国内の民主主義者の検挙だった。前線にしかいない飛行艦を知らないのも頷ける。


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