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1-4-13

「おや、その声は前に会ったお二人か?」


 十中八九俺達のことだ。


 しかし、どうしてそんなに聞き取れるのか。と言うかそもそもどうしてこの通信機がアイギスと通じているのやら。


「そうだが、どうしてお前がこの通信機を使える?」 


「付近に我々の統制を離れた信号を検知し、取り敢えず通信をかけてみたら諸君に繋がったという訳だ」


「人間の通信機全部を検知出来るのか?」


「いや、違う。これは我らの通信機ではないのか?」


 なるほど、大体分かった。この通信機は恐らくアイギスの通信機でもあり人間の通信機でもあるのだ。


 まあつまり、ティーガーⅡが修理した時に何かしでかしたと考えられる。


「人間の通信機だが……」


 ティーガーⅡをちょっと睨んでみる。するとティーガーⅡは面白い程分かりやすく動揺を示した。


「わ、私は、地球の裏側まで届くようにちょっとばかし改造を施しただけだ」


「それだよ、それ」


「すまん……」


 ティーガーⅡのせいだった。


 まあそれはどうでもいいのである。今重要なのは、クラッススと俺達の通信が繋がっていると言う事実のみである。


「なるほど。事情は分かった」


 今の会話はクラッススに筒抜けだったらしい。まあ説明が省けたと思って喜んでおくか。


「まあよい。私が用があるのは諸君ら二人ではない。その他大勢の諸君だ」


「わ、私達ですか?」


 眞柄二等兵は言った。まあそういうことだろう。大方、降伏の勧告でもしに来たか。


「そうではあるが、お前、そこの人間らの代表か? ああ、申し遅れたが、私はアイギスの司令官、クラッススだ」


「ええ、質問に対しては、はい。私は眞柄孝直二等兵と言います」


「おい眞柄」


 その時、腕の自由になった磯埜二等兵が眞柄二等兵をど突いた。


「な、何だよ」


「なにアイギス相手に敬語使ってやがる。ふざけてるのか?」


 磯埜二等兵はそれが相当気に入らないらしい。まあ、無理もない話だ。相手は磯埜二等兵の友を大勢殺した張本人なのだから。


「だけどなあ、敵国の司令官でも礼を以て接するべき……」


「馬鹿か。もういい、俺が話す。おい、クラッスス! 聞こえてるか?」


「全て、聞こえているとも」


「用件は? さっさと言え」


「諸君らに降伏するよう伝えに来た。我らが軍門に下ると言うのなら、生命の保証はもちろん、その他のゲットーと変わらぬ待遇を約束しよう。悪い話ではあるまい」


 ゲットーとは概ね収容所と言った意味である。アイギスは占領地の人間について、特定の区画を作ってその中に押し込め、そこでの自由を約束するという統治をする。


 まあそれは大体の場合、人間がもともと生活していた場所、つまり都市になる。


 またゲットーでの暮らしは、最低限の衣食住には困らないくらいの水準があるらしい。確かに悪くない話とは言えるかもしれない。


「言いたいことはそれだけか?」


「そうだ」


「はっ。俺達がそんなものを受け入れると? あんたも随分頭が弱いようだなあ」


 磯埜二等兵はクラッススへの敵意を全く隠そうとしない。


 何の検討もせずに一蹴だ。磯埜二等兵の辞書に降伏の文字はないようである。


「ちょっ、磯埜! 勝手に決めるな!」


 珍しく眞柄二等兵が怒声を発した。が、磯埜二等兵は意に介していないと言った様子。


「お前だったら降伏するのか?」


「い、いや、そんなことはないが」


「じゃあ何も変わらないだろ?」


「ま、まあな」


 結局、眞柄二等兵も降伏する気は端からないらしい。流石、この状況を生き抜いてきただけあって、骨がある。


「交渉は決裂か。実に、残念だ」


「だったら俺達を攻撃でもするのか?」


「そうしたいところだが、生憎今は手持ちの兵が少ない。また後で大兵を率いて戦おうではないか」


 どうやらクラッススは本当に偶然にも俺達を見つけたようだ。偵察の部隊くらいしか配下にないのだろう。まあそれは不幸中の幸いである。


「望むところだ」


「おいおい、大丈夫なのか?」


 しかし、奴が本気を出すとなれば話は別だ。奴は使えない貴族の将校なんかとは訳が違う。


 それに、これまで逃げ回ってきた寡兵のこいつらがアイギスとの会戦をどうにか出来るとも思えんが。


「こう言う時は強気に出ておくもんだろ?」


「お、おう、そうだな」


 強がりらしい。


「まあよい。今度は千の兵を集めて諸君らに相対しよう。そしてその時にはもう一度降伏の機会を与えよう。では、さらばだ」


 クラッススは通信を切った。


「はあ…… どうすんだこれ……」


 眞柄二等兵はため息を吐いた。まあ、そりゃそうなるだろう。


「こうなったら、まあ戦うしかないだろうな」


「正気ですか?」


「さあ」


 普通に考えて正気ではない。


 帝國の軍大学の基準からすれば、千のアイギスにはその廿倍、二万の兵をぶつけなければ話にならない。


 しかしこちらが動員出来る兵力はアイギスの数より少ないのである。


 さて、どうしたものか。


 まあ取り敢えずはここから離れることに注力した方がいいか。

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