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騒がしい。実に騒がしい。一体全体何があったんだ?
横を見るとティーガーⅡは静かに座っている。
「おはよう、ライ」
「あ、ああ、おはよう」
いやいや挨拶してる場合じゃないだろ多分。
「外はどうなってる?」
「アイギスが接近してきている。ここが割れたかただの偶然かは分からんが、ここにはもう居られないだろう」
「はあ? 何で俺をさっさと起こさないんだ?」
そんな緊急事態の中、俺はすやすや寝ていたのである。あり得ないだろ。
「別に、お前を起こしたところで何も変わらないだろう。寧ろ邪魔だ。逃避行の準備は彼らに任せるがよかろう」
「ま、まあ、それはそうかもしれないが……」
「が?」
「いや、いい」
確かにティーガーⅡは間違っていない。部外者の俺などただの邪魔になるだけだろう。
所詮は気持ちの問題だ。そしてこのような時こそ、合理的な行動のみを取るべきである。
「まずは俺達が逃げる準備をするか」
「何をするんだ?」
「何をって……」
冷静になって見回してみると、特に何もないことに気付いた。
なんなら今すぐにでもここから逃げ出せる。
「何もないな」
「ああ。だから私達はここで待っていよう」
「そう、だな」
と、すっかり拍子抜けして座り込もうとしたその時、テントの入り口が大きく開かれ、そこにはぜえぜえ息を切らしている眞柄二等兵がいた。
「東條さん。手短に、今の状況を、説明します」
眞柄二等兵は息も絶え絶えと言った感じである。ちゃんと俺達のことを考えてくれているらしい。
だがそこでティーガーⅡが横槍を入れる。
「アイギスが来たのだろう? 知っている」
「え? ああ、はい、その通りです。分かっていらっしゃるのならありがたい。お二人とも逃げる用意を。では失礼」
眞柄二等兵は礼の一つもせずに駆け出して行った。余程切羽詰まっているらしい。
しかし、一つ疑問がある。
眞柄二等兵がここに来た目的は俺達にアイギスの襲来を教える為であった。つまりまだ俺達にはそれを伝えていないと言うこと。
だがティーガーⅡはそれを知っていた。
これはどういうことだ?
「お前、何でアイギスのこと知ってたんだ?」
「通信を傍受しただけだが」
「まさか通信機に変なことしたのか?」
「ああ。そのくらいはさせてもらった」
「はあ……」
盗聴機すらもその手で作れてしまうのか。全く、恐れ入る。
それに、ティーガーⅡはここの兵士らのことを信用はしていなかったのか。
「誤解はするなよ。私は当初、確かにここの連中を疑って盗聴機を仕掛けたが、今はそのお陰でこいつらが信用に足る者であると分かっている」
「そりゃ、よかった」
さて、暫く待っているとまた眞柄二等兵が飛んできた。
「これから出発します。ええと、一緒に来ますか?」
ああ、そういう選択肢もあるのか。とは言え、俺もそこまで薄情な奴じゃない。
「ああ。同行しよう。ティーガーⅡもいいな?」
「私はライについていく」
「準備は出来ていますね?」
「ああ。問題なく」
彼らは皆徒歩である。まさかこの時代に本当の意味の歩兵を見ることになるとは思わなかった。
俺達はその真ん中辺りに入ることとなった。眞柄二等兵の近くである。ついでに磯埜二等兵もいる。
その磯埜二等兵だが、どうも通信機を運ばされているらしい。まあここの兵士の中で一番体力がありそうな彼が選ばれるのも無理はないが。
「磯埜二等兵、それ、私が持とうか?」
「ティーガーⅡ?」
奴らしくないことの極みみたいなことをティーガーⅡは言った。
「何だ? どういう風の吹き回しだ?」
磯埜二等兵は真に受けてはいないようである。だがティーガーⅡは本気、と言うかそれがさも当然のことのように続ける。
「お前に体力を浪費されては私の盾が減る」
「ははっ。お前に力負けする程、落ちぶれちゃいない」
「ほう? 私に勝てると思っているのか?」
「そりゃそうだろ」
確かに、磯埜二等兵は見るからに強そうな大男で、ティーガーⅡは吹けば飛びそうな少女である。
しかし、ティーガーⅡの腕力の凄まじいのを俺は知っている。恐らくティーガーⅡに分があるだろう。
「ふっ。ならば見るがいい。私の力を」
ティーガーⅡは磯埜二等兵が両脇に抱えている2つの通信機を半ば無理やり取り上げた。
「なっ」
そしてそれを重ね、レストランの店員みたく片手に載せて、悠々と持ち上げて見せたのである。
これには流石の磯埜二等兵も目を白黒させていた。
「1個30キロはあるんだぞ。それを軽々と……」
やっぱりとんでもねえ機械の体だ。
だがその時、通信機から僅かに雑音が流れ出した。
何かと思って耳を澄ますと、それは一瞬にして人の声となって結実した。
「……ああ、ああ、諸君、聞こえるかね?」
「あ」「こいつ」
俺は、正確には俺とティーガーⅡはその声の主を知っている。
その無駄に芝居がかった声の主は、ここらのアイギスの司令官とか言うクラッススである。




