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1-4-11

 まあそんな世間話はすぐに終わり、磯埜二等兵はどこかへ去り、俺とティーガーⅡもテントに戻ることとした。


 時間はもう深夜と言ってもいい時間である。


 そう、寝る時間である。


「狭いな」


「ああ。狭いな」


 格好つけてテントは二人で一つでいいなどと言ってしまったのだが、いざ寝床として見ると、確かに一人一つが適当であると思えてくる。


 このテントは庶民が気取った旅行やらで使うものではない。あくまで軍用の最低限の大きさしか確保されていないものなのだ。


 マトモな寝床があるだけ十分幸運と思うべきではあるが、素直に二つのテントを借りておけばとも思えてくる。


 まあ今更になってそんなことを言い出すことはしないが。


「仕方ない。さっさと寝るか」


 逆立ちしてもテントが広くなる訳はない。ここは何も考えずに寝入ってしまった方がいい。


 しかし、欠伸をしながら寝っ転がろうとした時、ティーガーⅡは言った。


「私は外で寝ても何も問題ないぞ。テントの中はお前が広々と使えばいい」


「いや、それはダメだ」


「何故だ?」


「女の子を野外で寝させる何て俺の名が廃る」


「はあ」


 確かにそれは合理的な理由ではない。そこでティーガーⅡに怪訝そうな顔をされるのも予想は出来た。


 だが、俺はこいつがそれなりに寝心地を気にするのを知っているし、例えそうでなくとも自分だけが快適に寝ると言うのには耐えられない。


「いいか、お前も中で寝ろ」


「まさか、一緒に寝たいのか?」


「んな訳あるか」


「そうか…… 私はお前と一緒に寝たいのだが……」


「は?」


 今こいつ何と?


 その潤んだ目は何だ?


 いやしかし、こいつは機械だぞ。


 いやしかし、そういう感情まで組み込まれていたりするのか?


 思考が纏まらない。


「冗談だが」


「はあ?」


 い、いや、当然のことじゃあないか。機械に恋心なぞ。


「まさか、真に受けたのか?」


「んな訳あるか。ああ、決してお前が嫌いって訳じゃないからな」


「そうか。まあ今日はここで寝ることとしてやろう」


 そんなことを言いつつ、ティーガーⅡは速攻で横になった。


 寝返り一つうったら相手を殴り付けそうな距離、だが仕方ない。俺も彼女の横に仰向けになった。


 しかしこんな至近距離で寝るのは初めてだ。


 普段はそもそも大自然の中で広々と寝てるし、前にベッドを勝手に使った時は別のベッドを使った。


 さて、この至近距離だと気付くこともある。


 すぐそこにティーガーⅡ、人の形をしたものがいると言うのに、僅かな呼吸の音も体温も全く伝わって来ないのである。


「お前、やっぱり機械なんだな」


「そうだが。何か?」


「いや、別にそれ以上の話はない」


 ただ思ったことが滑り出ただけであった。


「もし人間の空気を感じたいのなら、そうすることも出来るぞ」


「どういうことだ?」


「この体は、呼吸を模して空気を口と鼻から循環させ、表面温度を310ケルビン程度にまで上げ、人間で粘膜がある場所を適度に湿らし、瞬きをして、心臓の鼓動を再現し、汗を流すことが出来る。そうすれば私を人間ではないと疑うものはいないだろう」


「そ、そんな機能があるのか」


 いやしかし、よく考えてみると、ティーガーⅡが人間らしい反応をするのは何度か見たことがある。


「たまにそういうことやるよな。それは、その時だけわざわざやってるのか?」


「質問の趣旨が分かりにくいが、まあそういうことになるな。この体の存在する目的が感情を外部に表現することであって、人間の感情の大半はその身振りによって伝えられるものであるから、その時だけ生理現象を再現している」


「へえ。合理的だな」


「私は常に合理的な存在だ」


「そうかね?」


 合理的じゃない行動を取るのをしばしば目撃するのは俺の幻覚か? そんなことはあるまい。


 まあわざわざ突っ込みもしないが。


「で、どうするのだ?」


「一回、やってみてくれ」


 正直言って少々興味がある。純粋な好奇心である。


「では始める」


「お、おう」


 すぐに変化は分かった。


 まずティーガーⅡから微かな呼吸音が聞こえてきた。この静寂の中ではほんの僅かな音でも聞こえるのである。


 だが、冷静に考えると、それ以外のことは分からん。


「どうだ?」


「息の音は聞こえるが、それ以外は分からん」


「ぬ、確かにそうだ。なれば、私の手を握ってみろ」


「あ、ああ、分かった」


 ティーガーⅡが俺の顔のすぐ横に手を出してきたのを握ってみる。


 すると確かに人間そのものの体温が伝わってきて、また人間らしく少しだけ掌が湿っていた。


 流石はアイギスの技術と言ったところだ。


「他も色々あるが、触ってみるか?」


「色々?」


「心臓とか股とかだが」


「いや遠慮しておく。これで十分だ」


「そうか。ではこれは止める。演算が疲れるからな」


 とティーガーⅡが宣言すると、か細い呼吸の音は消え、掌からは体温が消え失せた。

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