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1-1-2

 この少女、まず全身を真っ黒い軍服のようなもので包んでいる。頭には上の方がでかくなった黒い制帽を被っている。また、全身が黒いだけに、ところどころの銀の装飾が非常に目立っている。


 ただ、軍服には似ているが、下半分は膝上のスカートになっている。そして一番目を惹くのがそのスカートの側面にようわからんものがぶら下がっていることである。


 スカートの側面だけを切り取ったような形をしているが、素材は見る限り鋼鉄、しかも何故か迷彩模様だ。またそれらに加え、背中には戦車の主砲のミニチュアみたいなものを背負っている。


 髪は腰より下まであって非常に長い。それに前髪で顔の右半分を隠しているようだ。片目しか見えない。


 あと胸が無い。


 しかし、人の格好をこうもつぶさに観察している俺は変態か?  いや、まあそれは置いといて、全く意味がわからん。何なのだこいつは。


「ええ……」


 取り敢えず言語の選択である。まず俺が使える言語はドイツ語、フランス語、日本語、ロシア語、アラビア語だ。そこから選ぶ。まあ後ろの二つは聞いてわかる程度だが。


 まあ、ここはやはりドイツ語か。目の前の少女はゲルマン系っぽいし、何か鉄十字とか付けてるし、この世界で一番話者が多いのはドイツ語だからな。


「お前、名前は?」


「名前? そんなものはない」


 取り敢えず言語の選択は正解だったようだ。この少女、実に流暢なドイツ語を話す。ただ全くと言っていいほど感情が読み取れないが。


 しかし、名前がないとは。


「どういうことだ? ああ、まあ言いたくないなら言わなくてもいいが」


 誰しも人に話したくない事情はあるもんだ。


「ないものはない。それに理由などあるか?」


「ふむ、確かに…… そもそも名前があることを前提とした思考が間違っているのかもしれないな」


「おお。お前、話がわかる奴だな」


 少女は若干嬉しそうな顔をした、気がする。まあどうも哲学的な話題が好きそうなのは察した。そして奇遇なことに俺もそうだ。こいつとは楽しい会話が出来そうだ……


 ん? いやいや、名前も正体も判然としない奴と哲学の議論なんぞ出来んだろ。


「ええと、一回仕切り直そう」


 少女は頷いた。


「名前がないのはわかったが、せめてお前が何者なのかを教えてくれ。どこから来たのか、或いは何をしにここにいるのか、とかだ」


 そもそもここは人間がいるべき場所じゃない。ここにいるだけでただ者じゃないのは確かだ。


 しかし、少女は返答に困っているようだ。完全に固まってしまった。何か悪いこと言ったか?それだったらちゃんと謝る主義だが。


 何てことを考えていると、ついに少女は口を開けた。


「お前は、アイギスを憎んでいるか?」


「アイギス、ねえ……」


 普通の人間ならアイギスのことは大層憎んでいることだろう。アイギスとの戦争で陸地の過半を奪われ、生活は逼迫、戦死者は山が一個作れる程である。


 だが俺はそうでもない。いや、正確には、人もアイギスも同じくらい嫌いと言ったところだ。まあつまり、「憎んでいるか?」と問われれば、答えは否だ。


「憎んではいない。好きでもないが」


「本当か? 珍しいな」


「確かにな。で? 今のは何の為の質問だ?」


 少女には目的があるはずだ。何の脈絡も意味もなく、あんな質問をしたりはしない。まして初対面の人間には。まあこいつの常識の程は少々疑わしいものであるが。


「簡潔に伝えよう。私はまず人ではない」


「ほう」


 人ではない。ならばアイギスしかない。少しばかり二人の間の雰囲気が冷え込んだ。


「で?」


「また、今お前の前に立っている私は、本当の私ではない。私の本体たる存在が、人間その他との接触を容易にする為に作り出した、言わばインターフェースだ」


「ああ、まあ言っている意味はわかるが、にわかには信じ難いな」


 そもそもアイギスにこんな見た目をした奴はいない。人間に近い体格をし歩兵の役割を果たすものは存在するが、その見た目は如何にもロボットといった感じのものだ。


 断じてこの少女のような人間そっくりの見た目はしていない。


「ならば、証明してみせよう」


「どうやって?」


「私を撃て。そうすればわかるだろう」


「お、おう?」


 それは流石に想定外だった。流石の俺でもこんなかわいい女の子を無粋な銃で撃つのは気がひける。だが向こうは本気でやる気らしい。


「ほら。そこに銃があるだろう。早く撃て」


「ああ、わかったよ。動くなよ」


 向こうがその気なら仕方ない。俺は九九式狙擊銃をさっと構え、少女の頭に銃口を向け、引き金に指をかけた。


「本当に、いいんだな? 死んでも知らんぞ」


「ああ。その銃程度なら問題ないだろう。それより早く私の正体を実証してくれた方が助かる」


「おう。じゃあ、撃つぞ」


 ここまで頼まれたら仕方ない。そして一度決めたら俺の行動は早い。俺はパッと引き金を引いた。結構な騒音で一瞬だけ耳が聞こえなくなる。


 だが、俺はそんなことはどうでもよくなる光景を目にすることになる。


「あ、あれ……」


 さっきの少女が思いっきり倒れているのだ。ピクリとも動かない。そして額にはきれにな風穴が開いている。


 もしかして、もしかしてだが、やっちまったのか? 俺?


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