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1-4-9

 そうして案内された先では、ちょっとした広場のような場所で、十数人の若い兵士が座って談笑している。俺達のことは大して気にしていないようだ。


 地べたに座り込んでいるのかと思ったが、よく見ると地面にぼろ切れみたいな布が敷いてある。


「取り敢えず、ここに座って下さい」


 眞柄二等兵は空席のぼろ切れを指した。群衆とは少々外れた場所である。


 まあ不満はなくもないが、ここは眞柄二等兵の言う通りにしておこう。


 俺とティーガーⅡはそこに座った。


「皆さん! 出来ました!」


 と、どこかから聞いたことのある声、遠藤二等兵の声が轟いた。


「奴め……」


「落ち着けって」


 遠藤二等兵は二輪車を改造してものを運べるようにしたものを側に転がしながら群衆の中に入っていく。


 そしてそこから食器を出し、何かを入れて提供しているようだ。


 食事の配給らしい。


「何を配ってるんだ?」


「ここからでは何とも」


 最初は遠藤二等兵当人の陰に隠れて何をしているのかはっきりと視認することは出来なかった。


 だが彼女が近づいてくるに連れ、その詳細が分かってくる。


「米と、魚、だな」


「旨いのか?」


「分からん」


 ここは日本であるのだから、食事がそういうものになるのは全く自然なことである。


 だが俺はパンとバターが欲しかった。米と言うものにはあまり慣れていないのである。


 まあつまり、ロクに食べないものについては評価も出来ないと言うことである。


「あ、久しぶりです」


「十分くらいしか経ってないが?」


 改造二輪車を従えた遠藤二等兵は、ついに俺達のところまで回ってきた。俺達が最後らしい。


「そうでしたっけ?」


「ああ、そうだ」


「まあまあ。ええ、少々お待ちを」


 遠藤二等兵は茶碗を取り出すと、素早く米を盛り、それを俺の前に置いた。続いて平皿に魚を置いて、それもぼろ切れの上に置いた。


「お、おう」


 食事を地面に置くのは、別に不衛生と言う訳でもないが、微妙な気持ちになる。まあわざわざ言う程でもないが。


「ええと、東條さん、大丈夫なんですか?」


「大丈夫? 何が?」


 俺が何かしたのか? 或いは何か日本人的に非常識なことをしてしまったのか?


「その包帯です。食べれるんですか?」


「ああ、これか」


 なるほど、この包帯をしていてはものを食べられないと思われたらしい。


 無論、答えは否である。


「問題ない。普通に食べられる」


「良かったです」


 遠藤二等兵は子供っぽい笑顔を浮かべた。


 そして、次はティーガーⅡの番である。果たしてどうなることやら。


「遠藤と言ったな」


「はい。遠藤二等兵です」


「私の分は不要だ。他の者で食べてくれ」


 予想外の言葉だ。ティーガーⅡはさっきまで新しい食事を楽しみにしてるのだと思っていたのだが。


 それは遠藤二等兵も同じようで、愛想笑いをしながら訳を尋ねている。


「ええと、どうしてですか?」


「私は機械だ。故に人間の食事は必要ないし、それを摂ることに意味はない。貴重な食糧は人間が食べた方がいいだろう」


 優しさなのか遠藤二等兵への拒否反応なのかは分からないが、兎も角、ティーガーⅡは食事を拒絶したのてある。


 すると遠藤二等兵は頭を掻きながら反論を紡ぐ。


「ええと、実は食糧はいっぱいあるので、心配されることはありませんよ」


「な、いや、しかし……」


「まあまあ、まずは食べて下さいよ」


「ちょっ、待て……」


 遠藤二等兵はティーガーⅡを無視して食事の用意を進める。


 しどろもどろしているティーガーⅡを横目に、その前に手際よく二つの食器が置かれた。


「はい、どうぞ。お食べ下さい」


 遠藤二等兵はその場を去ろうとしなかった。何が何でもティーガーⅡに食べさせるつもりらしい。


「ぐぬぬ……」


 ティーガーⅡは米と遠藤二等兵の間で目を泳がせていたが、遠藤二等兵の無言の圧力には耐えきれなかったらしく、ついに箸に手を着けた。


「そう言えば、お前、箸は……」


 使えるのか、と問おうとしたが、ティーガーⅡは難なく箸を持ち米を掴んでいた。


 俺よりも箸を扱うのが上手いのではなかろうかとすら思える。


「仕方あるまいか……」


 そしてティーガーⅡは自決でもするかのように米を口に運んだ。


 最初は嫌がっていた彼女だが、しかし、米を一口食べた瞬間、その目が驚きで見開いた。


「う、旨いな! これは!」


 ティーガーⅡがそう大好評をすると、遠藤二等兵も釣られて大喜びをした。


「やったあ! やっぱ白ご飯ですよね!」


 無邪気な奴らだ、まったく。


「ああ。これまで食べたもので一番旨いぞ」


「あ、でも、そこの鮭と一緒に食べたらもっと美味しいですよ」


「さ、鮭、か」


 ティーガーⅡは言われるがままに鮭を一口頬張った。


「こ、これが、料理か……」


 ティーガーⅡは感想も言わずに目の前の質素な料理をがつがつ食べ出した。


 遠藤二等兵はそれを幸せそうに眺めていた。まあ、その気持ちも分からんでもない。

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