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1-4-8

「あの、すみません。お二人とも宜しいですか?」


 早速空気を読んでくれた(筈の)眞柄二等兵が来てくれた。


 テントの入り口を開けると眞柄二等兵がいる訳であるが、その後ろに小柄な、少女とも形容出来るような女が小さくなっている。


 まあそれは置いておいて、取り敢えずは眞柄二等兵と話すこととしよう。


「ああ。どうした?」


「はい。ええ、夕食の準備が出来たのですが、食べますか?」


「食べる」


「分かりました。まあ流石にテントの中で夕食と言うのはなんなので、ついてきて下さい」


「了解だ。ティーガーⅡもいいな?」


「ああ」


 寝っ転がっているティーガーⅡには起きてもらい、眞柄二等兵についていくこととした。


 しかし、そうなると例の女がすぐ側を歩く感じとなる。


 見た目としてはまあ普通の日本人の女性で、恐らくは眞柄二等兵の同級生であろう。


 それと何故かこっちをちらちら見てくるのだが。


「眞柄二等兵、そこの人は?」


「私ですか!?」


 女は激しく食いぎみに言った。


「あ、ああ、そうだが……」


 そしてその瞬間俺は察した。こいつは俺が嫌いな人種だと。


 だが、ここで話を切るという訳にもいかず、取り敢えず自己紹介くらいはし合うこととした。


「私は遠藤二等兵と言います! ここでは主計を担当しています!」


 なるほど、こんな場所にきちんとした役割分担があるのは驚きだが、兎も角、食事を用意してくれるのは彼女らしい。


 そんな遠藤二等兵に無礼を働く訳にはいかん。


「俺は東條賴と言う。でこいつはティーガーⅡと言う」


「あなたがティーガーⅡさんですか!」


 遠藤二等兵は満面の笑みを張り付けながらティーガーⅡに滑り寄っていく。


 一方のティーガーⅡは眉をピクピクとさせながらじりじりと後退している。稀に見る拒否反応である。


「あ、ああ。わ、私こそ、誇り高きⅥ號戰車、ティーガーⅡ、だ」


「か、かわいい……」


 遠藤二等兵は、そんな訳の分からないことを言いながら、また目を燦々と輝かせながら、また一歩また一歩と距離を詰めていく。


 その姿はさながら獲物に餓えた獣のようだ。となればティーガーⅡはさながら退路を経たれた羊のようである。


「ら、ライ……」


「ああ…… ドンマイ」


「ええ……」


 俺も関わりたくないのである。


 ティーガーⅡが狙われているのであれば、そのまま食われてもらおう。賢明な作戦である。


「な、何なんだ、お前は……」


 あんなに声が上ずっているティーガーⅡは初めて見る。実に面白い。


「はっ! 私としたことが。つい目の前のものに夢中に」


「そ、そうか」


 遠藤二等兵は本当に理性を取り戻したと言った感じだ。目から狂気が消えた。


 しかし、そのあまりに激しい変わり身に俺もティーガーⅡも困惑させられてしまった。人間たる要件を忘れているんじゃないか?


「じゃあ目が覚めたのならさっさと……」


 ティーガーⅡは逃げ出そうと試みる。


「あの!」


 が、そうは問屋が卸さないようである。


「う、うん?」


「あなたをもっと観察していいですか……?」


 前言撤回である。これはまさに狂気そのものだ。


「え、ええ…… ええと……?」


 ティーガーⅡは本気で気圧されている。あのティーガーⅡをここまで追い詰める威圧感があの見た目のどこから沸いてくるのか。


「遠藤二等兵!」


 その時、眞柄二等兵は仰々しく遠藤二等兵の名を叫んだ。まるで佐官くらいの上官のようである。


「は、はい!?」


 同じことを自分がやられた時はビビるらしい。


「この人達は客人だ。迷惑をかけることのないように」


「は、はい……」


 眞柄二等兵は結構怒っているようだ。


 遠藤二等兵は、その気迫に圧されたか、ティーガーⅡを口惜しげに見つめつつも後退していった。


「で、では、私はこれで失礼します」


 そして最後に苦笑いをしながら一礼すると、遠藤二等兵は走り去っていった。またティーガーⅡは心底安心したようにため息を吐いた。


 しかし、彼女が消えたとなると疑問が一つ。何故に遠藤二等兵は眞柄二等兵に同伴して来たのだ?


「なあ、あいつ何だったんだ?」


「ああ、彼女は私の後輩です」


 こんな状況でも礼を失することがないとは畏れ入る。いやまあ、そういう話じゃないのだが。


「いや、そうじゃなくて、何でお前についてきたんだ?」


「それは、彼女が客人の姿を一目見たいと言い出したからですよ。それで、そのくらいならいいかと思ったのですが、結果はこのように…… すみません」


「いや、謝ることはない」


 誰にも悪意はなかったし、何の損害も生じてはいない。それに俺達にああも親しげに接してくれる人間は少ない。


 謝罪など全くもって必要ないのである。


「なあ、ティーガーⅡ」


「私は謝罪を求めるぞ。何なのだあいつは。まだアイギスの軍集団の中に突撃する方がマシだ」


 根に持っているぞ、こいつは。


「私からも謝りますので、どうか……」


「いや、その必要はない」


「と言いますと?」


「何故に本人でない者が謝るのだ? 私は奴本人に謝罪を求めるぞ。さあ奴の居場所に案内してくれ」


 ティーガーⅡはすっかり調子を取り戻した。その感情はさっきの不甲斐ない自分への怒りだろうか。


「は、はい。では、こちらへ」


 眞柄二等兵はへこへこしながら俺達の道案内を再開した。

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