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1-4-5

「どうだ? これでもティーガーⅡが敵だと言い張るか?」


 包帯の下に笑みを浮かべつつ言った。


 すると磯埜二等兵は観念したように言う。


「分かった分かった。そいつを入れることくらいは認めてやる」


「そりゃどうも」


 そして俺たちから眞柄二等兵に視線を合わせた。


「眞柄、さっさと行くぞ」


「あ、ああ。そうしょう。三度目ですけど、ついて来てください」


 磯埜二等兵が先導し、俺たち4人は森の中を歩いた。


 ここらで戦闘はなかったらしい。死体などは皆無であり、代わりに人類とアイギスの戦争などつゆ知らぬ鳥がさえずっている。


 まったくどうして知的生命体とやらは下らない諍いばかり起こすのか。


 そうして歩いていくと、やがて少々木々が開けた場所に出た。その辺りだけ陽の光が殆ど全部届いている。


 そこには大小の箱やテントなどが並べられている。そして十数人の軍人らしき人間がいた。


 まあ当然のことながら、俺達を見る目は怪奇現象でも見ているかのようである。


「ここです。取り敢えずの目的地は」


「人が少なくはないか?」


 さっきの話だと生き延びた学生はもっといた筈であるのだが。


「ええ。ここにいるのは一部です。万一アイギスに発見された時の為に、周辺に人を分散しているんです」


「なるほどな」


 またも戦うことなど眼中にない戦略である。色々な意味で実に残念だ。


「まあ取り敢えず、テントは余っていますので、少し休んではいかがでしょうか?」


「ああ、そうだな。ティーガーⅡもいいよな?」


「構わんぞ」


 磯埜二等兵はどこかに行ってしまい、俺とティーガーⅡは眞柄二等兵に案内され、そのテントに案内された。外観は汚れているが、中身に問題はなさそうである。


「あ、あの、テント一つで大丈夫ですか?」


「ん? と言うと?」


「いや、なあ、一応男女な訳ですし、分けた方がいいかなと」


「ああ、そういう」


 確かに普通の男女だったら一つのテントというのは宜しくないだろうが、ティーガーⅡはそういうのじゃない。


 まあ要するに、これで十分である。


「問題ない。これでいい」


「そうだ。私は機械だぞ。何を心配しているのだ?」


 と言いつつティーガーⅡは面白がっているようだ。


「そ、そうですよね。あまりにもティーガーⅡさんが人間っぽいもので、つい……」


「そ、そうか。やはり、私の擬態は完璧だな」


 ティーガーⅡの無駄に尊大な態度に眞柄二等兵は苦笑いを返した。


「ああ、はい。それと、代えの軍服を持ってきますね」


「ああ。頼む」


「ではまた」


 眞柄二等兵は一礼すると小走りで去っていった。


 俺とティーガーⅡは貸してもらったテントに入った。


「なあ、そう言えば、お前の本体はどうしたんだ?」


 ティーガーⅡの本体、中世の重戦車ティーガーⅡは、眞柄二等兵に会ってから一度も見ていない。


「最後に降りた場所にそのまま停めてある」


「大丈夫なのか?」


「ああ。アイギスには見つかりにくいだろうし、万一見つかっても十分戦える」


「それはそうだが、結構離れてるのは大丈夫なのか?」


 こんなにも二つのティーガーⅡが離れたことはこれまでなかった。離れすぎたら突然ここのティーガーⅡが倒れるとか、そういうことがあるかも知れない。


「ああ。問題はない。ベルリンからモスクワまでくらいの距離ならば、全く問題なく意識を共有出来る」


「ああ、全然大丈夫だったな」


 俺の心配は悉く杞憂だったようだ。


 九州の中くらいならどこに行っても問題はないようである。流石はアイギスの技術力と言ったところだ。


「軍服、持ってきましたよ」


「感謝する」


 ティーガーⅡは眞柄二等兵から綺麗な軍服を受け取った。そして綺麗に畳んであったのを雑に広げて、品定めでもするように観察する。


「少し、大きくはないか?」


「すみません。その規格のものしか持ち合わせがありませんでした」


「一時のものだ、まあいい。これよりはマシだ」


「おい、ティーガーⅡ、ちょっと待て」


 この次にティーガーⅡが取るであろう行動は容易に予想出来る。よってまずは先手を打って制止する。


「俺と眞柄二等兵が出てから着替えろ。いいな?」


「あ、ああ。構わんが」


「そういうことで、じゃあな」


 ティーガーⅡが何もしでかさないうちに、俺は眞柄二等兵の腕を引っ張ってテントの外に出た。


「ええと……?」


 眞柄二等兵は見てはいけないものでも見てしまったかのような顔をしていた。


「な、何だ?」


「お二人は、その、まさかそういう関係で?」


「は?」


 いや、確かに、今の瞬間のやり取りだけを見れば、良からぬ考えを抱かれても仕方がない。軽薄だった。


「バカかお前は。あいつは機械だぞ?」


「し、失礼しました」


 若干にやけてるのが気になるが、まあいい。まったく、分かりやすい奴だ。


 だが、そんなことを自然に考え付けると言うことは、眞柄二等兵のアイギスへの敵愾心は相当に薄いと言うことだ。


「何かあったのか……」


 人の思考は経験の反復だ。突拍子もないことを考え付く奴は、それ相応の経験がある筈なのである。


 俺もそうであるように。


「え? 何ですか?」


「いや、何でもない」


 気になりはしたが、そこまで詮索するのは宜しくないと思った。


「そ、そうですか」


 眞柄二等兵はそっと目を伏せた。

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