1-4-4
「敵意を向けてくる人間と仲良くする必要などないだろう?」
「ほう。やはりアイギスは人の敵か」
「ああ、ちょっと、お前ら」
ダメだ。こいつら仲良くする気が全くない。決して混ざらない水と油だ。
「ライ、こんな奴ら捨て置こう。私達の協力者足り得ない」
「それはなあ……」
別にそれでもいいっちゃいいんだが、眞柄二等兵のせっかくの好意を無下にするというのは気が引ける。
こいつらとずっと行動を共にするつもりはないが、少しくらいは仲良くしてもいいではないか。
「おい、あんた、そこのアイギスが味方だって証拠はあるのか?」
磯埜二等兵は不機嫌に尋ねてきた。
「証拠?」
非常に古典的な面倒臭い質問である。人の気持ちを証明するなんて不可能だろうに。
まあ精々挙げられるものと言えば……
「俺がこうして生きてる。それで十分じゃないか?」
もしもティーガーⅡが人間の敵だったら、弱い人間に過ぎない俺が生きてる訳がない。
まあ、それくらいしか俺から言えることはない。
「あんたを生かしておいてもアイギスには何の不利益もないだろ。或いは、俺達のような人の多く集まる場所、そういうのを探し出す為の罠じゃないと言えるのか?」
「それは難しいが……」
論理的に考えてそれを否定することは無理だ。これまでのティーガーⅡの行動が全て演技であったとすれば、人間を炙り出す為の策略という可能性も否定は出来ない。
とは言え、こいつが嘘を吐いているとは俺には到底思えない。
改めてティーガーⅡの顔を見てみる。
まあ今はその感情を収めて欲しいが、その嫌悪の顔が偽物であるとは思えない。とても人間らしい。
「ん? ライ、お前まさか私を疑っているのか?」
「いや、そんなことはない。寧ろ逆だ」
「そうか。良かった」
ティーガーⅡが一瞬微笑んだ気がした。
一方の磯埜二等兵の方は、気狂いでも見るかのような目で俺を見てくる。
まあ、良く考えてみると、それが普通の反応なのかもしれない。俺と眞柄二等兵の方が人類では圧倒的少数派だろう。
一体どうしたらこの二人を上手く混ぜ合わすことが出来るのか。
「ライ」
その時、ティーガーⅡは眼差しが一気に鋭くなった。
「何だ?」
「アイギスだ。数体の歩兵型がこちらに向かってきている」
「殺せるか?」
「ああ。この程度なら私のこの体でも余裕だ」
「ちょ、どういうことです?」
眞柄二等兵は困惑しながら尋ねてきた。
そう言えば、二等兵にはまだティーガーⅡの能力を説明していなかった。
俺はティーガーⅡが周辺のアイギスを感知出来るというのを手短に説明した。
「なるほど。大方、手榴弾の音を聞き付けたというところでしょう」
「じゃあ何で投げたんだ?」
「ここに長居するつもりはなかったもので……」
眞柄二等兵は肩を竦めて苦笑いをした。磯埜二等兵はバツが悪そうに舌打ちをした。
「ええと、では逃げましょうか」
「逃げる?」
「え?」
「戦わないのか?」
「そんな、戦うなんて無理ですよ。逃げた方がいい。さあ、こっちへ。木々の間なら簡単に逃げられます」
なるほど。こいつらはアイギスから逃げ回るだけのクソみたいな日々を送っているのか。
「お前も逃げるのか?」
さっきまで威勢良さそうにしていた癖に、磯埜二等兵はそそくさと逃げようとしていた。
「ああ。一応これくらいならあるが……」
そう言って磯埜二等兵は一丁の拳銃を懐から取り出した。
まあ、俺の持ってる特製の双弾倉小銃すら、奇襲以外ではロクに使えないのだ。
なれば、彼の拳銃の効果の程などたかが知れている。あってもなくても同じ程度のものだろう。
「確かに、それは無力だな」
「ああ。不愉快だが、自分の功名の為に死ぬつもりはないからな」
「だが、ティーガーⅡの銃はそうじゃない」
「ライ、お前……」
ちょうどいい雑魚が来た。これはティーガーⅡが敵ではないと示す絶好の機会である。
ティーガーⅡは敢えて語らずとも理解してくれた。
「え、ええと、逃げないのですか?」
「せっかくだしティーガーⅡの何たるかを見せてやろうと思ってな」
「ああ。ライがそう言うのなら、やってやろう」
「ええ……」
「ほう」
眞柄二等兵は今すぐ逃げたい気持ちと俺達を置いていかまいとする気持ちの間で揺れ動いているようで、他方、磯埜二等兵は芝居でも見るかのように平然として佇んでいる。
俺とティーガーⅡは、木の後ろに体を隠し、戦闘の用意に入った。今回も使う銃は帝國ホテルで拾った奴でいいだろう。
そして数分の後に、ティーガーⅡが察知したアイギスが歩いてきた。
「撃つか?」
「ああ。撃て!」
銃声が響いた。
しかし、戦闘と言うが、それはとても戦闘と呼べるものではなかった。
敵は少なく、一回の掃射でその全てが倒れ伏せた。
因みに、この距離だと俺の銃の弾はほぼ無意味で、やったのは全部ティーガーⅡである。女の子一人に銃を持たせたとなれば、寝覚めが悪くもなるだろうからな。
「どうだ?」
振り向いてみると、眞柄二等兵は目を白黒させており、磯埜二等兵は、何と言うか、困り顔をしていた。




