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「最初に戦場に行ったのは、まあそれが最後にもなった訳ですが、大体1ヶ月前のことです。私達は福岡近郊の防衛線に配置されました。私の大学からは、私と磯埜を含め、267人が出征して、皆がそこに配置されました。
そして、戦いはすぐに起こりました。私達が現地について3日後、アイギスの全面攻勢です。戦闘は、私のような素人目からでも酷いものでした。
私達に与えられたのは、小隊ごとに一丁の小銃と、軍服と、他は竹槍くらいです。帝國軍の正規部隊も、重機が中隊に一つくらいしかなかったです。
それでどうなるかは、察してもらえるでしょう」
「ああ。察した」
一般兵にAÄ(對アイギス)彈が回っているとは考えられないから、実質的に彼らに与えられたのは爆装竹槍だけと言えるだろう。
金属を粉々にするアイギスに対し、爆装竹槍は確かにそれなりに有効な兵器ではある。
とは言え、アイギスが黙って突っ立っている筈はなく、向こうは躊躇なく弾丸をぶちこんでくる。
相当に重厚な火力支援があればアイギスを多少は止められるが、それなしの戦闘は、おおよそ重機関銃や砲兵で固められた塹壕線に裸で突撃するようなものになる。
眞柄二等兵の場合も、こちらの類いだろう。
「はい。結果としては、福岡は陥落し、私達の中で生き残ったのは34人でした。生存率13パーセントですよ。酷いものです……
ですが、福岡陥落後も、私達の惨状は変わりませんでした。救援の友軍なんてなくて、私達はアイギスの支配地域に取り残されることとなりました。
それで、上官は皆死んでしまったので、一応、私が皆を取り仕切っているという感じです。
幸いにしてアイギスには占領地の維持という考えがないようで、そのお陰で見つからずにはいるのですが、いつ見つかるかと怯える日々を過ごしています」
「それは、大変だったな」
それくらいしか言葉が出なかった。
「ははっ。ありがとうございます。まあ、暗い話はこの辺にして、まずは私達の拠点に向かいましょう」
「あ、ああ」
眞柄二等兵も無理矢理明るく話そうとしているのだろう。
顔には疲れが出ているし、喋り終わった途端に糸が切れたように表情が消え失せる。
流石にこれは、同情せざるを得ない。
「じゃあ、こちらへ」
「おい。奴らのことは聞かなくていいのか?」
磯埜二等兵は不満そうに言った。
確かに、眞柄二等兵には今の状況を語ってもらったが、俺は殆ど何にも語っていない。名前を教えたくらいだ。
「お前がそう言うなら…… まあ」
と言うと眞柄二等兵は俺達の方に振り返った。
「よかったら、東條さんのことも聞かせてくれますか?」
「ああ、それが妥当だな」
しかし、それはそうなのだが、どこから話そうか。
自然に話が繋がるところからとすると……
「俺も、あんたらと同じだ。戦場に取り残されて悲しくなってた。それで、そこらを放蕩していたら、偶然にもティーガーⅡと出会い、行動を共にしている」
よし、ちゃんと説明しているように見えて情報量が全くない返答が出来た。
「だったらあんたはどこの部隊の所属だ?」
磯埜二等兵は言った。
「ええと、平戸の部隊の所属で……」
「ではその軍服は?」
「軍服?」
ああまずい。
俺の服は色々なものが混ざっているが、その上着が日本にいる筈がないSS(親衞隊)のものなのだ。
人と会わな過ぎて服装のことなんてすっかり忘れていた。
これは、まずい。
「ええと、これは、近くにたまたま親衞隊員が死んでたから頂いたんだ」
「この辺に親衞隊は来ていないが」
「ああ、それはそうなんだが……」
落ち着け、冷静に考えるんだ。
嘘を吐くんだ。「嘘を吐かずに騙す」ではなく嘘を。
俺はただの一兵卒、俺はただの一兵卒……
「第三次大人類戰爭の大陸打通作戰は知っているな?」
「ああ」
「その時に親衞隊が投入されたのも知っているよな?」
「ああ」
これは本当だ。中國のアイギス拠点を叩く為、帝國は親衞隊を含む大規模な部隊を編成し、史上最大とも言われる攻勢を実施した。
まあ結果は失敗だったのだが。
「俺はその時の親衞隊員の生き残りだ」
「本気か? あれは十年以上前のことだろ?」
まあ疑うよな。だが、これには有効な反論が出来る。
「何十年も密林で生き残っていた兵士の話とかを知らないのか?」
「まあ、確かに聞いたことはある」
「だったら、十年なんて簡単さ。だろ?」
「まあいい。そういうことにしておこう」
おや、案外楽に誤魔化しきれた。俺の勝ちである。
「まああんたは普通に人間だろうからそれでいいんだ。問題はそっちだ」
磯埜二等兵はティーガーⅡを指差した。ダメだった。
「おい、磯埜」
「流石にこいつを易々と招き入れることは出来ない。で、お前は何なんだ?」
「私はお前達が呼ぶところのアイギスだ。それ以上でもそれ以下でもない」
「おい、ティーガーⅡ。もうちょっと友好的な態度を示してくれよ」
「何故だ?」
「喧嘩はしたくないだろう」
無意味な衝突は避けたいのだが、しかし、ティーガーⅡは怪訝そうな顔で首をかしげただけであった。




