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「と、ところで、あなたのお名前は?」
「ああ、俺か。俺は東條賴と言う。で、こいつは……」
いや待て。名前はティーガーⅡですなんて言える訳がない、
ええ、つまり何とか偽名を考え……
「私の名はティーガーⅡだ」
「ああ!?」
「え? 今何と?」
バカ野郎だこいつは。
そんなこと言ったら怪しまれるどころじゃ済まなくなるだろうが。
いやまあ、既にどうしようもないくらいには怪しまれてはいるが。
と言うか日本語普通に喋れるのか。びっくりだ。
いやそれはどうでもよくて……
「ドイツ語の虎だ。それに数字の二。分かるな?」
「あ、なるほど。分かりました」
「う、うん?」
眞柄二等兵も何を考えているのか、疑うということをしないのである。戦場で頭がイカれちまったのか?
いや、それならそれで良い。知り合いでもない奴の心配をしてやる道理はない。
「ところでその服は、大丈夫、じゃないですよね?」
眞柄二等兵はティーガーⅡのボロボロの軍服を指差した。
「ああ。せっかくの服が台無しだ」
「ですよね。でしたら、一応、それに似てる軍服はありますよ。いります?」
ティーガーⅡの服はドイツの軍服によく似ている。そして帝國軍の軍服もまた、ドイツのそれに合わせている。時代は全く違うが、両者はそれなりに似ているのである。
「おお、それはありがたい」
「では、こちらへ」
眞柄二等兵は茂みから出てきて、平然と歩き出した。
そしてティーガーⅡは何の疑いもなくついていく。
「いやいやいや、待て、ティーガーⅡ」
初めて合う人についていくのがそもそもダメなのに、アイギスのティーガーⅡがついていってはもっとダメだろう。
「何故だ?」
「罠かもしれんだろ。それに、あれをそう簡単に信用するのは……」
「おい! 眞柄!」
「ん? 誰だ?」
眞柄二等兵の更に向こうから、これまた若い声が響いた。眞柄二等兵の知り合いか? 或いは上司とかかもしれないが。
その声の主と思われる者はすぐに茂みから姿を現した。眞柄二等兵とはまるで違い、出会ったら喧嘩でも仕掛けてきそうな大男である。
そして彼はおよそ隠す気のない音量で話し出した。
「あれはアイギスだろ? 何を考えてる?」
「だけども、話せば分かる奴かもしれないだろ?」
気付いていたのか。
いや、まあ、そりゃそうか。頭がイカれてる奴があんな丁寧に話しはしない。
「お前、まさか眞柄の意図を見抜けなかったのか?」
ティーガーⅡは驚いている俺を見てバカにして言った。
「お前は逆に見抜いていたのか?」
「ああ。奴が私の正体に気付いていない訳がないし、敵意がないのはすぐに分かった。もっとも、今あそこにいる奴は私に敵意を向けているようだが」
「俺より心を読むのが上手いじゃないか」
「お前の社交性が低すぎるだけだ」
ティーガーⅡは誇らしげに言った。
全くもってその通りで何も言い返せないのがつらい。人と話すのは苦手だ。
「いきなり手榴弾投げつけたりするなよ」
「分かった分かった。どうなっても俺は知らないからな」
何か不穏な会話が聞こえてきた。どうもさっきの一件はあの男がやったらしい。
すると眞柄二等兵は会話を切り上げて俺とティーガーⅡの方に再度向かってきた。大男もまた嫌そうながら眞柄二等兵についてきている。
「そいつは誰だ?」
ティーガーⅡは日本語らしくない日本語で尋ねた。
「はい。こいつは磯埜二等兵です。まあこんな風に悪態をついてますが、根はいいやつですよ」
「私に手榴弾を投げつけたのはお前か」
「ああ。そうだ」
磯埜二等兵はティーガーⅡを冷たい目で見下ろした。ティーガーⅡも負けじと睨み返す。
磯埜二等兵とは仲良くなれなさそうである。まあ別にそれでいいんだが。
「ええと、代えの服を用意する為にも、取り敢えず、私達の拠点に向かおうと思うんですが、宜しいですか?」
「拠点?」
このアイギス犇めく九州に拠点など置いていられるのか? いやそれ以前にこいつらは何者だ?
「はい。まあ、拠点とは言っても、物置以上の場所ではありませんよ」
「そうか。それと、お前らは何者なんだ? こんなところで何をしている?」
「ああ…… そうですね、ここで説明しておきましょう。その方がお互いの為ですから」
眞柄二等兵は苦笑いをしながら言った。
「頼む」
「はい。私達は、見ての通り軍人です。ですが、正規の軍人という訳ではなく、つい最近の學徒出陣の勅命によって九州に派遣された者です」
「学生なのか」
学生を戦場に送りこまねばならない程に情勢は逼迫しているらしい。前の第三次大人類戰爭でもそんなことはなかったんだが。
「はい。そして、私達は短い訓練の後、ここ、九州に送り込まれました」
眞柄二等兵の顔に陰が落ちた。磯埜二等兵も、苦虫を噛み潰したような顔をしていた。




