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それは、何か使えるものがないかと、農家か何かの家を2人で漁っていた時に起きた。
茂みに挟まれた荒れた道を歩いていると、何か拳くらいの大きさのものが飛んできた。それが地面に当たった時は、金属の軽快な音がした。
そしてその瞬間俺は察した。
またTigerⅡも俺と同じことを瞬時に思ったのだろう。
「離れろ、ライ!」
「んなこと分かってる!」
それは手榴弾だ。間違いない。
俺は全身の全ての力を振り絞って後ろに駆け出した。隠れるものがない以上、ある程度離れて衝撃に備えるしかない。
俺はティーガーⅡも同じことをするだろうと思った。
だが、僅かに手榴弾の方に振り返ると、ティーガーⅡは先程叫んだ場所に突っ立っていた。
「は?」
何がしたいんだ? それでは死ぬぞ。
助けるか?
いやしかし、そんな時間はない。
前か後ろか、どちらに進むか定まらず、俺もまた変な場所で棒立ちする格好となってしまう。
そして考える時間などはなく、ティーガーⅡの後ろで手榴弾が爆発した。
「うっ……」
咄嗟に顔を庇ったが、しかし、特に何も飛んでは来なかった。若干の風圧を感じたのみである。
そして俺はすぐに手を払い、ティーガーⅡの方を見た。彼女は未だそこに同じように立っていた。
「だ、大丈夫か……?」
恐る恐る問いかけると、ティーガーⅡは非常に苦々しい顔をして振り返った。
「大丈夫ではない。見ろ、この服を」
「ああ……」
ティーガーⅡの黒軍服はぼろ切れの塊のような状態になっていた。
腹や胸も半分見えてしまっている。着るには耐えないものだ。
「それより、お前自身は大丈夫なのか?」
何で手榴弾をもろに食らった奴の体より服の方を気にしているんだ? おかしいだろ。
「ああ。問題ない。人間の手榴弾程度ではこの体は傷つかない」
「相変わらず頑丈だな……」
「それより、この服、どうしよう」
ティーガーⅡは軍服が使い物にならなくなったことを気にしているようだ。
服などどうでもいいみたいな感じだった気がするが、案外気に入っているらしい。
「ああ、どうしようか……」
服の代えなんて持ってない。あったとしても俺より小柄なティーガーⅡに合うものは持っていないだろう。
「お前、自分で作れるんじゃないのか?」
ティーガーⅡはじめアイギスは、原子を自由に組み換えて、どんな材料からでも何でも作れる力を持っている。
それで服でも作ればいいではないか。
「確かに作れるが、時間がかかる」
「そうなのか?」
「ああ。服を構成する分子の構造は複雑だ。金属のように簡単に作り出せない」
「じゃあ代えの服が出来るまでの代えを考えているという訳か」
「ああ。そういうことだ」
恒久的に使える服を用意する必要はないようだ。
まあ、とは言え、何もないことに変わりはないのだが。
「ん?」
その時俺は正面の茂みの奥で蠢く影を見た。
「どうした?」
「何かがいるのが見えた」
「何だと?」
ティーガーⅡはさっと振り返って突撃銃を虚空に向けた。
すると今度は後ろからがさごそと草を掻き分ける音がした。
俺とティーガーⅡは即座に振り返って銃を向けた。
するとそこには兵士と思われる人間がいた。帝國のちゃんとした軍服を着ている。
顔は日本人っぽく、かなり若く、覇気のない表情で、腕が折れているのか石膏で固めている。
「お前誰だ?」
ティーガーⅡはぶっきらぼうに尋ねた。もちろん、今すぐにでも相手を殺す体勢のまま。
すると兵士は酷く困った顔で答えた。
「え、ええ、私は、眞柄孝直と言います。二等兵です」
眞柄二等兵はドイツ語で答えた。
しかし、名前からも顔からも、こいつは明らかに日本人。
ではここで俺の語学力を発揮することとしよう。
「日本語なら喋れるぞ」
と日本語で言った。
ティーガーⅡは俺が唐突に日本語を話し出したのに驚いていたが、まずはこの兵士との会話を優先する。
「あ、ああ、ありがとうございます。ドイツ語はあまり得意ではなくて」
日本語は当然ながら流暢だ。
しかし、どうも落ち着きがないというか、おどおどしているように見える。仮にも帝國軍の兵士がそれでいいのか?
「眞柄二等兵、何をそんなおどおどしているんだ?」
「い、いや、あなた方を見たら誰だってこうなりますよ、ねえ?」
「そうか?」
「いや、失礼ながら、ええ、化物が歩き回っているようにしか……」
ああ。そう言えばそうだった。
俺は全身を包帯で覆った、安っぽい映画か何かに出てきそうな化物然としているし、ティーガーⅡは手榴弾が目の前で爆発しても平気そうにしている本物の化物だ。
しかし困った。
ティーガーⅡはアイギスだ。本人の意思とは関係なく、人間の敵と見なされるだろう。
眞柄二等兵には、出来れば適当にあしらって、さっさと帰ってもらいたいところだ。
いやしかし、ティーガーⅡのことを誤魔化しきるなんて出来るか? 無理な気しかしない。
まあ取り敢えず、まずは敵意がないことを示すのが先決だろう。
「俺達は敵じゃない。安心してくれ」
俺はティーガーⅡに銃を仕舞うよう言いつつ、包帯ですっかり覆われた手を出した。
「は、はあ……」
眞柄二等兵は戸惑いながらも握手に応じてくれた。




