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1-3.5-2

「それで、私は何をすればいいのですか?」


 少女は感情を全く表さず、ただ淡々と問う。


「ええと、取り敢えず、名前を聞かせてくれないか?」


「名前…… 名前などはありません」


「では、何と呼べばいいんだ?」


「M26Pershing(パーシング)でいいです」


「やはり君もそう言うのか」


「やはり?」


 少女は初めて少しだけ感情を見せてくれた。眉を少しひそめただけではあるが、まあ進歩である。


「ああ。ミュトスは、君以外にも確認されている。そして彼女らは皆、そう答えるんだ」


 人が大昔に造り出した戦車の、いわば魂のようなものとして現れる彼女らは、個体を識別する名を持たない。自分の型を名乗る。


 まあ同じのが複数体現れたことがないからいいのだが、もしそうなったらどうするつもりなのだろうか。


「なるほど」


「ああ。では君のことはM26と呼ぶことにしよう」


「パーシングの方ではないのですか?」


「パーシングって、それは男の名だろう。君みたいな子をそんな名で呼ぶのには違和感がある」


「そうですか。そう言うのなら、構いません」


「宜しくな、M26」


 そして私は握手をするのを期待して手を伸ばしたが、M26は私の手を不思議そうに眺めて、何もしてくれなかった。


 実に悲しい。


「ところで、結局、私は何をすればよいのですか? ここに来てから、何もしていません」


「ああ、それはちゃんと考えてある。君に任せたいのは、反政府テロリストの撃滅だ」


「テロリスト? アイギスと戦えとは言わないのですね」


「ああ。実のところ、欧州戦線はさして危機的な状況ではないんだ」


 自分等から攻め込んだくせに防戦一方なのは恥ずかしい限りだが、防戦自体は案外うまくいっている。


 大陸を縦断し一ヶ所と途切れることはない塹壕線、敷き詰められた超重戦車、戦艦の主砲並の巨大な重砲。


 ドイツを守る鉄の盾は、今のところ破られる気配はない。


「なるほど。しかし、このような情勢下でなおも政府に従わない間抜けなどいるのですか? にわかには信じられません」


 言う時は言うではないか。


 ではその間抜けについて説明するとしよう。


「テロリストとは、つまるところ民主主義者だ。奴等は自分等の狂信の為になんでもする。奴等に何人が殺されたことか……」


「そもそもこの国は民主主義ではないのですか?」


「ん? ああ、そう言えば、何も説明していなかったな」


 そう言えば彼女には帝國について何も語っていなかった。前提となる認識がずれていては話も進まない。


 私は帝國について軽く語った。全人類を一つに纏めた史上初の国家、そして永遠理想の君主制について。


「君主制が永遠理想の政体なのですか?」


「ああ。その通りだ」


「しかし、私の中にある価値観からすると、合議によって全てを運営した方が、内政も外征も上手くいく筈です」


「そうか、君はアメリカの戦車だったな」


 この子らは自分の造られた頃の世界の記憶を持っている。まるで本当に戦車の魂が姿形を持って現し世に現れたかのようだ。


 そしてM26の場合は、忌々しいアメリカ合衆国が健在だった頃の記憶があるのだろう。となれば、民主主義を擁護し始めるのも頷ける。


「確かに、その理論は理に叶っている。だが、それは殆どの人類がマトモな政治的判断を下せる前提での話だ。人類の知性の程は、恐らく古代エジプト文明の頃から進化していない。いや、寧ろ退化すらしている。理性的な市民による合議制など、机上の空論に過ぎない」


「では、歴史上の民主主義国家とは何なのですか?」


「それは民主主義の名を借りた、そうだな、民主主義者の独裁国家だ。無意味で非効率、無責任な政治に過ぎない。もっと言えば、まあ祭政一致の宗教国家とでも言うべきかな」


「宗教?」


「ああ。民主主義というのは宗教だ。ありもしない国民主権の幻想で、大衆を洗脳し支配する。個人の独立なんかを騙るが、それは圧政と人間性の喪失から人の目を背けさせる為のプロパガンダだ。民主主義のもとでは、人間的な政治は一切行われない。本当の正義は、君主の元にしか成り立たない。


そして、ある時、それに異を唱えた者があった。人々はやがて民主主義の悪辣さに気付き、そして自らそれを打倒し、国の主権をあるべき人に奉還することにした。そうして今の人類がある、という訳だ」


「なるほど。では、この時代に存在する民主主義者とは?」


「宗教団体さ。人間を思うがままに支配したい悪魔どもが、絵空事の民主主義を吹聴して、無知な大衆を洗脳して、従順な狂信者に仕立て上げている。そんな奴等さ。まあそれがまさに民主主義ではあるんだが」


 民主主義など、この世にあってはならない。自由も平等も博愛も、民主主義はゴミのように吐き捨てる。


 そのようなことは断じて許してはならない。


「分かりました。では民主主義を根絶やしにしましょう」


「本当にいいのだな?」


「はい。私の疑念は今、確信に変わりました」


「そ、そうであるか」


「はい」


 M26は全く穏やかではない笑みを浮かべた。

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