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俺の見据える先には敵の四足戦車。正確にはその主砲である。
敵の陣容は戦車が2台に歩兵が多数。
身も蓋もない話だが、正直言って歩兵は無視出来る。奴等の武器がティーガーⅡの装甲を貫くことはないだろう。
問題は戦車だが、それは今から無力化する。
「降伏などしないぞ! クラッスス!」
戦車の砲口、直径が精々10センチ程度しかないのを撃つ。勿論、弾は通常弾に切り替えて。
「馬鹿な。弾は効かぬと…… 何?」
「よし!」
歴戦の軍人然とした雰囲気を出していたが、クラッススも大した奴ではなかったな。
俺の銃弾は見事に砲の中に入り、その四足戦車はたちまち力を失って倒れた。
そしてすかさずもう一方を狙う。
これは狙撃ではない。一発で命中させる必要などはない。ある程度の狙いをつけて連射をすれば一発くらいは的中するのである。
もう片方も沈黙した。
「ティーガーⅡ! 今だ! 突っ込め!」
「分かった!」
歩兵なぞ重戦車の前には無力。あるものは飛ばされあるものは踏み潰された。
「諸君! そんなのでいいと思ってるのか!?」
クラッススの遠吠えである。
「三十六計逃げるに如かずという言葉を知らんのか!」
「クソッ。まだだ! まだ逃がす訳にはいかぬ!」
その声はたちどころに置き去りにした。
まあ確かに、体当たりなど美さの欠片もないが、まあそれはよしとしよう。
「ふう。まだ生きてるな……」
「ライ、まだ来るぞ」
「今度は何だ?」
まだ市中だ。アイギスの伏兵でもいるのか。
「砲撃だ」
「何だって?」
「砲撃だ。聞こえなかったか?」
「いや聞こえてたが……」
砲撃は流石に死ぬぞ。戦車と砲兵の射程を比べたらどう考えても後者が勝る訳で、反撃も何も出来ない。
それに、確かにここら辺には遮蔽物が多いが、規則的に並んでいるから隠れることはままならない。よって、砲撃に直に晒される危険性が高い。
「ええと、どうする?」
「取り敢えず中に入れ。後は全速力で逃げ、死なないことを祈る」
「了解だ」
まず体を戦車の外に出しているのは自殺行為だ。砲撃が当たらずとも破片やらで死ぬ。
まずは車内に閉じ籠ることとしよう。
「飛んできたな。来るぞ」
「分かった」
運が悪かったらここで死ぬと思えば自然と体も強張る。自分の生死が運次第というのは不愉快だ。
そして爆発。音は大したことなかったが、この重戦車が揺さぶられるとは相当な衝撃なのだろう。
だが、少なくとも俺は無事だ。
「ティーガーⅡ、大丈夫か?」
「少し傷がついたが、大した問題ではない」
やはり砲兵は戦場で最強の火力だ。ティーガーⅡの装甲が傷ついたのは初めてのことなのだ。
「次、来るぞ」
「おう」
砲弾が風を切る音、そして弾着。だが今度は勝手が違った。
俺の体が一瞬だけ浮き上がった。それはつまり、ティーガーⅡの巨体が一瞬浮いたということ。
「大丈夫か!?」
「後ろ、背中を撃たれた。致命傷ではないが、痛い……」
「痛む、のか?」
3回程死んで平然としているこいつが?
「ああ。色々あるが、話は後だ。今は逃げるぞ」
「そうだな。早く逃げよう」
その後は案外簡単に逃げられた。
暫くしたら何故か砲撃が止み、静寂の中を全速力で駆け抜け、長崎から脱出し、今はどこかの田舎道を走っている。
この時代、およそ近代的と呼ばれるものは全て都市に集約され、都市とその外の差は著しい。
田舎の姿は1000年前と比べてもさして変わらないのでは、とすら思われる。
「ライ、少し、休んでもいいか?」
まさかティーガーⅡがそんなことを言い出すとは。戦車も疲れるものなのか。
「ああ。ここらで一休みしよう」
「うむ」
安全ではあるが、ずっと窮屈な車内にいるのはそれだけで疲れる。早速俺と少女の方のティーガーⅡは外に出た。
エンジンを止めれば、自分等の立てる僅かな音と夜光虫の鳴き声以外は何も聞こえない、そんな場所だ。
「ああそうだ。ティーガーⅡ、さっき撃たれた場所はどんな感じだ?」
「見てみるか?」
「あ、ああ。そうする」
そして戦車の後ろに回ってみると、確かに、後背部の装甲に大きな傷が一筋走っていた。
砲弾は恐らく、かなり奇跡的な確率で以てそこを掠めたのだろう。そして至近距離での爆発が俺達を襲ったと。
「これが、痛いのか?」
「ああ。こちらの体は痛みなど諸々の感覚を作動させるかどうか切り換えられるが、私の本体はそれを許可されていない」
「ええと、今は大丈夫なのか?」
「ああ。人間に例えれば背中を刀で斬りつけられたくらいの痛みだそうだが、私は問題ない」
「いやいや、問題あるだろ」
それは絶対痛いどころで済む話ではない。
が、ティーガーⅡは至って平気そうである。
「この程度、兵器なのだから当然だ。すぐに慣れる」
「そう、か。それならいいんだが……」
いやよくはない。だが、本人が苦しくないと言う以上、俺がとやかく言うこともない。
その話題はそこで終わった。
後は、回収してきた食糧を消費し、いつも通りに寝て、それで終わりだ。




