1-3-9
「な、何だ!?」
俺が叩き起こされたのは、砲弾の飛んでくる重い音と、どこかの建物が崩れる音が響き渡ったからであった。
あまりにも突然の出来事に、眠気など吹き飛ばされた。
ベッドから飛び起きると、ティーガーⅡが外を眺めているのが見えた。焦っているようには全く見えない。
「何の音だ?」
「アイギスの砲兵だな。現下、我々は攻撃されていると考えられる」
「マジで?」
本体だったらとんでもない一大事なのだが、ティーガーⅡは平然としている。
「ああ」
「じゃあ何でそんなに落ち着いてるんだ?」
「私達の居場所までは把握していないと見えるからな。少なくとも今すぐ殺されるということはあるまい」
「だが、俺達が長崎にいるということは流石に把握されているよな?」
まさか九州の全部を砲撃して回っている訳はない。長崎に入ったのは確認したがそれ以降は不明、そんなところなのだろう。
「だろうな」
「じゃあここに長居も無用だな」
「ああ。名残惜しいが、ここにいればいずれは見つかる。逃げよう」
「そうと決まったら早速行こう」
荷物を全て持ち、ここで手にいれた品を携え、ティーガーⅡ本体に乗り込む。
やはりこいつは便利だ。こんな箱を持ち運んではいられない。
「で、どうする? どちらに逃げる?」
「俺も長崎の地理なんて知らんが……」
確かに長崎市街の作りなど全くもって知らん。だが、ここが日本の九州においてどこら辺に位置するかは分かる。
であれば、逃げる方向くらいは指定出来よう。
「東だ。何でもいいから東に逃げろ」
「分かった」
ティーガーⅡは俺の言葉のままに走り出した。速度を出すと地面が傷つくのだが、この街の美観なぞ気にしている暇はない。
「しかし何故に東に?」
「西は九州の端っこ、行き止まりだ。東に行かなければ、生き残る希望はゼロになる」
「なるほど。しかし、お前の地理が間違ってたりはしないよな?」
まあ確かに地理を習ったのはもう何十年前かも分からない昔だ。確証は正直ないが、まあ多分あってるだろう。
「そんなことはないさ。流石にこれくらいは分かる」
「そうなのか?」
ティーガーⅡは訝しげに問う。まあ彼女からしたら日本の地理なんぞ遠い世界の話なのだろうから仕方ないか。
「まあ、それは……」
「待て」
ティーガーⅡの空気が変わった。そこには戦場の緊張感しか残されてはいない。
「どうした?」
「敵の反応を確認した。歩兵型が多数」
「市街戦をやらされるのか」
「そうなるな」
市街戦は戦車が苦手とするところだ。
まあとは言え、どうやらティーガーⅡは敵の接近を感知出来るようだから、奇襲に遭うこともないと考えると、そう焦ることでもないと思える。
兎も角、まずは戦の支度をしなくては。
俺と少女の方のティーガーⅡは、事前の訓練でもしたかのように素早い動きでハッチから上半身を乗り出した。
まあ距離が近いのには相変わらず慣れないが。
「敵は正面からしか来ない。全力の火力で叩いてやろうではないか」
ティーガーⅡは獲物を前にした虎のように言った。
「ああ。やってやるか」
戦車の機銃、戦車砲、そして2人の小銃が正面を見据えた。
「見えた。撃つぞ」
「了解!」
アイギスの一団が曲がり角から飛び出してくると同時に攻撃開始だ。
戦車砲で吹き飛ばし、隊列を乱したところに機銃掃射、そこにダメ押しとばかりに生き残った奴を丁寧に処理する。
因みに、俺は帝國ホテルで拾った銃を使っている。九九式狙擊銃の弾はもったいないからな。
「しっかし、奴等は突撃しか能がないのか?」
アイギスの行動には古代の戦争の如き正面衝突しか見られない。技術力では明らかに向こうの方が上である筈なのに、戦術といった概念がまるで感じられないのだ。
「人間相手ならあれでも勝てるからな。地上での戦術の研究が進まないのも無理はない」
「人類が残念過ぎるのか」
「その通り」
それもそうか。ティーガーⅡがいるから歩兵なぞ雑魚同然だが、俺だけだったらどうにもならない。
AÄ彈を持ってるだけ少しは抵抗も出来るだろうが、普通の兵士なら噛みつくことも叶わずに死ぬだろう。
そりゃ、アイギスがわざわざ戦術を考えないのも納得だ。
「まだ来るか」
見えはしないが、ティーガーⅡの電探か何かはそれを捉えたらしい。
「面倒だな」
とは言え危機感は特にない。そう思っていた。
「主砲、撃つぞ」
「了解」
敵が固まっているところに主砲弾をお見舞いした。それでアイギスは吹き飛ぶ筈だ。
しかしそうはならなかった。
まあ正確には単に物理的な衝撃で吹き飛んではいるのだが、どの敵にも傷ひとつ見当たらないのだ。
「おい、どういうことだ?」
「わ、分からない…… 私の8.8センチ砲が効かないなど……」
こいつは不味いな。
ティーガーⅡは今の一瞬で明らかに動揺している。
この場を切り抜けられるかすら怪しくなってきた。




