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1-3-4

「こ、この先生きてれば何かいいことあるかも知れないじゃないか!」


「知らんわ!」


「お、おい!」


 ティーガーⅡは引き金を引いた。本当に引きやがったのだ。


 反動で頭と腕は反対の方向に揺らめき、体はそのまま無惨にも倒れた。


 俺はそれをただ呆然と見ていた。


「まったく、何だってんだ……」


 いや、そう言えばこんなことは前にもあった。


 つい本気になって止めにかかったが、そこにある少女の体を模した機械が死んだところでティーガーⅡは死んではいない。


 目の前に聳える戦車こそがティーガーⅡの本体であって、ここで死んでいるのはその端末に過ぎない、筈だ。


「ティーガーⅡ、生きてるか?」


 戦車の装甲に向かって呼び掛けてみる。


「ああ」


 意外と普通に応えた。


「しかし、私としたことが、こうなっては自殺する手段がないではないか」


「頼むから死のうとしないでくれ」


「お前は、私に生きていて欲しいのか?」


 ティーガーⅡは理不尽を説くかのように尋ねた。


「そりゃあ、そうだ」


 殆ど反射的に答えた。


「何故だ?」


「何故?」


 そう言われると、取り立ててこれという理由はないかもしれん。


 しかし、このアイギスの支配圏を安全に走り回れるというのはあるが、それだけが理由という訳ではない。


 ではどうして死んで欲しくないのか。


 それは俺にもよく分からん。


「まあいい。今回は死なないでいてやる」


 何故か分からんが思い止まってくれたらしい。


「おう。ありがとよ」


「うむ。ではそっちの体を持ってこい」


「了解した」


 前にやったのと同じことだ。


 力を完全に失っている少女の体を抱き上げて、目の前の戦車に寄っ掛からせる。


 すると頭の左右に空いていた風穴がみるみるうちにふさがり、ティーガーⅡの視線が俺の方に合わされた。


「はあ…… やはり死にたい」


「このご時世じゃ生きてるだけで運がいいんだ。そういうことは言うもんじゃない」


 冷静になってみると、俺の良心の欠片がそんな言葉を吐いた。


 俺が嫌いなのは人間そのものというよりも帝國や軍部であって、種族としての人間が嫌いという程ではない。


 十何年か前の第三次大人類戦争では、軽く一億人くらいが玉砕した。今だって一日に何万人が死んでいるのか。


 この世界では生きていられるだけ十分に幸運なのである。


「お前らしくないことを言うなあ」


「俺を何だと思っているんだ」


「さあ?」


 ティーガーⅡは子供っぽく笑った。


 そう言えばこいつの精神はかなり幼稚なんだった。それが変に知識を持ってるからさっきみたいなことになるのである。


「そう、それで、結局、さっきのあれは何だったんだ?」


「それは、私にも分からない」


「そいつはちょっとよろしくないな……」


 万一あんなことが敵の陣中で起こったら、俺もティーガーⅡも揃って死にかねない。


 それは困る。無意味なところで死にたくはない。


「ああ、でも……」


「何だ?」


 ティーガーⅡは酷く言いたくなさげである。視線を斜め下に移してまごついている。


 それを問い詰めるのはかわいそうだが、これはティーガーⅡ個人では収まらない問題、分かることはきちんと説明してもらわねばならない。


「何かあるのなら教えてくれ」


「いや、その、上で酒がいっぱいあるのを見つけてだな……」


「へ?」


 予想の斜め上をいく話だ。


「で、どうしたんだ?」


 もうその先の展開は予想出来たが。


「せっかく残っているのだからと、飲んでみた」


「どのくらいだ?」


「2瓶くらい、一気飲みした……」


「飲み過ぎだ。まったく何を遣ってるんだ……」


 或いはティーガーⅡの頭に干渉する兵器か何かがあるとでも警戒していた俺が実にバカらしくなる。


 まさか酒の一気飲みで酔っ払ってただけだとは。


 まあそれだけとは言え損害は甚大なのだが。酔ってる戦車なんて半径500メートル以内には近付きたくない。


「ん?」


 酔ってる戦車とは? こいつは頭をぶち抜かれても平然と生き返ってくる機械だ。


 それがどうして酔っ払うなんてことがあるんだ?


「お前に酔いとかいう概念があるのか?」


「ないと思っていたが…… あるらしいな」


「酒は初めて飲んだのか?」


「ああ。そうだ」


 しかし分からん。アルコールが回路に影響を与える筈はないんだが。


「どういう原理で酔うんだ?」


「さ、さあ。私にも分からない」


「はあ……」


 しかし、思い出してみると、味覚があったりそもそも感情があったりと、こいつには機械としては不必要な機能が満載である。


 酒に弱いというのもその類い、即ち人と馴染めるようにこいつの設計者が設計した機能かもしれない。


 と考え込んでいたところ、放置されたティーガーⅡが不安げな顔をしていることに気付いた。


「す、すまないな。自分のことも知らないで」


 どうも俺が呆れ果てているとでも思ったらしい。まあそんなことはない訳で。


「いや、謝ることじゃないさ。人間とて、習わなければ自分の体についてなど知らないからな」


 我ながら良い台詞が言えた。


「そ、そうか。そうだな」


「そういうことだ」


 という訳で、ティーガーⅡ酔っ払い騒ぎは一件落着である。



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