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それと同時に、ガラスの砕ける音、ベトンの砕ける音、その他よく分からない音が飛んでくる。
そして辺りが急に明るくなった。
間違いない。
何がどうなってるのかは分からんが、戦車の方のティーガーⅡがこっちに突っ込んで来ている。
「おい! どういう状況だ!?」
横に寝ているティーガーⅡに向かって叫ぶ。しかし返事はなし。
そして懐中電灯を向けると、高さは俺の倍はあるであろう戦車が迫って来ているのが見える。
すぐそこだ。どうする?
少女の方のティーガーⅡは起きる気配がない。このまま置いておいたら轢かれるだろう。
自分で自分を轢くというよく分からない状況だが。
そして俺もまた轢かれるところである。
俺だけなら横に躱すのは容易だ。
しかしティーガーⅡを放置するか?
まあ頭を撃ち抜いても復活する奴なら問題ないだろうとも思わなくはないが。
「クソッタレだな……」
こっからティーガーⅡを担いで回避するのは不可能だ。よって正解は俺だけが回避行動を取ることである。
だが、気は乗らない。
轢かれそうなのが目の前にいるのに放っておくか?
だがそれで俺が死の危険を冒すべきか?
が、そんな悩みは唐突に消え去る。俺の背中が凄まじい勢いで蹴られ、俺の体はなすすべもなく吹っ飛ばされたのである。
声を上げる間もなく、俺は床に正面衝突した。顔からである。
全身が痛い。
その時、さっきと同じような鈍い音、何かが崩れ落ちる音が聞こえた。
「何だ……」
痛む体を無理やり動かし後ろを見れば、ティーガーⅡは壁に衝突して止まっていた。
流石に止まってくれたようだ。一帯は、数秒前の喧騒が嘘のように静まりかえった。
「ティーガーⅡは……?」
少女の方のティーガーⅡが見当たらない。
探しに立とうと思ったが、暫くは痛みで立てそうもない。少しばかり休まねば。
「はあ……」
俺の人生でも最大級のため息を吐いた。一体何がどうしたらこんなことに巻き込まれなければならんのだ。
さて、痛みも収まってきた。痛みは一過性のもので、まあさしたる問題はないだろう。
いつ見ても威圧が凄まじい車体に沿いつつ、ティーガーⅡを探す。
そしてそのまま車体の前面にまで回り込むと、壁と車体の間に挟まれているティーガーⅡが見えた。
「おーい。大丈夫か?」
反応はない。
「はあ……」
それを放置しておくのは論外だ。面倒なことこの上ないが、隙間からティーガーⅡを引っ張り出すとしよう。
幸いにして、その体が何かにつっかえるようなことはなく、簡単に引っこ抜くことが出来た。
機械の体だがら重いとか、そう言ったことはない。恐らくは普通の人間相当の重さをしている。
「ん? これは、腕が……」
ティーガーⅡの左腕が本来曲がってはいけない角度まで曲がっている。
機械とは言え、人の形をしていれば、俺の方も悪寒がする。とても、痛そうだ。
「ん…… ライ、か?」
ティーガーⅡは起きた。酷く疲れたような調子である。
「ああ。そうだ」
「そう、か。私は一体何を……」
ティーガーⅡは起き上がろうとする。
「あ、待て」
「ん? あっ」
ティーガーⅡの折れた左腕は彼女の体を支えきれなかった。彼女は再び後頭部を床に打ち付けた。
「左腕の間接が、壊れているのか」
「直せるのか?」
「ああ。ライ、私の腕を真っ直ぐに伸ばしてくれ」
「了解した」
それを触ると自分の腕も折れたような気がしてくるのだが、それは我慢し、彼女の腕を伸ばした。
「よし。暫くそのままにしておけ」
「おう」
暫くというのは高々数十秒のことであった。
「もういいぞ」
「分かった」
そして手を放すと、ティーガーⅡは左腕を前後に動かして調子を確かめた。
「ふむ。問題はない」
「良かったな」
「ああ」
そしてティーガーⅡは今度こそ立つことに成功した。
「それで、だが、私は何をしでかしたんだ?」
自覚症状はあるらしい。ではちゃんと教えてやるとしよう。
「取り敢えず、そこそこの上層階から落ちてきた」
「うむ」
「で、急に俺に抱きついてきた」
「は?」
「『は?』って、覚えてないのか?」
「あ、ああ、覚えては、ない……」
ティーガーⅡは明らかに動揺している。視線があちらこちらに飛んでいるのがその証拠。
まあ確かに、こんなことを言われて動揺しない方がおかしい。
しかし、俺はまだまだティーガーⅡをからかってやろうと思うのである。
「それと……」
「ま、まだあるのか?」
「お前、いちゃつきたいとか何とか言ってたなあ」
「は? そ、そそ、そんなことを?」
「ああ」
「……」
ティーガーⅡはもう言葉も出ないようである。やはり相応恥じてるんだろう。
まあここら辺にしてやろうと思ったが、その時、ティーガーⅡの方が先に口を開けた。
「も、もう生きてられない! ここで死ぬ!」
ティーガーⅡは背中から突撃銃を取り出し、それを自分の頭に突きつけたのである。
「お、落ち着け!」
「聞かん!」
立て籠り犯とかを説得する警官はこういう気持ちなのだろうかと思った。




