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我が名はJoseph Heinrich Adolf von Rom、全人類の皇帝、ゲルマニア、ローマ、アフリカの皇帝、ブリタニア、サルマタイ、大小アジア、南アメリカの守護者、オセアニア、北アメリカの調停者である。
平たく言えば皇帝ハインリヒ2世だ。全人類で唯一の主権者という至尊の冠を戴く者としては、太祖Joseph der Große(ヨーゼフ大帝)から数えて6代目となる。
容姿としては、理想的なアーリア人、ゲルマン民族の姿、即ち金髪碧眼の偉丈夫であると自負している。
ここは世界首都Germania、歴史的にはベルリンと呼ばれてきた都市である。
その中央に聳える宮殿に私の執務室がある。
「陛下、ご報告があります」
この堅物の老翁は、私を幼少期から見守り、今でも最側近として私を支えてくれる侍従、Heinrich Goebbelsだ。
私と彼の名前が同じであるのは偶然ではない。私の名は彼の名に因んで付けられた。
長兄Reinhardは、母であるFrida女帝が直々に名付けた。そこでラインハルトを良く育てたのがゲッベルスである。
女帝はゲッベルスを大層気に入り、次に産まれた子は女であったから別だが、その次に産まれた私には彼の名をそのまま付けた、という訳である。
勿論、それに負の感情を抱いてはいない。寧ろゲッベルスと同じ名であることを嬉しく思っている。
さて、それは置いておいて、本題は彼の報告であった。話を戻そう。
「何だ?」
「M26が、陛下に取り継ぎをと」
「構わない。繋いでくれ」
「はっ」
M26Pershing、その奇妙な名は、中世最大の大戦争、第二次世界大戦を戦った重戦車の名である。
何を言っているんだと思ったであろう。
それは意思を持った戦車である。また、人と接触を図りやすくする為と言って、少女の形をしたインターフェイスとやらを伴っている奇妙な存在だ。
その正体は人類の敵、Αιγίςそのものである。だが彼女はそのアイギスを裏切って人類についた。
また、ここではあえて語らないが、彼女のような人類に味方するものは他にもいる。それを我々はμύθοςと呼んでいる。
当然、ミュトスの存在を公表する訳にはいかない。私の方が裏切り者と謗られるかもしれないからな。
よって、ミュトスを知り、その行動に関わっているのは、ごく一部の人間のみだ。
「陛下、M26です」
机に備え付けられたスピーカーから、冷淡で機械的な少女の声が聞こえる。
機械なのだから機械的なのは当たり前ではないかと思うかもしれないが、私の聞くところには、他のミュトスはもっと人間らしい雰囲気であるそうだ。
「何の報告だ?」
「民主主義者の拠点、奴らが呼ぶところの第三サティアンを完全に制圧しました」
「よくやってくれたな」
私が彼女に与えた任務は、アイギスとの戦いではない。ドイツ帝国西部の戦線は、勇猛果敢なWaffen-SS(武裝親衞隊)の皆が支えてくれている。
一方彼女にはGeheime Reichspolizei(祕密帝國警察)から数百の手勢を与え、帝國即ち人類を滅ぼさんとする民主主義者の掃討に当たってもらっている。
「32人を射殺、367人を捕らえました。今すぐ皆殺しにも出来ますが、如何しますか?」
「殺さずに収容所に連行してくれ。奴らの指導部について、何か情報が得られるかもしれないからな」
奴らは歴史上のあらゆる民主主義国家と同様の宗教組織を形成している。
そして、その下部組織なら簡単に見つけられるのだが、それを動かしている人間は一向に見つからない。
「では、拷問はお任せを」
「宜しく頼んだ」
民主主義者や資本主義者に人権はない。人類に仇なす者に権利などある筈がなかろう。
まあしかし、こういうことは何度もあって、その度にM26の殺気を浴びせられる羽目になっているのだが、一向に良い結果が得られたことはない。
「報告は以上か?」
「はい。次の任務はありますか?」
「今はないな。君は暫く休んでいてくれて構わない」
皇帝が直接帝國の人事に関わることはあまりないが、とは言え人使いの何たるかは私も学んでいる。
人は誰しも休息を必要とするというのは、理解していると思い込んでいるだけの人間が多い。
「休む、ですか?」
「ああ。何か問題でも?」
「休むと言われましても、何をすればいいのですか?」
そう言えばこの子に休養を命じたことはなかったと思い出す。
「君のやりたいことをやればいい。目立つことは出来ないだろうが」
「そうですか。検討しておきます」
「頑張ってくれ」
「はっ。他に何かありますか?」
「いや、特には」
「では、失礼致します」
果たして私の意図は正確に伝わっているのだろうか。実に不安である。
まあ彼女が何か問題を起こすとは思えないが。




