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1-2-4

 しかし、水を見つけたはいいものの、俺はどうしたらいいのだろうか。


 服と包帯を洗うとなれば無論それらを一度脱がねばならない。肌を晒すと言うことだ。


 それは、したくはない。


 いや、しかし、この場にいるのは人間ではないティーガーⅡだけだ。ならいいか?


「どうした? 何もしないのか?」


 川を見つめて棒立ちしているのをティーガーⅡに怪しまれてしまった。


「ああ、いや、そうだな。まずは服を洗うとしよう」


「そうか」


 俺は意を決して包帯を取り払うことにした。


 包帯はあくまで巻いているだけで、取ろうと思えばすぐに取れる。何箇所かの留めている場所を外せば後はくるくると外れていく。


「お前……」


「誰にも言うなよ」


「そんなことに興味はない」


 実にありがたい。


 ティーガーⅡならこのことをちゃんと秘してくれるだろう。まあその前に忘れてそうだが。


「ところでお前何やってんだ?」


 気づくのが遅れたが、ティーガーⅡはその時、ずっと地面を触ったり動いたりを繰り返していた。


「ホースだ。私を洗う為のな」


「前みたいな奴か」


「それは言うな」


 ティーガーⅡの眼光が鋭くなる。


「すまんって」


「まあいい」


 そして暫くすると、高さ巨大なティーガーⅡ本体にも十分に水をかけれそうな立派なホースが現れた。端っこにはちゃんとポンプらしきものもある。


 前にフィーアが使ってたのと同じ感じのものである。


「何か手伝うことはあるか?」


「いや、私一人で十分だ」


「そうか」


 ティーガーⅡはポンプらしき機械を川の中に投げ入れた。


 するとホースの先から勢いよく水が噴き出す。ティーガーⅡは本体にその水を満遍なく噴きかけていく。


 ティーガーⅡに付いた汚れはたちまちに流されていった。鋼鉄は輝きを取り戻す。


「こっちはこれでいい。次は服か」


 ティーガーⅡは次に川の方へと歩いていく。水中に足を踏み入れた。一応服を洗う気にはなったらしい。


 いや待て。服を洗うとは即ちそれを脱ぐこと……


「おい、ちょっと待て」


 気づいた時にはティーガーⅡはおもむろに服を脱ぎ出していた。


「何だ?」


「一応女の子っていう体でいるんだから、流石にちょっとは遠慮してくれ」


「はあ……」


 何故か俺の方が呆れられた。逆だろ、普通。やっぱりダメだ、この話題は。分かり合えない。


「そんなに気になるなら私の後ろにでもいろ」


「へ?」


 私の後ろ…… ああ、戦車の後ろということか。たまに分からなくなる。


「ああ、分かった。そうさせて頂く」


「好きにしろ」


 すぐそこに停めてあるティーガーⅡの後ろに回り込んだ。立ってるのも無意味であるから、ティーガーⅡの履帯を背もたれにさせてもらって座り込む。


 そこで思い起こされるのはティーガーⅡと会う直前のこと。


 あの時はアイギスが見えたから隠れた。


 そう、あの海岸にはアイギスが普通に巡回していた。


 なのに、あの時以来アイギスとは一度も接触していない。それは、おかしい。


「ライ、終わったぞ」


 戦車から直接声がした。そう言えばそういう芸当もあったな。


「了解だ」


 俺は川に戻り、ちゃんと黒軍服を着ているティーガーⅡのもとへ歩いて行った。


「なあ、ティーガーⅡ、どうして俺たちは一度もアイギスとは会っていないんだと思う?」


「さあ。しかし、確かにここまでアイギスを見かけないのは妙だ」


「だろ」


 ティーガーⅡもこの点についてはちゃんと理解してくれるようだ。


「可能性として考えられるのは、私達が誰かに監視されている、とかだな」


「本当に言ってんのか?」


「ああ。お前は知らんが、少なくとも私は、アイギスにとっての監視対象に十分になり得る。まずは私達の動きを見ているのかもしれんな」


 言われてみればおかしな話ではない。


 例えば人間が使うロボットとかが制御を離れて勝手な行動を始めたとなれば、それを野放しにする馬鹿はいないだろう。


 攻撃してこないのも、ティーガーⅡの強力な火力を恐れ、弱点などを探っていると考えれば合点が行かなくもない。


 もっとも、ティーガーⅡを作った連中がティーガーⅡの弱点を把握していないという説明には若干の無理があるように思われるが。


「となると、さっさとこの島を出た方が良さそうだな」


 平戸島に逃げ場は少ない。敵が本気で潰しに来れば、恐らく数で押し潰されるだろう。


「同意する」


「ああ、それと、もう一ついいか?」


 ちょっとばかしティーガーⅡに頼みたいことがある。


「何だ?」


「水筒って作れるか?」


 水を持ち運ぶのは重要である。


「可能だが」


「頼まれてくれるか?」


「構わんぞ」


 ティーガーⅡは正座をするように座り込み、手を地面に突っ込んだ。


 すると前に銃を出した時のように、地中から水筒が引っ張り出されてきた。


 端から端まで金属製の古めかしいものである。とは言え実用上の不便は何らなさそうだ。


 土の中から出てきたと言うのに若干の抵抗を覚えなくもないが、そこは気にしないようにする。


 綺麗かは分からんが、まあ毒が混じっている訳でもあるまい。俺はささっと小川の水を汲んだ。

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