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1-2-2

深夜テンションで書くとこんな感じになるんですよね。

「理由か? 理由は、服を干す為だ。あれを見ろ」


 とティーガーⅡが指差す先を見てみれば、無骨な物干し竿に昨日の服がかかっていた。干しているのは昨日海中を歩き回っていたからだろう。


 もっとも、気になるのはどこからともなく湧いてきた物干し竿である。


「あの竿はどうした?」


「昨日の夜、お前が寝た後に作った」


「昨日の銃みたいにか?」


「その通りだ」


 なるほど、やはり便利なものだ。


 一家に一人ティーガーⅡがいれば、たいていの生活必需品はそろいそうな勢いである。


 いや、まあそれはいいとして、問題は、彼女が何の恥じらいもなく一糸纏わぬ姿で立っていることである。


「なあ、代わりの服を作るとかはしなかったのか?」


「服は分子の構造が複雑でそう簡単には作れない」


「そうなのか」


「ああ。短時間で作れるのは、精々5個程度の分子で構成されるものに限る。それ以上は時間がかかるのだ」


 意外と限界はあるらしい。流石に神のように何でも想像出来る訳ではないと。


 少し安心した。


 しかし、服が作れないのならば、他にも代案はある筈。それをしないのは何故か。


「隠すもんくらいそこら辺から探してこれるだろ? 何か思いつかなかったのか?」


「逆に服を着ておく必要はあるのか?」


「へ? いや、何というか、文明人なら当然のことだろう」


 当たり前過ぎて深く考えたことはなかった。


「私は人ではない。機械だ。なれば、あえて服を着る必要もなかろう」


 ティーガーⅡは自信満々に言った。


 確かに、そう言われると反論が思いつかない。こいつはあくまでアイギス、機械なのだ。


「それともあれか?」


 ティーガーⅡは不気味に微笑んだ。妙な予感がする。


「何だ」


「私の体に欲情したか?」


「はあ?」


 とは返したものの、正直、正直なところを言えば、それは全くの嘘ではない。


 生命の本能として、そういう感情を持ってしまうのは仕方のないことである。例え機械と分かっていてもだ。


 仕方ないだろう?


「私は機械だ。故に、お前が私に欲情しているのは生命体としての不具合に他ならないのではないか?」


「確かに、間違ってはいない」


 性欲というのは全ての生命体が持つ子孫を残そうとする本能を客観的に捉えたものである。


 よって、機械をそういう目で見るというのは、確かに生命体としての不具合そのものである。


「だがお前の目は如実に事を語っているぞ」


「仕方ないだろ? 人間の目はそんな優秀じゃない」


「やはりお前も、所詮は俗物だな」


 昨日の優しさは何処へ。何故にティーガーⅡはこうもノリノリなんだ。


 いや、心当たりが一つ。昨日俺は確かにティーガーⅡを怒らせた。


 まさかその報復だとでも?


「お前、まさか昨日のことを根に持ってるのか?」


「な、私はそんな狭量な機械ではない!」


 これは図星だな。


 まあ、これで彼女の鬱憤が晴れるなら、素直に叩かれるのも悪い話ではないが。


「はあ…… 申し訳ございませんでした」


「う、うむ。しかし、お前が割と変態の類であるのは事実」


「ああ、そうだな」


「み、認めるのか」


「ああ。残念ながら、俺には機械と人間の差は分からないんでな。お前は普通にかわいい、それだけだ」


 生命体の責務など知らん。例えそれが何であろうと、かわいいと思ったらかわいいでいいではないか。


「な、お前……」


 ティーガーⅡは急に静かになった。まるで嵐が去ったかのように。


 これは、また何か変なこと言っちまったのか?


「ええと、どうした?」


「な、何でもない。この話はもうなしだ。飽きた!」


「ならいいが……」


 そろそろ服を着て頂きたいところである。視線のやり場に困りながら会話を続けるのは流石に疲れてきた。


「なあ、そろそろ服を着てくれるか? もう乾いているだろ」


「そうだな。少し待っていろ」


 ティーガーⅡは物干し竿の方に行き、黒い軍服を上から下まできっちりと着こなした。装甲なのかよく分からんものは後から着けるらしい。


 あれ、それを見てるのは犯罪では?


 まあ取り敢えず、服は相変わらず似合っている。


「服の素材は普通のものなのか?」


 少し興味が湧いた。少なくとも見た目の上では普通の軍服のようだが。


「ああ。人類が軍服などに使っているものと同様の素材を使っている」


「何故だ?」


 アイギスが人類に合わせるのは意味が分からない。


 それこそ、ティーガーⅡの力が活かせるよう、簡単な分子で構成される服でも作ればいいではないか。


「人間に紛れ込むにはこの方が都合がいいだろう?」


「確かにな。だが、その格好は目立つぞ」


「そうなのか? これでも人間の軍服を模倣している筈なのだが」


 ティーガーⅡはどうもこの格好なら人類に溶け込めると本気で信じているらしい。無論、そんなことはない。


「髪型がクセ強いし、軍服のデザインが中世だし、と言うかここは日本だし、そのそも軍服にスカートはない」


「ぐぬ」


「まあ、別に人間に変装しなくても、普通にしてればいいと思うがな」


 アイギスならアイギスで堂々としていればいいではないかと思う。


 どちらかがどちらかに合わせようとするのは、結局どちらの個性も奪うのだ。


「ライ、お前……」


 ティーガーⅡからは先程までの怒気がすっかり消え失せていた。

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