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いや、待て。俺は別に何も言っていない。今後のことについては何も言っていないぞ。
「ええと、まず、お前は今後どうするつもりなんだ?」
「特にすべきこともないし、したいこともない」
「つまらん人生だな」
「何だと?」
「いやいや。俺も同類だってことさ」
TigerⅡも俺も、今は特に目的がない。まあ強いて言うとすれば、何かが起こった時の為に生き延びておくくらいだろう。
まあ、俺の場合は生き残れるかも結構怪しいんだが。
「そうか。なれば、やはりここは同行するというのはどうだろうか?」
ティーガーⅡは乗り気なようだ。俺に何も聞いていないのに。
もっとも、逆に断る理由があるかと問われれば、それもない。
「まあ、悪くはないな」
「だろう?」
「ああ。一緒にいた方が都合がいいこともある」
主に武力だ。
俺は銃を何丁か持っていてそれなりの戦闘の心得もあるが、それでも非力な人間であることに変わりはない。
だがティーガーⅡがいれば、Αιγίςの支配領域内でも恐らく生き残れるだろう。
しかしだ、これはあくまで俺に一方的に利益のある関係であって、ティーガーⅡ側に利益があるとは思えない。
「しかし、お前に俺といて利益はあるのか?」
「特にないな」
予想はしていたがこうも即答されると悲しくなった。
「だったら、どうして俺と同行だなんて言い出したんだ?」
「それは、その、私が一緒にいたかったからだ」
「本気か?」
「本気だ。何を言う」
割と本気らしい。そんなんでいいのか。まあ少しばかり嬉しくは思わなくもないが、そういうのには慣れていないもんで、反応に困る。
そして上手い返しを考えていると、ティーガーⅡは急に焦った口調で喋り始めた。
「あ、あれだぞ。話し相手が欲しいだけだ」
「機械なのにか?」
「ああ。自我があると最大の敵は暇なのだ。べ、別に他意はないからな」
いやまあ、別に俺もこんな少女に手を出す趣味はない。俺ももう四十を超えたくらいだからな。
「分かりやすい説明だった」
「そうか。それは良かった」
「じゃあ、改めて、暫くは同盟を結ぼうじゃないか」
俺は手を差し出した。ティーガーⅡはさっとその手を握る。その手は人間のそれと何ら変わらない。
「よろしくな、ティーガーⅡ」
「よろしくだ、ライ」
という訳でティーガーⅡと俺は暫くの間手を結ぶことにした。
まあ俺としては、さっきも言ったように行動が非常に楽になる訳で、喜ばしい展開である。話し相手も、まあいて悪いことはない。
だが決まっていないこともある。取り敢えず今日これからどうするのか、である。
今の時刻は大体日付の境目くらいだろう。星がはっきりと見えるようになってきた。
そして、俺は今、とても眠い。
「俺は寝たいんだが、いいか?」
「ああ。構わんぞ。私は寝ないが」
「アイギスは寝る必要がないとかか?」
「その通りだ。我々に睡眠は必要ない」
「まったく、便利なもんだ」
アイギスは全体的に便利なところが多過ぎる。いっそ俺もアイギスにでもなって悠々自適に暮らしたいところだ。
「で、寝るとしたら、どこがいいんだ?」
「そうだな…… 周りから目立たないところ、茂みの側とかがいい」
「なるほど」
寝ている間に殺される可能性は常について回る。だが人間寝ざるを得ない以上、その可能性を下げる努力を重ねるのが妥当な選択だろう。
それに、今回はそこに一晩中見張りをしてくれそうな奴がいる。
「ティーガーⅡ、一晩中敵が来ないか見張りを続けるのは可能か?」
「ああ。問題ない」
「頼んでいいか?」
「ああ。遠慮するな」
「ありがとよ」
こんな仕事を快く引き受けてくれるのは感謝しかない。表面的には強気だが、やはり根は優しい奴なのだろう。
その優しさは手放したくない。
「しかし、そうなると、私がいるのだから、砂浜のど真ん中で寝ても安心だぞ」
「いや、それは遠慮しておく」
可能性はどこまでも下げるべきだ。ティーガーⅡのことを信頼していない訳ではないが、あえて自らを危険に晒す必要はあるまい。
「まあ、少し奥はそれなりに木が茂っている。そこら辺だろう」
「了解した」
もっとも、ティーガーⅡという重戦車がある以上、森の中に入るのは不可能であった。
結果として、ちょっとした森のような場所と砂浜の境界くらいの場所を寝床に選ぶこととなった。
死体がごろごろ転がっているのはご愛嬌である。
「じゃあ俺は寝る。後は頼んだ」
「ああ。さっさと寝ろ」
その晩、俺は本当に疲れていたようで、あっという間に寝入ってしまった。
また起きた時の体感からすると、結構ぐっすりと眠れたようであった。
しかし早朝に目覚めると、俺は驚くべきものを見させられることとなる。
「ティーガーⅡ? お前、何で、何も着てないの?」
昨日着てた黒軍服を脱ぎ、白磁の肌を晒しているティーガーⅡがいた。