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1-1-10

「なるほど。では、貴女の得意は防衛で、わたくしの得意は機動戦であるということで宜しいですか?」


「ひ、否定はしない」


「でしたら、戦車の本分が機動戦にあるのは明らかなのですから、わたくしの方が優れているということで宜しくて?」


「ぐぬ……」


 ティーガーⅡは悔しそうなのが顔に出ている。


 ああ、なるほど。ティーガーⅡはさっきのは負けを察して勝負から逃げたのか。しかも撤退すら叶わずⅣ號戰車に追い打ちを食らったようである。


 確かに戦車は機動力が最も重要だ。動かないならトーチカで十分である。


 その点、機動力に劣り受動的な行動を志向するティーガーⅡはⅣ號戰車と比べて総合的には弱いと言える。正確には活躍出来る場が少ないといった感じだが。


「それに、貴女、これを持っていませんわよね?」


 と言うとⅣ號戰車は手に持った短機関銃をティーガーⅡに向けた。突然の行動に俺は少々焦った。


「お、おい……」


 しかしティーガーⅡは、銃を突きつけられているというのに怯える様子は微塵もない。そう言えば、そこの体はおまけみたいなもんだったな。


 俺も敢えて諌める必要はないか。


「随伴歩兵を演じろとでも言うのか?」


 さて、Ⅳ號戰車が吹っ掛けている話題は、さっき俺と話していたことだろう。ティーガーⅡも随伴歩兵については知っているらしい。


「ええ。貴女、その体がせっかく歩兵となり得るのに、戦場で銃を持たないのですか」


「そ、そのくらい分かっている。大体、銃などどこでも作れるだろうが」


 ティーガーⅡは向きになり始めた。


 しかし、銃などどこでも作れる、とは?


「どういうことだ? ティーガーⅡ」


「ああ、ちょっと持ってろ」


 するとティーガーⅡは突然しゃがみこんだ。ああ、スカートの中が丸見えだが、それは見ないことにする。


 次にティーガーⅡは砂の中に一気に手を突っ込んだ。そしてそのまま固まった。アイギスなだけあって本当に微動だにしない。


「な、何やってんだ?」


 全く分からん。


「ちょっと待ってろ」


「お、おう」


 何がどうなってるのか分からんが、俺は言われた通り暫し待つ事にした。


 そして暫くすると、ティーガーⅡは手を引き抜いた。するとその手にはピカピカの銃が握られていたのである。見た目からして突撃銃、それもかなり古い奴だ。


 因みに突撃銃というのは、ライフル弾と拳銃弾の中間くらいの弾丸を使って全自動射撃が可能な銃を指す。英語では、確かアサルトライフルと呼んでいた筈だ。


 まあ、だからどうしたという話だ。それが分かったところでもっと大きな疑問が残っている。


「な、何をしたんだ?」


 そこに銃が偶然埋まっていた、なんて筈はない。さっきの言葉からすると、そこで作ったということなのか?


「ここの砂を金属に変換し、それを銃の形にした。金属しかないから人の手には持ちにくいだろうが、私にはこれで十分だ」


「へえ。そんな力もあるのか。アイギスには」


「ああ。金属だけでなく、簡単な分子なら作れる。水とかな」


「凄いな」


 全くの初耳である。アイギスにそんな技術があるなんて聞いたことがない。これには俺も驚かされざるを得なかった。


「貴方、アイギスが人間の弾を無力化する原理を知っていますか?」


 Ⅳ號戰車が尋ねてきた。


「そのくらい知ってる。AM(アーエム)Barriere(バリエル)(対金属障壁)で鉛やタングステンの金属結合を粉々にするんだろ?」


「ええ。その通りですわ」


 人類がアイギスにこれほどまでに苦戦しているのは、奴らに弾が効かないからだ。しかし、それは奴らの装甲が頑丈だからではない。


 アイギスの装甲の表面には金属の原子同士の繋がりを一瞬で崩壊させる障壁がある。それに触れた弾丸はことごとく砂の城のように崩れ落ちていく。そして帝國軍はこの障壁をAMバリエルと名付けた。


 これは、人類なら皆知っている常識のようなものだ。


「それがどうしたんだ?」


「貴方がたがそう呼ぶもの、それは更に汎用的な技術の一つの使い方に過ぎないのですわ」


「ほう」


「つまり、わたくし達が本来持つ原子操作の技術を破壊に使用しているのを、人が勝手にAMバリエルと呼んでいるだけなのです。今ティーガーⅡがやって見せたことは、AMバリエルと本質的に同じ技術ですわ」


「なるほど。面白い」


 人類は未だ原子を直接弄る技術など持っていない。核兵器を使うか粒子加速器を使うかでなければ新たな原子は作れない。


 それをいとも簡単にこなしてしまうアイギスの技術力には恐れ入る。


 しかも奴らはその技術を破壊だけでなく創造にも使うらしい。人類はあらゆる面で完敗だな。


「そういうことだ。何か作って欲しいものがあったら言うがいい」


 ティーガーⅡは偉そうに言った。別に彼女だけの技能でもなかろうに。


「了解だ。使い道は色々ありそうだからな」


「それで、貴女、その銃を出すのに何秒かかりましたか?」


 おっと、そう言えばまだお二人さんの勝負は続いていた。


「30秒くらいだが」


「それだけあれば敵兵は懐に入ってきます。そうなったら、貴女、おしまいですわよ」


「ぐぬぬ……」


 ティーガーⅡは何とか逃げ道を探しているようだが、これもティーガーⅡの完敗だな。


 敵に見つかってから銃を作ってるようじゃ間に合わないのは明らかだ。流石にそれくらいは分かる。


 銃は常に持っとくべきなんだな。


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