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1-8-11

「はあ…… とっとと決めて下さいますか? 貴方、軍人でしょう?優柔不断に過ぎるのではなくて?」


 IV號戰車は少し苛立っているように見えた。


 世界を達観し、我関せずと言った風だったが、心変わりでもしたのだろうか。それとも氷室中佐が気に入らんだけだろうか。


「わ、分かった。こいつをどうするかは保留とする。本国に持ち帰ってから考える」


 氷室中佐はすっかり毒気を抜かれてしまっていた。


「まあ、そんなところでしょう。言っておきますが、今のあの子は何も覚えていないのですから、悪いことを言わないように」


「お前は、仲間想いとかをする奴なのか?」


「さあ? どうでしょうね。では、わたくしはこれにて。またお会いしましょうね」


 Ⅳ号戦車はそのまま消えてしまった。


 面倒な奴だが、俺達に敵対的な行動を取ったことは未だ一度もない。味方と考えていいとも思える。


 しかし、特に面識のない筈のティーガーⅡやマウスに無条件で味方をすると言うのは、少々違和感がある。


 何か他に目的を持っていると思えるのだ。


 さて、停止したマウスのすぐ横で、軍議が開かれていた。


「しっかし、保留なんて言っちまったが、どうすりゃいいんだか……」


「と言うと、どのようなご懸念が?」


 氷室中佐の愚痴を、吉川大尉は真面目に取り合った。


「本国に持ち帰ると言ったが、そんなことが出来るとは思えねえんだ」


「やっぱり殺してしまおうとは思わないのか?」


 別に、Ⅳ号戦車とは約束をした訳ではないし、そうであってもそれを履行する理由はない。


 ここで弱体化したマウスを殺す方法もある筈だ。


「思わねえな。俺は約束を破るのが嫌いだ」


「お前が単純な奴で、よかったよ」


「あ? お前は俺を何だと……」


「さあ?」


 これは恐らく氷室中佐の本心だ。彼がマウスを殺そうとすることはないだろう。


 そして、彼の懸念は的を得ている。どのようにマウスを持っていくか。


「あ、あの…… ちょっと、いい?」


 天幕の端っこに幽霊のように佇む少女、マウスその人だ。


「何だ?」


「ええと、私、普通について行くけど……」


「ああ…… その可能性を忘れていた」


「な、何でさあ? 私だって、走れるよ」


 ティーガーⅡもパンターも、当然のように自分でついてくる。運搬など考えたこともない。


 では何故にマウスで同じことを考えなかったか。


「そう言う問題じゃねえんだ。お前を信用出来ねえって話だ」


「お前、フィーアが言っていたことを忘れたのか?」


「んな訳ねえだろ。しかし、信用出来ないものは出来ないんだ。仕方ねえだろ」


「まあ、信用なんてものは個人の価値観か」


 ここは氷室中佐の方針に従うのが上策だろう。実際、それでティーガーⅡは一応の信用を勝ち取った。


「とは言え、自走してもらわなきゃ、持ってくのは無理っすよ」


 幽霊仲間の小早川一等兵は言った。


「それは確かか?」


「はい。あれは流石に、重過ぎるっすからね」


「じゃあどうすりゃ……」


「私がいつでも殺せるように見張っておくってのはどう?」


 パンターは言った。いい案だ。そうすれば氷室中佐も自走を認めざるを得ないだろう。


「ダメだ。それは意味がない」


 冷徹に釘を刺したのはティーガーⅡであった。


「確かに、お前達の主砲ですら奴の装甲は破れなかったな」


 中佐の言う通りだ。それはマウスには無意味。


「ええ…… ダメ?」


「ダメだ。それでは何の保障にもならん。しかし、手は一つある」


 ティーガーⅡは不敵な笑みを浮かべた。


「何だ?」


「前に使った爆薬を、こいつの内部に設置するといい。そうすれば、流石に殺せるだろう」


 体の中に爆弾を突っ込んでおこうと言う過激な提案である。


 しかし、ティーガーⅡが言うからには、それが殆ど唯一の確実な保障なのだろう。


「なるほど。悪くない。お前、それでいいか?」


 そんなとんでもない提案の是非を、氷室中佐は当人に直接問うた。


「ま、まあ、別にいいけど」


 即答だ。正直心底びっくりした。


「ほ、本当にいいのか?」


 驚いたのは氷室中佐も同じらしかった。


「え? うん。わざわざ断る理由もないし……」


「じゃあ逆に、とっとと逃げるって選択肢はないのか?」


 余計かもしれないが、これは聞いておきたい。


 まあもっと早くに聞くべきだったが、マウスを連れてくと言うのはあくまでアインザッツグルッペンの決定であって、マウスがそれに従う理由はないのだ。


「だって、逃げる方が面倒臭そうだし……」


「アイギスにそのまま残った方が…… いや」


 そこで気づいた。現在、こいつにとって人類の兵士と言ったらアインザッツグルッペンだ。


 帝國最強の集団しか見たことがない。となれば、アイギスをことごとく殲滅した人類に味方するのが無難と判断するのが自然だ。


 しかし、彼女を他に運べば、アイギスに蹂躙される人類を目にすることになるだろう。


「中佐、ちょっといいか?」


 今の気づきを伝えた。


「で、それの何が悪いんだ?」


「人類が雑魚と思われれば、あいつがやっぱりアイギスにつこうと思うかもしれないだろ?」


「ああ、なるほど。そいつは面倒だな…… ちょっと考えさせてくれ」


「対応は任せる」


 氷室中佐はマウスの存在を忘れて思考にふけった。

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