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das Verschwindende Utopie

投稿後即行で読んだ方はこんばんは。本作ロストユートピア、僕の小説としては2作目になるものです。


さて、今作は戦車擬人化ものという前作とはうって変わって攻めた話になります。ラノベ好きなので素直にラノベに寄っていこうと思います。


しかし、ただ兵器擬人化ものを書くだけでは月並みに過ぎるので、あらすじを読めば察せられるように、今作は末期的な戦場を舞台に、人類滅亡一歩手前の絶望的な、かつ当の擬人化兵器達が人類の味方でもないという話を書きたいと思います。


あと今作では作中独自の固有名詞と作中で実際に用いられている文章をそのまま載せている場合には旧字体を使うことにしました。


また世界の中心はドイツですので、ドイツ語も(ほぼ名詞だけですが)使います。あと少々のギリシャ語やフランス語も。つまり作中原文絶対尊重主義ということです。


因みに、タイトルだけ英語なのは、タイトルをドイツ語にしたら誰も寄って来なくなるからです。


それでは、長くなりましたが、取り敢えず序章からお楽しみ下さい。

 透き通った硝子から眺めた帝都ゲルマニアは、控えめに言っても凍りついている。


 星々は眩き美しいが、それはつまり地上に活気がないということだ。


 しかし、それが鳴り止まない空襲警報のせいかというと、そういう訳でもない。


 勿論その影響が全くない訳ではないが、おおよその原因はGeheime Reichspolizei(祕密帝國警察)、略称にはなっていないが通称Gestapo(ゲシュタポ)と呼ばれるそれである。


 皇帝のお膝元であるこの都市で、自由な言動、或いは政府にたてつくような真似が許されるはずがない。


 人々はそう疑われないよう懸命に皇帝への忠誠を示しているが、それが極限まで外の人間と接触しなければ良いという結論に達するのに、そう時間はかからなかった。


「…… 了解した。通信終わり」


 月光は彼女を照らす。


 金髪碧眼、ゲルマニアの寂れた風景には目もくれず、虚空に向かって話しかけている軍服(っぽい何か)を着たその少女の名はTiger Ⅱ(ティーガーⅡ)


 人類が初めて接触し、初めて種の生存をかけた闘争を繰り広げた異星文明、Αιγίς(アイギス)の尖兵の一人であり、正確にはそれが人間と対話する為に出してきたインターフェイスである。


 ただ彼女は変わり種で、第二次大戦期の重戦車ティーガーⅡを基に造られている。ティーガーⅡという名も、当然ここから来ている。


 また、その見た目はあまりにも人間そのもので、普通に歩いていて彼女が機械だと疑うことはまずない。


 しかし、例えば今何にも触れずに無線通信をしているように、やはり人間ではないのだ。


 もっとも、俺にとっては人間か機械かなど、どうでもいいことだが。


 さて、何か報告でもあったらしい。まあその内容は大体予想出来てしまうんだが。


「どうした?」


「東の最終防衛線が突破された。叛乱軍は、ゲルマニアまであと3時間もあれば到達するだろう」


「了解だ。思ってたのより少し遅かったな」


 とまあ極めて切迫した状況なのだが、俺は余裕をぶっこいている。寧ろまだ3時間もあるのだ。それまでやることもないし暇じゃないか。


 それでだが、叛乱軍というのは、かつては地上唯一の国家として名を轟かせたdas Reich(ライヒ)(帝國)、正確にはDie im Reichstag und Reichsrat vertretenen Kaiserreiche und Königreiche und Länder(帝國議會および帝國參議院によつて代表される諸皇帝國および諸王國および諸邦)に反旗を翻した奴らだ。


 既に諸国は陥落し、今や皇帝政府が押さえているのはヨーロッパ大陸のみとなった。


 それも、さっきティーガーⅡから報告があったように、ゲルマニアより東はことごとく失っている。


「ライ、これで本当によかったのか?」


 ティーガーⅡは顔色一つ変えずに尋ねてきた。もっとも、奴は表面上そう装っているだけで、中身は結構繊細な奴なんだが。


「ああ。俺はここに残り、そして死ぬ」


「やはりそう言うのか…… しかし、まだ時間はある。まだ生き延びる手段は残っている。死ぬことはないじゃないかと、私は思うぞ」


 ほら、ちゃんと俺のことを心配というか延命しようとしてくる。こういう時いつもなら少しは考え直してやる俺だがしかし、今日ばかりは自分の意思を貫かせてもらう。そう決めているんだ。


 だがティーガーⅡは何とかして俺を説得しようと試みる。


「考えてもみろ。私なら、叛乱軍の包囲を突破することは十分に可能だ。それに、外にはお前を匿ってくれる人もいるはずだ。ここから一緒に脱出してはくれないだろうか?」


 アイギスの量産型兵器ですら、人間の軍隊と戦った場合は20倍の相手とおよそ互角に戦えるとされている。


 だがティーガーⅡはそんなもんじゃない。彼女は完全に戦闘に特化したタイプなのだ。


 とは言え、彼女が人間の兵器と比べて遥かに強大であるにしても、数が違い過ぎる。


 叛乱軍の数は既に100万に迫っているのだ。逃げるだけでも、はっきり言ってそれは博打だ。


 本人は出来ると言ってはいるが、実際、それが成功する公算は低い。大方、刺突爆雷なんかで二人揃って仲良く爆破されることになるだろうな。そいつは御免だ。


 しかし、それはそう重要じゃない。例えほぼ確実にここを脱出出来るとしても、俺は恐らくここに残るだろう。


「ダメだ。俺はここで死ななければならない。俺だけが悠々と余生を過ごすのは赦されないだろう」


「しかし、お前はお前だ。死んだ人間などただの肉の塊でしかないだろう?」


 ああ、大分人間らしくなってきたんだが、こういう倫理観が少々欠如しているんだ、こいつは。こうなるとこちらからの説得は困難だ。


 まあ、わかってもらう必要もないか。


「俺がそうしたいからそうするんだ。ただそれだけだ。わかってくれ」


「しかし、私は……」


 うつむく彼女の姿を見ると、流石の俺も可哀想に思えてきた。だが、これは義務なのだ。俺も人間性をさっぱりと捨て去った訳ではないのでね。


「俺だって、少し違いはあるが、ただの人間だ。死んだらただの肉の塊になる。気にすることはないだろう?」


「そうだが、しかし……」


 言いたいことはわかる。こいつとの付き合いも大分長い。だが、俺はあえて彼女には冷徹に接した。


「俺の言うことに従え。従ってくれ」


「…… わかった。引き続き、戦況の把握に努める」


「頼んだ」


 まあ勝敗などわかりきっているし、ただ蹂躙されているだけのSchutzstaffel(親衞隊)について面白い報せがある訳でもない。


 それは彼らがゲルマニアに到達するまでの残り時間をより正確なものに更新するだけの作業に等しかった。


 しかし、もちろんティーガーⅡには言っていないが、最期の時間を彼女と二人っきりで過ごすのは、なかなか心安らぐものだった。

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