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花火

2人の花火

作者: 美都

 カランコロンと下駄を鳴らしながら、人の波に乗って花火大会へと向かう。花火が始まる時間まではまだあるけれど、多くの人が会場に向かっている。



 気を付けていないとはぐれてしまう。そう思ったわたしは、はぐれないようにと彼の浴衣の袖をちょんとつまんだ。すると彼は、こっちの方がいいと言いながら、わたしの手を握ってくれた。いわゆる、恋人繋ぎというやつで。



 今年の花火大会は2人きりだ。

 地元の花火大会ではないけれど。



 上京してまだ4ヶ月。日頃の人の多さには慣れてきたものの、イベント時の人の多さには改めて驚いた。花火大会の最寄り駅まで電車に乗ること。電車の中だけでなく、駅から会場までの道も人で埋め尽くされていること。そのどれもが、わたしには新しい体験だった。



 去年までは、花火大会といえば地元のものだけだった。それも、家の近くの海岸で、友人たちと話しながらゆっくり歩いても、はぐれないような規模のもの。だからこういった人ごみを見ると、ああ、東京にいるんだなあと実感する。



「東京の花火大会っていっぱいあるんだね。毎年地元のにしか行かなかったから、驚いちゃった」

「まあこれからは東京暮らしなんだし、毎年少しずついろんなところに行こうな」



 上京してからは会社の同期との会話もあって、彼と2人で会話をする時も方言が少なくなってきた。こうやって東京になじんでいくのかな、なんて考えると、少しだけ、ほんとに少しだけさみしい気がする。だけど、隣に彼がいる。そして、2人で新しいものを体験していく。そう考えると、幸せだなあと笑顔になれた。



 東京でみる花火は、地元のものよりずいぶんと最先端なものだった。すごいすごい、なんて言いながら彼を見上げると、彼もまた、そうだなと言って楽しそうに笑っていた。



 でもやっぱり、友人たちとみた地元の花火は別格に感じられて。きっと、東京の花火はみんなのもので、地元の花火は自分たちのもの。そんな気がしているのだと思う。



「来年は、地元の花火大会にあわせて一緒に帰省しような」



 考えていたことが顔にでていたのだろうか。彼はそう言って、わたしに優しく笑いかけた。いやきっと、彼はわたしの頭の中が読めるに違いない。いつもお見通しって顔をして、わたしの欲しい言葉をくれるのだから。



 東京での生活と地元の思い出、どちらも彼と共有できていることが嬉しくて、わたしは笑顔でうなずいた。

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