閉鎖されていく世界で新たな道を求める愚かさ
「私を攫って」
ふと呟いた僕に、使用人たちは驚きの視線を向ける。
いきなり妙な独り言を言ったものだから、戸惑うのも当然のことだろう。
むしろ納得された方が僕としては嫌だね。
奴にすら触れられない秘密の地下牢か何かで、僕を監禁してしまってくれたら、もっと幸せになれるだろう。
今の半端な自由は、恐怖の源となっているのだから、奪ってしまってもらいたい。
二人だけの世界へ誘って、死ぬまで僕を愛していて。
願ってはいけない願い。
求めてはいけない求め。
思ってはいけない想い。
どれも僕の心を、体を蝕んでいく。
罪と一緒に牢獄で暮らすか、罪を流して出世をするか、そのどちらかを選んでしまいたい。
いっそそうしてしまったら、僕はいくらも楽になれる。
楽になるために選ぶ道としては、最低最悪なことかもしれないけれど、だとしても僕は今の場所から逃げ出したいのだ。どこへでも、逃げ出せるのならいいのだ。
その気持ちもまた罪という形で僕を責める。
逃げ出したい。逃げ出してしまいたいんだ。
そんなに僕は悪人でしたか?
いつまでここで大人しく、怯えて生きていなければならないのですか?
大切な人ができた僕は、途端に弱くなったみたいだった。
大きな夢に溢れた、あの大きな大陸にでも渡ってしまいたい。
そうしたら、僕の願いなどきっとちっぽけで、どうだっていいことなのだと頭だけじゃなくて、心でもわかることだろう。
最大の逃げではあるだろうが、それが結局の僕の望むところなんだ。
僕のためにあなたがリスクを負ってくれるのは、嬉しいことではあるけれど、僕としては避けたいところでもあるのが当然のことだ。
それなら、そうならないために僕にはどうすることが必要なのだろう。
考えれば、逃げてしまうことの他ないような気がした。
僕が消えてしまったとして、探してくれる人がいたとしたら。
僕が消えてしまったとして、苦しんでくれる人がいたとしたら。
もし、天へ消えたでもない僕を追って、天へ召される道を選び、鬼に連れ出されでもしたとしたら、僕にはどう償うことができるだろう。
今度こそと後を追い、一緒に地へ落ちることか?
迷惑を掛けたくないので、消えるつもりであるのだから、心配をすることはない。
それをしっかり告げてしまっていたとして、止めてくれないはずがあろうか。
そちらこそ心配することはないなどと、心振るえるほど優しい言葉を添えられて、優しくされてただそれのみだろうが。
かえって心配させて、迷惑を掛けて終わりだ。
あなたに頼ってばかりではいけないから、あなたがいなくてもやっていけるようにならないと。
あなたの負担にはなりたくないんだ、僕は。
しかし最近になって会ったばかりの、たった一夜ばかり言葉を交わした人に、こうも依存することがあるだろうか。
いなくてもやっていけるだなんて、元より、そうしていたではないか。
突如として、どうしても必要なことになるだろうか。
”憧れとも理想とも言えるあなた”に迷惑を掛けたくなくて、僕は心を悩ませた。
その人が、だれであるかも知らずに。