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重なってしまった両想い


 耳元で囁かれる愛の歌は、あの名作たちが本当に彼の歌であったのだと信じさせる。

「愛してくださるのなら、私が男でも構いませんのなら、私も愛を交わしたいと思っております。愛おしい人などできないと、女性服を身に纏ったそのときに諦めましたが、このようなことが起こるとは思いませんでした。子も産めませぬし、役にも立てませぬでしょうし、困難も多くなるところでしょうが、後悔しませぬか? 私で、私で?」

 不安な恋心、私を恋い慕う心、その切ない心に泣きたくなった。

 私が頷けば報われる恋心ではあるとわかっていたが、なのだから喜びこそ今の恋心とわかっているのに、僕が悲しくなっていたのだ。


 抱き締め合って抱き合って、絡む指の温もりに、私は初めての愛を感じた。

 やはり先生に対するものとは違っているのだ。

 わかる。わかる、べきだ。

 先生への感情は愛とは違うのだと、僕には感じる必要があった。


 小指を繋いで瞳を閉じて、軽く会話をするばかり。

 それだけの愛の空間は、夫婦の褥と言えるものではないだろうけれど、彼は幸せそうであったし、僕も幸せであった。

 穢されることのない神聖なる関係のまま僕たちは愛し合う。

 生殖という営みを超えた愛は、より強力な愛であるように今の僕には思えそうだった。


 だけど間違っているのだという不安と自責は消えない。

 彼とて僕を愛してくれているのだから、お互い様のことであって、他のだれかに迷惑を掛けているわけでもない。

 悪いところなどないというのに、間違っているような気がしてしまうのは、愛の目的が生殖である「穢れの生」が「正」となっているからなのだろう。

 そんなものは動物だ!


 女性として生きていくと決めたのだし、これは僕にとって利であることだろう。

 僕がだれかのものになったことを、厭う奴だとしたら?

 それはありえない可能性でもなかった。

 清純を守っていた僕であるから手を出さなかったという、特殊なる性癖もやたら真実がましく流れているところである。

 もし本当であったらば、僕を生かしておいている理由に納得がいく。


 しかしそれであったら、僕が、私が恋をしたことを知れば、それを奪おうと考えることになるかもしれない。

 待っているようにも思えるのだから。

 いつか僕が恋することを待ち、奪うことに目的を持っているようだった。


 性格も性癖も歪みを感じるが、そこまで歪んだ愛ではないところを信じよう。

 愛されているの。今の私は愛されているの!

 ねえ、それはいけないこと?

 ねえ、それじゃいけないのかな。

「私は不安なのです。助けてくださいまし」

「その不安が消えるまで愛を告げましょう」


 僕が眠るまで、ずっと甘い言葉を投げてくれていた。

 撫でてくれていた。愛しているのだと、感じさせてくれていた。

 だけど翌朝、目を覚ますと僕の隣にはだれもおらず、それは堪らなく不安を煽り、寂しくなるところであった。

 残り香がなければ、全て夢となってしまっていたことだろう。

 それくらい幸せなひとときであった。


 いつの間にか、愛だった。



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