躊躇いのない愛 直線上の愛
悩みに悩んだのだが、僕は決めた。
終わらば終われ。停滞したまま時間が過ぎて、もうこちらから手を伸ばしもしづらい頃になってから、飽きて捨てられでもしたら、残された僕の心は何をするか。
それよりは、終わるにしたって、こちらから全てを曝け出して、その上で判断を求めた方がいい。
騙し続けているよりは、まだ、こちらの方が楽だ。
早速、今宵にまたも現れたらば、案内してくれるよう頼んだ。
まだ飽きてはいないようで、変わらずに訪ねてきたようだ。
「こうして直接お話を聞いてくださるようになったことは、進展であると、そう考えてもよろしいので?」
余程追い返されなくなったことが嬉しいのか、声からも伝わるほどの上機嫌である。
躊躇いつつも僕は覚悟を決めた。
上機嫌なこの人が、どう豹変し、何をすることだろう。
何を選ばれ、何を選ぶことになるのだろう。
手ずから動かそうとしている恋の物語には、覚悟を決めたとは言ってもやはり、緊張するところが残っていた。
軽く深呼吸をする。
「あなたは私を好きと言いました」
「はい」
「もし私の正体が何であっても、それを受け入れ、愛するだけの覚悟がおありなのでしたら、入って来ても構いませんよ。少しでも迷う気持ちがおありなら、真実に絶望し後悔しないうちに、私のことは諦めなさい」
「愛しています」
一瞬の躊躇いもなく、男性は入り込んで来た。
完全に顔を見られてしまった。
元より嫁に行くつもりなどないけれど、ここでは未婚女性である、ましてや姫である僕が、彼に顔を見せたことは、つまりそういうことを示している。
今更になって断って、他の家へ嫁に行く選択肢は費えるわけだ。
「男性だったのですね」
ジッと僕を見ていれば、どこかで気付いてしまったらしく、彼の呟きが耳に入った。
「ええ、男性だったのです」
何も言えなかったのは、お互い様であった。
「歌からも通じていることと思いますが、その美貌に惑わされ、乱れた心で愛おしく思いました。妻にしたいと思いました。ですから、男性であったことを知らされたからと言って、突然、友として見よというのであれば、無理なことにございます」
「私とて、ああも魅力的な歌を毎晩届けられては、男の心も攫われ、乙女の気持ちで惹かれるものです。友として見るなど私にも無理なことでありますし、そういうことであったら、このような時間に、このような場所に招きはしません」
腰を引き寄せられて、口付けられて、僕の心の迷いは撤去されていくようだった。
この安心感といったらない。
男にこのようなことをされては、嫌に思って当たり前なのであるが、不思議と心地好くすら思えていた。
心まで僕は完璧な女装をしているのだろうと思わずにいられない。