迷走する恋心の答えを求め
先生ならば助けてくれるかもしれない。
幼い日の先生であって、ずっと頼りにしている人である。
女装しているとはまさか思ってもいないことだろうし、もう僕は死んだものだと思っているはずだ。
こんな格好でいることを打ち解けて、恋の相談なんてしようだなんて、それほどに恥ずかしいことがあるだろうか。
色恋沙汰など持っていったこともないし、好きな女子の話もしていやしないのに、男に迫られて迷っているだなんて、それじゃあまるで僕がそういったことみたいじゃないか。
そもそも僕には恋など無縁の話なのだし、人のために心動かされるようなことが、ましてやこの状況下であるものだろうか。
反対に、このような状態にあるからであって、勘違いなのかもしれない。
「私、先生に相談したいと思います」
考えているうちに、行動を起こしてしまっていた。
とりあえず昨日は追い返してしまったけれど、これからも通ってくれるのだとしたら、あの素敵な人に対して僕は最低な行為を働いているように思えるのだ。
解決策を見付けられる人など、先生以外に思い当たらない。
このまま会わないでいられたら、僕は死んだと、今こそ哀しんではくれるにしても、いずれ忘れ去り幸せに生きてくれることだろう。
屈辱的な日々を先生に晒して、迷惑を掛けて、必要のない真実をまで携えて、僕は何をしようとしているのだろう。
重い裾を引き摺って、姫様らしく運ばれている。
思い付きのためにこのようなことをさせてしまっているのだから、思い付きのために取り消せようはずもない。
それに、考え直して帰ったところで、今とは逆の後悔に包まれるに決まっているのだ。
先生。会いたい。
「……え?」
話が聞きたいというだけのことであると思い込んでいたが、心の中で呟かれていた言葉に、僕は戸惑いを隠せなかった。
会うべきでないと知りながら、会いたいと思ってしまっていた。
ただ、意見を求めるために、話をする必要があるであろうというだけ。
憧れの人ではあるけれど、それだけであるのに、何で会いたいなどと思ってしまったのだろうか。
その理由も含めて、会えたら、先生に訊いてみるとしよう。
だから僕は先生に会いたいと思った、それだけなのだ。