重なるはずのない両片想い
残念ながら、僕の願いは通らなかった。
覗かせることは決してないよう、警備を厳重にしてくれたようだけれど、毎晩毎晩、熱心なことに通ってくれているようだった。
一応は手紙を届けてくれている、その内容はいつも素晴らしいもので、心惹かれてしまいそうになる。
いつの間に僕は乙女心なるものをこの胸に抱いてしまっていたのだろう。
服装やら、必死の装いやらで、いつしか心が女性に近付いてしまっていたのだろうか。
名前は聞かされていないし、書かれてもいない。身分だってわからない、ただ知っているのは、美しい文字と名文だけ。
こんな男を相手に、何を感じてしまっているというのだろう。
男に口説かれて、何に心動かされているというのだ、僕は。
この先もまだこんな日々が続くのなら、きっと僕は惚れてしまう。
男の僕が顔を出しでもしたら、もう僕は……終わりだ……。
惚れてしまう前にやめさせなければならない。
手紙だって、辛いなら読まなければいいのに、そうさせてくれない力があるようだった。
これほどの腕前があることなら、どのような女性もお手の物であろうに。
才能のある人が、僕などに惚れてしまったようで、本当に憐れなることで。
「今晩もいらしたら、直接、私が話をしたいと思います。部屋のすぐ傍にまでご案内して、それから、徹底的な人払いをしましょうかしら」
どれほどの人が僕の意図を汲み取ってくれたかはわからないが、そうとだけ告げて、僕は夜を待った。
その日の夜も、変わらずに男は来たらしかった。
「漸くあなたの声が聞けるのですね。返歌をとまでは求めません。ただ、そこにいることを感じて、同じ風に吹かれているだけでいいのです」
外の声は穏やかな色で優しさを流した。
字体に表れていたように、上品な貴族なのだろう。
これで見る目さえあれば完璧な人なのだろうな。
「諦めてくださるよう頼ませたのですが、その言伝は届いておりませんでしたか?」
「ですから、少しずつその心を開けたならと思っているのです。一世一代の恋、最初にして最後の恋、実らせたいと努力するのはなりませんか?」
大袈裟の表現は、素であるのか、相当の遊び人であるのか。
「他に好く人でもおありですか?」
揺れる声は、僕の愛を切望してのことだろう。
そうも僕を好いてくれているというのなら、尚更、真実を知られてしまうわけにはいかない。
あくまでも女性だと思わせたままで、お断りしなければいけない。
もしかしたら、僕が男であったとしても、受け入れてくれるかもしれない。
それは過ぎた願いであり、また願うはずのない願いでもあった。




