憐れな恋歌の美しさに心奪われて
「ん?」
このような羽目になる前の、幸せだった頃から、家に仕えてくれている使用人が、幸いなことに今も傍で仕えてくれている。
謎の紙を拾った僕に、警戒するように周囲から使用人たちが近付いて来ていた。
御簾の隙間から差し込まれたのだろうか。
ただの紙なのだし、そうも警戒する必要はないと思うのだが、早く捨てるように求めてくる。
「姫様! 何ぞ毒でもあるかもしれませぬ! その御手で、触れるものでもございませぬぞ」
何が書かれているかはわかったものではないが、間違えなく文であることだろう。
普通に考えてみれば、毒などありえないことだろうし、内容も知らず捨てるものでもないだろう。
気持ちはわかることであるが、慎重になりすぎなのだ。
そっと開いたところにあったのは、実に見事な恋歌であった。
「決して覗かせぬようにと言ったではありませんか。私に惚れる物好きが本当にいるとは思いませんでしたが、万が一があると言ったでしょう。丁重にお断りしておいてください」
内容を理解したようで、みんな、申しわけなさそうに視線を下げる。
一応ずっときちんと女装はしているけれど、姿を見られたら、男と知られることもあるかもしれない。
なのだから、徹底して覗かせることはないようにと命じてあった。
その可能性は感じられなかったが、惚れられでもしたら、こちらも困るし相手も可哀想なのだから、決してないようにと強く命じてあった。
それに、恋など起こしてしまっては、何をされるかわかったものではない。
事件にはならなかったにしても、目立つことで、奴の気を惹くようなことにもなるかもしれない。
今は少なくとも奴に気付かれていないのだから、このまま秘かに穏やかに、怯え警戒しながらも、生きていく必要があるのだ。
何かの種となることは潰さなければいけない。
歌としては素敵だと思うのだけれど、どのような人であるかも知らない。
そもそも僕は男であり、歌を贈ってくれたのだから、その人も男であることだろう。
成り立たない恋なのだから。
すぐに諦めて身を引いてくれる人ならいいのだけれど。