儚く散りゆく桜の君
僕の中からあなたの色を消してしまおう。
掻き消して、書き換えて、何も見えなくなってしまおう。
そのために僕は刻々何かに染まろうとした。
濃く濃く、染まってしまおうとした。
いっそ、奴のところに行くことこそが、僕の求め得る解決策かもしれなかった。
助けてくれと、または助けてくれるかと、直接求めてみるのだ。
それによって、奴が僕に何を仕出かすかわかったものでもないのだし、息を殺しているのが一番なのには決まっている。
なのだけれど、恐怖と一緒にあらなければならないのが辛かった。
窓の外。
風が強く吹いて、桜が散り乱れていた。
「美しいものですね。まるで君のようでありますよ」
幻想的なまでに輝く花弁に彼は言う。
「もうすぐ散って消えてしまうのですね。それもまた、まるで私のように」
限界であるに違いないのに、彼は今も僕の傍にいてくれている。
それさえも嘆かわしかった。
嘆く。嘆く。僕は嘆く。
それさえもまた、散りゆく桜であるかのように。
咲き乱れる桜であるかのように。
生きていたかった。
一人でも生きていかなければならなかったら。一人で残されてしまったからには、生きているべきであるし、生きていたいと思ったのだ。
他でもない僕自身が、家族が命を賭してまで守ろうとしてくれたものなのだから。
だからこそ、平安を求めていた、そのはずであったのに。
頭のおかしくなってしまいそうだった。
離れなければならないのが辛かった。
毎晩会えるのに、朝になると別れが訪れてしまうことが、狂おしいほどに寂しさを生むのだ。
僕はどうしたらいいというのだ。
あなたに触れた指の温かさが、僕には憎らしかった。
桜の花め、おまえが散ってしまったなら、あと少しばかりは気が楽だったかもしれないのに。




