献身の闘争 1話 アドルフの序章
彼は殺し屋だった。何をも恐れない殺し屋だった。
時は今から約100年前の頃。ドイツに、ある男児が生まれた。
彼の名はアドルフといった。彼の母はとてもおおらかで、近所でも評判だった。
また彼の父は軍人で、それ故に彼は厳しく育てられた。
その襟元にいくつもの勲章をつけて歩く父はドイツ国民の英雄だった。
アドルフは必死で勉強と鍛錬を続けた。家名を汚さないためだ。
その結果彼は優秀な軍人学校に入学できた。学内でもその優秀さは評判になる程だった。彼の優秀さを自らのことのように父は喜んだ。
卒業後、アドルフはもちろん軍人になった。
その頃、ドイツではヒトラー総統率いるナチス党が政権を掌握していた。
アドルフの父はヒトラーの右腕として働き、その地位を確立していた。彼の父への憧れは高まっていった。しかしまた、彼の働きぶりも目を見張るものだった。戦争では自らの戦略を以って敵軍を粉砕し、国内では治安維持に尽力した。
すべては父のような英雄になるため。やがて彼は大尉まで上り詰めた。
彼の胸には多くの勲章がつけられていた。
人は彼はこう呼んだ。
殺し屋
彼の地位は殺めてきた人間の上に成り立っていたからだ。数々の勲章は彼の殺めた人間の多さを物語っていた。
なぜ自分は父のようにならないのか。街を歩けば子供たちに羨望の眼差しを向けられ、多くの人から頼られる。そんな存在にはなれない。彼の心には深い傷が残ったのだった。