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今どき、そう来るとは思っていなかった。

 朝起きて、トイレ行って、歯を磨いて、顔洗って、朝食作って、食べて、着替えて、洗濯機回して、食洗機回して、宿題――は脇に置いといて、スマホに向かってからもう一時間が経っている。見つめているのはSNSのTLでもゲーム画面でもない。たった一つの電話番号。

 リア充の神様――、もしいるのなら教えてくれ!

 恋人のはずなのにまともな会話を二ヶ月もしておらず、さらには恋人の友達から教えてもらった(のか?)電話番号で、初めての電話。彼女は僕が電話番号を知ってることを知らないんだぞ。そんな彼女を花火デートに誘う方法を、僕にご指導ご鞭撻べんたつお願い申し上げる!



 今日は日曜日で、両親は妹を連れて遊園地。家には僕しかいない。一人スマホを見つめ悶々もとい、うんうんうなっている姿は流石に恥ずかしいから運がよかった。置いていかれて悲しい気持ちもほんの少しはあるけれども。

 リア充男子はどうやってデートに誘っているんだろう……。そこは直球に、「デートに行こうぜ」だろうか。さり気なく、「ちょっと散歩しようか」はどうだ? 「あそこ行きたいって言ってたよね」とかいいかもしれない。が、全く想像がつかない。そんなセリフを口にする僕が。

 デートの誘い方指南書、みたいなバイブルがあればいいのにな。そんなものが存在しないから、こうして頭を抱えているのだが。

 リア充になるって難しいんだな。やっぱり僕には向いていない。きらきらした、眩しいまでの青春なんて送れやしない。たぶん僕という人間には、リア充だとか恋愛だとか、青春を構成するデータとやらが欠落しているんだ。だから、そういうルートを歩こうとしても都合の悪い方へと軌道修正されていく。

 もう、いいや。電話をかけるのも会話を繋ぐのも悩むのも、全部全部メンドクサイ。今日はもう寝よう。鼻もまだ痛む感じがあるし、寝たらすっきりするんじゃないか?

 どうせ薔子さんは、海も花火も友達と行くだろうさ。薔子さんの夏の思い出に僕なんかが登場するわけないんだよ。分かっていたさ。電話の薔子さんも二言三言どころか、たったの一言で僕を拒絶する。哀しくなる前に止めておこう。それがいい。

 花火くらい独りで見るさ。一人で見るも二人で見るも同じだよ、たぶんな。

 そうさ、花火デートなんてどうでも……花火なんて……どうでも……デートなんて……薔子さんと花火デートなんて……どうでも……どうでもよくない!

 そりゃあ行きたいに決まっているさ。着物姿の薔子さんと手を繋いで、花火を見上げて、「綺麗だね……薔子さんが」とか言ってイチャイチャしたい! 僕だってイチャイチャしたいんだよっ!

 こうなったらヤケだ! 砕けたくはないけれど、当たって砕けろだ。



 ツ、ツ、ツ、ツ、ツ、ツ、ツ、ツ、ツ、ツ、ツ、ツ、ツ、ツ、ツ、ツ、ツ、ツ、ツ、ツ、ツ、ツ、ツ、ツ、ツ、ツ、ツ、ツ、ツ、ツ、ツ、ツ、ツ、ツ、ツ、ツ、ツ、ツ、ツ、ツ、ツ、ツ、ツ、ツ、ツ、ツ、ツ、ツ、ツ、ツ、ツ――。

 長いっ! どれだけ待たせるんだよっ!

 これで、電話はお繋ぎできませんと告げられたなら僕はスマホを壊す。フローリングに叩き付けてやる。

 嘘ではなくて、今度こそ本当に諦める。未練がましく何度もかけ直すことはしない。絶対にだ。

 ツ、ツ、ツ、ツ、ツ、ツ、ツ、ツ、ツ、ツ、ツ、ツ、ツ、ツ、ツ、ツ、ツ、ツ、ツ、ツ、ツ、ツ、ツ、ツ、ツ――。

 繋がれ……! 早く繋がれよ……。本音はもちろん壊したくないんだよ……。だって、母親に怒られるのがこわいから。

 ツ、ツ、ツ、ツ、ツ、ツ、ツ、ツ、ツ、ツ、ツ、ツ、ツ、ツ、ツ、ツ、ツ、ツ、ツ、ツ、ツ、ツ、ツ、ツ――、プツ。

 ん? どっちだ? これは繋がった? 切れた? どっちなんだ??


「もしもし、茨城ですが、どちらさまでしょうか?」


 おおっ……! かかった――けど、なんか声が固くない?

 僕を拒絶するときよりは薔子さんらしい柔らかい雰囲気なのに、何というか――作り物めいているような感じがする。業務的な対応というか。発信者が知らない番号だからなのかな?

 うーん……いたずらだと勘違いされるかもしれないし、何かしゃべらないと。えっと……、びしっとかっこいいセリフ……、デート……デート行こう……。


「もっ、もしもし、成園なりぞのですが――」


 ブツッ。ツー、ツー、ツー。


「――――――――――」


 切られた……。しかも、一言目でどもってしまったし……。最悪だ。

 これは疎遠からの破局パターン(すでに破綻しているような関係だとは言わないでほしい。自覚がないこともないけれどさ、指摘されると辛い)が決定か。

 いや、待てよ。もしかしたら、今の薔子さんは混乱しているかもしれない。急にかかってきた電話番号の持ち主が元彼(泣)で、薔子さん自身が教えたわけでもなく、どこから漏れたのかも不明。

 薔子さんの心中は、疑問とか不安とかストーカーだ怖っとかでいっぱいいっぱいだろう。ということは、まだ着信拒否されていない可能性もある。だったら、もう一度かけても繋がるんじゃないか?

 今度こそ、はっきり言うんだ。デートに行こうと。


 ダダダダダダダダダダダダダラララララッダッダッダー。


 うわっ!? って、電話か。こんな大事なときにどこのどいつだよ、いったい。『魔王』の着信音は登録してないやつからのだったっけな――。自分で設定しておいてなんだけれどさ、間が悪すぎて心臓止まるかと思ったぞ。


「もしもし?」


 申し訳ないが今虫の居所が悪いんだ、さっさと用件を告げて終わらせてくれ、と毒を込めた声で電話に出た。出てしまった。かかってきた番号を確認もせずに。


「切るよ?」


 背筋の凍るような冷たい声が受話器からもれ、自分の犯した過ちの大きさに気づかされたのだった。



 どうして薔子さんが? 電話番号は教えた記憶ないし、履歴からかけ直した? わざわざどうして? もしかしてデートのお誘い? いやいやいやまさか……。そんなまさか…………。

 電話したことに怒って文句を? それも違うか、薔子さんなら着信拒否とか迷惑電話とかにしそうだし。でも、声の雰囲気は怒っているような気がするけれど。


「えっと……薔子さん、ですよね……?」


 もっと訊くべきことがあるだろうに、テンパりすぎて文章がまとまらない。どうしよう、頭の中真っ白。分かりきっていたことだが、僕の返事は薔子さんの機嫌をさらに損ねてしまう。怒っていたような彼女の声は、軽蔑のこもった毒に変わった。


「声で分からないかな? ホント、失礼ね」


「ごめん……」


「一つだけ教えて。どこで、うちの番号を知ったの?」


 『うち』? えっと、『うち』って……? 私(薔子さん)って意味の『うち』、ではないな。薔子さんの一人称は『わたし』だ。メモの番号は薔子さんの電話番号、ということじゃないのか? うちって……まさか、うち


「これって、薔子さんの家の――」


「答えて」


 やっぱり……。あのアフリカゾウめ、はめやがったな!

 何が応援してやってもいい、だ。悪意の塊じゃないか! 本当に応援する気あんのかよ!? もし薔子さん本人じゃなくてご家族が出ていたとしたら……僕は死んでいたかもしれない。

 だって、僕のことをどう説明すればいいんだ? 薔子さんとお付き合いさせていただいておりますが、二ヶ月以上彼女との会話はありません――いや、信じてもらえるわけないじゃん! よくよく考えてみれば、付き合ってるかどうかさえ怪しまれる説明じゃないか。

 無難に、薔子さんのお友達です、の方が納得されやすいかも……。でも、それだと薔子さんは彼女じゃないと認めてるみたいで嫌だ。ああ、僕は薔子さんの何なんだろう。そもそもお友達と呼べるのか? あれほど薔子さんに拒絶されていて?


「時間の無駄。はやく答えて」


「――はい」


 彼女への恐怖に負けた――もとい、薔子さんのお願いを快く受け入れた僕は、電話番号を手に入れた経緯いきさつをざっくりと語った。鷹嶺に偶然会って、紙切れを渡されて、そこに書かれていた番号に電話したら薔子さんに繋がった、みたいな話を。鷹嶺たかねの暴力行為うんぬんは包み隠しながら。

 だって、鼻血が出るほど鷹嶺に踏まれたんです、あいつはアフリカゾウなんです、とか誰が信じる? 二ヶ月以上も会話らしい会話がない恋人――そろそろ泣きそう――と、親友(鷹嶺)、どっちの言葉を信じるのかって話だ。

 それに、鷹嶺に踏まれたのは僕が廊下に寝転んでいたからで、寝転んでいた理由が、薔子さんが本当に僕のことを好きなのか分からなくなったからで。言えるわけがないよ。知りたいけれど、知りたくない。薔子さんが僕のことを好きで、愛してくれているのならいい。幸せなことだ。でも、例えば、もしも、薔子さんが僕を恋人ではなく、友達以上の関係でもなく、ただの同級生以下としか思っていないとしたら。以下が未満だとしたら……。

 僕は、自分を見失ってしまうかもしれない。

 風吹けば桶屋おけやもうかる――じゃないとは思うけれど、現実をまだ受け入れられる自信がない。だから、鷹嶺のことは黙っておく。考えすぎかもしれなくても、少しでも希望を残しておきたいから。



「…………………………」


 受話器の向こう側から音が消えていた。声も、息遣いも、外の音さえも聞こえない。通話中だから、切られたというわけではないと思う。

 どうしたんだろう。まさか、薔子さんの身に何かあったのか!? 襲われた? 突然のやまい

 何も聞こえない……。じょ、冗談だろ!? 僕をからかうためのイタズラとかそういうのだろ?


「…………………………」


 嘘じゃ、ないのかな……? 本当に何かあったんじゃないか? ただ黙っているだけにしては長すぎる。

 もし薔子さんに危険が迫っているのだとしたら、薔子さんの身に何かがあったのだとしたら、それこそ僕はどうにかなってしまう……。そ、その前に薔子さんが声を出せる状況なのか確かめないと!


「薔子さん、大じょ――」


「――さようなら」


 たった一言の別れの言葉を残して、受話器はツーツーとしか言わなくなった。



 何時間か、それとも数分か、ほんの一瞬しか経っていないのか、僕はずっとスマホを握りしめたまま座り込んでいた。頭の中をぐるぐると回る、たった五文字の言葉。

 薔子さんは何を思って、さようならと言ったのだろう……。通話を終わらせることに対して――なんて可能性がないことくらい理解しているさ。別れの挨拶以外には考えられないよな……。

 もちろん、また明日会おうねのような優しさを持たない、恋人としての関係を終わりにしようという決別。既に終わっていたかもしれないけれど、薔子さんなりのケジメ、いや、それこそ優しさか。

 これで、僕はもう、薔子さんに愛されているのかについて悩まなくて良くなったわけか。だって、答えが出たんだからな。断りづらくてOKして、突き放し続けても自然消滅の兆しすら見えず、泣く泣く別れを告げた。それが現実で、答えでもあった。

 僕は、薔子さんに、愛されてはいなかった。

 ピンポーン。

 誰だよ、こんな時に……。面倒くさいな、誰か出るだろ――って、誰もいなかったな。はぁ、居留守でも使うか……。

 ピンポーン。

 はいはい、この家には誰もいませんよ。あきらめて帰ってくれ。

 ピンポンピンポンピンポンピンポンピンポーン。

 うるせぇ! ベルが壊れたらどうすんだよっ!?

 あぁー、イライラしてきた。我慢の限界だ、振られて落ち込んでいる僕にちょっかいをかけやがって。こうなったら、やつ当たりしてやる。悪いのは先に手を出したそっちだからな!



 文句を言おうとドアを開けた瞬間、怒りも悲しみも、それどころか振られたことさえも、一瞬吹き飛んでしまった。油断していたらすごい速さで何かが飛んできて、僕は玄関に押し倒されたのだ。


「よっ! なるぞのくん! デートしよっか」


 僕のお腹の上にのしかかった浜永はまな純佳すみかは、かわいい笑顔にウインクまで添えてそう言った。

こんにちは、白木 一です。

ヘルウィークに入っており、モミジさんは休載ですが、お仕事の休憩時間や、電車での移動時間に悶々と、ニヤニヤ笑いをうかべつつ書きました。

はい、私は変人です。


それと、京都に行きました!

資料写真もまもなく投稿していきます!


@SHUa_CHRONICLE


↑が写真を貼るツイッターの(最近存在を忘れている)サブアカウントです。

ぜひに、皆様も創作にご活用ください!

ただし、無断転載・転用はお断りです。


それと、今作はハマナスとミトに暴れてもらう方針になりました。

モミジでの蘭おねいさんみたいなのですね……。

暴走っぷりも楽しみに、次話も気長にお待ちくださいますようお願いいたします。

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