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リア充うんぬん言う前に。

 どのようにすれば薔子しょうこさんの連絡先を手に入れられるのか、僕は一日中考えに考えて寝落ちした。

 そして翌朝、つまりは終業式当日、僕は良いことと悪いことに気がついたのだ。僕が彼女に拒まれるのならば、僕以外の誰かに連絡先を教えて貰えばいいのだと。しかし、僕にそんな友達はいない……。結果はむしろマイナスだよな、これ。

 待てよ!? そもそも恋人持ち=リア充って考えていたけれど、実際は『現実リアルが充実』の略だったはず。恋人がいるとかいないとか、全くとまでは言わなくても深い関係はなかった気がする……。

 えっ!? じゃあ、僕、リア充じゃないじゃん!

 恋人になったはずの薔子さんとはまともな会話が二ヶ月も成立していない。成績は中の上とか見栄を張ってみても結局は普通。アルバイト禁止のお固い主義な高校で、係長と専業主婦の家庭に育っているからお金持ちってわけでもない。小遣いなんてスズメどころじゃない。蟻の涙レベルだ。

 親友と呼べる友達も……いないと思う。あいつを親友とは呼びたくはないしな。しいていえば、せいぜい悪友止まりだろう。親友は言い過ぎだ。うん。

 とにかく僕はリア充ではない、ということが判明した。現実は時としてどころか常に残酷だ。つら……。

 そもそもだ、友達とは何だ? 友達の定義って、何だ?

 よし、困ったら僕の愛読書、辞書を開こう。愛読書というのはあながち嘘でもないぞ。僕が中学生だったときに、授業中、教科関係なしに辞書を引っ張りだしていたがために、


成園なりぞのの愛読書は辞書だな』


 などと当時の担任にいじめ――もとい、いじられた過去を僕は持っているのだ。何の自慢にもならないけれどさ。

 とはいっても僕も高校生になった。開くのは蓋だ。つまり電子辞書。わざわざ重い辞書を三冊も鞄に入れっぱなしだったあの日にはもう戻れないな……。ちなみに、国語辞典、漢字辞典、和英辞典の三冊。正直かなり邪魔だった。からかわれるのが嬉しくて机に出していたんだよなぁ。今思えば、ほんとに痛いやつだわ。

 おっと、忘れてた。友達の意味――だったな。お! やっぱり速いな、っと…………。

 僕は黙って電源ボタンを押した。見るんじゃなかった。僕には親友と呼べる友達以前に、友達すらいないじゃないか!


『互いに心を許し合って、対等に交わっている人(デジタル大辞泉)』


 とりあえず、学校行きます……。



 相変わらず薔子さんは僕を避け続け、終業式さえ終わってしまった。

 クラス中が夏休みをどう過ごすか、僕とは全くもって無縁の空気がつくられていた。お前らなんか毎日勉強していればいいんだよ。高校生二年生の夏休みから受験は始まっている、なんて通信教育とかでばんばん宣伝しているだろ? 遊ぶ暇があるのなら勉強しろよな。

 夏休みも、海も、花火も、遊園地も、キャンプも、合宿も、ビーチも、薔子さんの水着姿も、僕にはいらない。見たくないったら、見たくない。海に行きたいだなんて、一ナノメートルも思ってないんだから!

 ――僕がツンデレってどうするんだよ。

 行きたいです、はい。ものすごく行きたいです。さっきから薔子さんの楽しそうな声しか聞こえてこないんだよ……。


「しょーこは今年水着買ったの?」


「まだだよ。みーちゃんは?」


「今週買いに行くかもね。はまなすはどう?」


「あたし? 買ってなーい。じゃあさじゃあさ、みんなで買いに行こっ!」


「それ、いいじゃん! しょーこはどう? 行ける?」


「夏休み、予定ないから大丈夫だよ」


 そうですよね……。僕が一方的に話しかけているだけで、実際問題、彼氏彼女の関係かどうかも怪しいですもんね……。僕にも予定はないのでいつでもお付き合いできますよー。僕も一緒に映画を観たり、喫茶店へ行ったりしたいんだよ……。

 これはあれだな。聞き耳を立てていた罰だ。そうに違いない。女三人寄ればかしましい、とか言うけれど、騒がしい以前に近寄りがたいんだよなぁ。正直な話、めっちゃ怖い。

 ――もう、いいや。下手に彼氏面して、もしも薔子さんの中で終わっている関係だとしたら報われない。薔子さんを想っていた時間や、僕の告白が。それなら惨めかもしれないけれど、まだ繋がれているんじゃないかって誤解したままでいいや。楽天観で悲観的なまま、さんざ未練がましく、女々しく、遠くから眺めていよう。僕が薔子さんを好きであることは事実なのだから。

 夏休みの予定は食うか寝るか宿題か、これで決まりだ。家から一歩も出ないことに挑戦してみるのもありかもな。

 じゃあな、リア充ども。僕は真っ暗な夏を過ごすよ。呼び止めてくれなくてもいいさ。どうせお前たちの空気には付いていけないだろうから。

 補習を受けるような成績ではギリギリないから、学校ともしばらくお別れだ。呼び止めてくれなくてもいいからな。本当に、呼び止める必要は一切ないからな?



 数歩歩いては立ち止まるという違和感しかない行動を繰り返してみるも、僕なんかよりみんな夏休みに夢中らしい。

 いいよ! 諦めるよ! 帰るよ!

 僕はなかばキレ気味に教室を後にした。

 いや、うん……。器がちっちゃいとは自覚しているのだけれども……。薔子さんの本心が分からなかったり、友達がいなくて寂しかったり、誘って欲しかったり。つまりはヤケになっていたんだ。

 大した予定もないのに廊下をペタペタ(うちの高校はスリッパが上履きだ)早足で歩いて――つまずいて、転んだ。

 あーあ、ダサいな僕は。本当のことを知るのが怖くて逃げているのだから。独りぼっちだと思い知らされているようで、教室から逃げだしたのだから。

 あぁ――、なんだか泣けてきた。でもさ、これが現実なんだよな……。残酷だから、現実だと分かるんだよな……。夢のような現実じゃあ、夢と現実の区別なんて曖昧だもの。いっそこれが夢だったら、全部全部夢であったなら、こうやって寝転んで……目をつぶって……起きたら――。



 床が揺れている……。やっぱり僕は夢を見ていたのだろうか……。揺れが大きくなっていく――ん? 床が揺れるのとともに、パタパタ変な音が聞こえてくる。

 そういえば僕は廊下に寝転がっていたのだった。夏休みテンションで走り回っているバカな男子でもいるのか? 踏まれる前に退かないと――、


「居たっ! 成ぞ――、え!? あんた、何してんの?」


 男子かと思っていたら聞き覚えのある声だった。それどころか、さっきまで薔子さんと話していたうちの一人の声だった。

 顔を上げようとすると――踏まれた。顔面を、スリッパで、思い切り。そこには薔子さんの親友の一人、みーちゃんこと鷹嶺たかね三戸みとが立っていた。

 たぶん。――見えないけれど。


「変態。キモい。最悪。死ね」


 僕の顔面を踏みつけながら、鷹嶺は罵詈雑言を浴びせ続けた。


「痛い痛い痛い痛い! 何で? 何で踏まれてんだよ? 僕にそんな趣味はないよっ!」


 うちにもない、と言いながら、スリッパの底でにじられる。絶対嘘だと思った。

 そもそも鷹嶺と話したことはない。それなのに、なぜ、こんな仕打ちを受けなければならないのだ。心当たりが何一つないのだが。


「女子のスカート覗こうとするなんて、人間のクズね。いんや、人間未満だわ」


「ご、誤解だぁ」


 どうやら廊下に寝転がっていただけなのに、スカート覗きだと勘違いされているらしい。いや、確かに異常だな。まともな人間は学校で、廊下で、寝転んだりはしない。自業自得というやつだ。

 でも、身に覚えのない罪を甘んじて受け入れるほど、僕は落ちぶれてはいない。冤罪には断固抗議する!


「僕は――ぐぁっ」


「起き上がるな、変態」


 床と頭がこすれて、ゴリゴリと不気味な音を立てる。

 絶対嘘だ、鷹嶺こいつはサディストだ……。


「で、違うというなら、どうして廊下で仰向けになっていたのかしら?」


 それは――言えない。薔子さんが本当に僕のことを好きなのか、分からなくなってヤケになった――そんな恥ずかしいことを口にはできない。


「まあ、傘を返すときに勘違いで告白してしまう、自惚うぬぼれ屋の成園――ナルゾノくんに、スカート覗きなんてできるわけがないか。ごめんねえ?」


 謝罪の言葉はいらないから、早く足を退けてくれない? それに、わざわざ言い直すほど上手くないし、そのあだ名。

 そろそろ怒鳴ってやろうかと、本気で思ったそのとき、顔面に体重がかけられた。布が顔に触れる。これはあれだ。男子が穿くと白い目で見られるであろうあの布だ。そして顔の位置をずらそうものならば、肉体的にも社会的にも抹殺されてしまうパターンだな、これ。

 身動き一つ取れず固まってしまった僕の右手に、鷹嶺が何かを握らせた。感触は――紙のようだ。


「うちはね、薔子の笑顔を曇らせるやつがいれば、問答無用で踏み潰す。ナルゾノくんが本気で薔子を愛しているというのなら、薔子が笑顔でいられるのなら、うちはあんたを応援してやってもいい。うちにとって、薔子は親友で恩人なんだ。たとえ、それが学校長とかどこぞの社長とかであっても、もちろんあんたであっても、薔子を悲しませる奴はうちが潰す」


 それは、どすの利いた声であり、鷹嶺の心の叫びのように感じられた。

 僕はただ、分かったとしか言えなかった。身動きが取れないから――ではなく、鷹嶺の切実な願いに応えられるほど、薔子さんのことを知らない自分に資格があるのかが分からなくなったから。薔子さんの彼氏になる資格が、薔子さんを愛する資格が、僕にはあるのだろうかと。


「それは好きに使いな? うちは薔子の味方であって、ナルゾノくんの敵でも味方でもない。うちがあんたを邪魔するときは、害意を抱くときは、あんたが薔子にあだなしたとき。そのことは理解しといてね」


「んぎゃっ!」


 これはツケだと、一際強く踏みつけて、鷹嶺は去った。来たとき同様、パタパタ走って廊下を揺らしながら。

 僕は十分近く起き上がれなかった。床にめり込んでんじゃないかってほど頭が重く、頭蓋骨のどこかが割れているのかってくらい痛い。

 ――あいつ、手加減なしで踏んでいきやがった。

 普通に暴力事件が起こっていますけれど。救急車呼んでくれってレベルなんですけれど?

 ようやく起き上がれると思ったら、鼻血が引くほど垂れてきた。Yシャツにも付いて、マジで引いた。手に持っていた紙よりも、次に鷹嶺に会った日には、クリーニング代を出してもらうのだという決意が僕の意識を占めていた。



 鷹嶺は、女子高生の皮を被ったアフリカゾウ。終業式を終えた僕が、学校帰りに考えていたこと。見た目ひょろいくせに、どこにヘビー級スタンプを繰りだせる力があるんだよ……。

 女子は怒らせるとヤバイ。それが、終業式で得られた教訓だ。

 夏休みの自由研究は、ゾウに踏みつけられても潰されないすべでもテーマにしようか。そんな状況、日本で起こるべくもないけれど。おそらくは。二度目はごめんだぞ? 本気で……。

こんにちは、白木 一です。

この小説、書き始めたら止まらないです。

モミジとは違う楽しみがあって、興奮があって、これ、私危ないやつだななんて思っております。


この小説はTwitterがきっかけで書き始めたと申しました。

ちなみにですが、私のツイ友? には変わった人がたくさんいて楽しいです。素直な私をさらけ出せるんでしょうね。

様々な価値観や性格を持つ色々な人たちがいて、リアル世界同様、小説のきっかけになるようなこともたくさんあって。

本当に、ありがとうございます、です!


次話がいつになるかは分かりませんが、書きたくなったらまた投稿します。

これからも白木 一をよろしくお願いいたします。

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