これはリア充と呼べるのか?
あんたのことなんか、好きでもなんでもないんだからねっ! ――でも、嫌いになったら許さないんだから……。
もしかして、ドキドキしたのか? 文字の並びはツンデレっぽいが、声自体は男である僕のものだぞ。まあ、ややこしいことをしていた僕も悪いな。少しだけ、いや、少し長いけれど僕の話を聞いてほしい。
僕は、成園渉。いたって普通の高校二年生であることが自慢の一つの、どこにでもいそうな地味な男だ。
そして、もう一つの自慢。これがかなり問題、というか、これだけが問題じゃないかな。僕には彼女がいる。つまり、僕はリア充とやらに当てはまるわけだ。
だけど、爆発しろとかそんな言葉はいらない。すでに僕の脳内メモリは彼女のせいで爆発しているから。どんなに腕のいい技術者でも修復できないほどのダメージを受けているんだよ……。
まあ、タイトルもしくはあらすじでも読んでくれたらわかることだけれど、僕のイメージが非リア充な連中にズタズタにされる前に、彼女の説明もちゃんとしておこう。
彼女の名前は、茨城薔子。日本に二人いるかいないか、微妙なラインの字面である。彼女のどこが問題か。一言で言うならば、『ツンデレ』なのだ。それも別人かって疑うくらい『ツン』と『デレ』に天と地の差がある、『ツンデレ』の中の『ツンデレ』。某ぺディアさんによれば『ツンデレ』というのは、近しい間柄で敵意と好意の二面性を持つ様子だったり、そうした人を指す言葉らしい。
とりあえずは僕と彼女の会話を一部、見てもらおうか。
「薔子さん、お弁当一緒に食べようか」
「あっち行って、邪魔。友達と食べるから消えて」
「薔子さん、一緒に帰ろうよ」
「一人で帰ったらいいでしょ。友達と帰るから消えて」
「薔子さん、どこか出かけよう?」
「今日は家で勉強したい気分だから消えて」
「じゃあ、一緒に勉強しよっか」
「消えて」
――泣いていい?
これでも僕、彼氏なんだぜ。恋人なんだぞ? どうせお前の勘違いだろ、とか言ってくるやつがいるかもしれない。もちろん、僕もその可能性を考えたさ! 何度も何度もあのときのことを繰り返し思いだして!
恥ずかしいけれど、ちゃんと見てくれよ? 告白とその答えが全く勘違いなんてものじゃないってことを。叙述トリックとやらは一切ないからな!
それは、二ヶ月前のことだ。梅雨入りしていた五月の末頃、生徒昇降口にて。
彼女のことは前々から気になっていたのだけれど、決意したきっかけは傘だった。
午前中は雲一つなく、降水確率もゼロパーセントだった。が、放課後に入ると突然、大雨が降った。天気予報への信用すらゼロパーセントになりそうな、警報さえ発令された大雨だ。
この日は運命を感じたね。
昇降口で雨が弱まるのを待っていると、彼女が、茨城薔子が、僕に傘を貸してくれたのである。たくさんの生徒が往生している中で。困っている女子もたくさんいる中で。
男子の僕に、恥じらいながらこう言った。
「わたし、かっぱで帰るから。折りたたみでもよかったら使って?」
ちなみに補足しておくけれど、『消えて』の人と同一人物だからな?
で、彼女は僕に、かわいいキャラクターのプリントされた、ピンク色の傘を差しだしたというわけだ。
――そりゃあ、この時は勘違いしましたよ! いいなぁと思っている人が、雨の日に傘を貸してくれたんだ。健全な男子高校生なら「あれ? もしかして僕に気があるのか?」なんて考えにいたってもおかしくはないだろう?
そして次の日、僕は彼女を待っていた。もちろん傘を返すために。
この時はまだ告白する気はなく、お礼に欲しいものとかないか、訊こうと思っていた程度だったんだ。ほんとに!
錯乱は一日経ったらマイナス方面にいくもんなんだよ。たまたま目に付いたのが僕だったんだ、僕がかなり哀れに見えたのだろう、とかな。
しばらくして、彼女は数人の友達とともに登校してきた。「あの――」なんて声をかけると、察しがいいのか良すぎるのか、数人の友達はそそくさと消えていった。彼女は僕の持つ傘を見つけて、軽くうなずいた。僕の言いたいことが理解できたというわけだ。
全てを拗らせた――違うな、僕を狂わせた原因は、その後の彼女の行動だった。もしも悪いのは誰かって訊かれたら、結局は勘違いした僕が悪かったんだな……。
彼女は僕の目を見つめて、「えへっ」とか「にこっ」とかそんな音が聞こえてきそうな、本当に、まじめに、マジでかわいい、プリティでキュートなスマイルで、
「わざわざ待っててくれたんだ。ありがとう」
彼女以内歴すなわち年齢の男子にとって、好みの女子の無防備な笑顔は殺人兵器になるのだと僕は身をもって知った。
そして、落ちた。彼女に、堕ちた。
「僕と付き合ってくださいっ!」
完全に勘違いしてしまったんだ……。
言ってしまってからすぐさま正気に戻ってしまうのはなんでだろうな。頭の中ではぐるぐると、最悪な未来が浮かんでは消え浮かんでは消え……。僕の高校生活は終わった――そんなことばかり考えておりました。
ところで彼女はといえば、じーっと床を眺めていた。
そうだよなぁ、振る方が辛かったりするよな。相手が男なんだから後腐れとか怖いよな。こんな一人のしがない男子高校生のためだけに、きみの貴重な時間をありがとう。本当に、バカな勘違い野郎でごめんなさい。
「いいよ」
そりゃそうだよな……時間取っちゃってごめんな。
「よろしくお願いします」
――えっ!? いやよって言ったんじゃなかったの? よろしくお願いされたのか!? ということは……、ついに僕は……、来るはずのなかったはずのブルースプリングを、つまりは青春を手にしたのか!? イェーイ! リア充バンザイ! リア充どもよ、今まで恨んですまなかった! これからは仲良くしようぜっ!
と、一人脳内でバカ騒ぎしているところでチャイムが鳴った。
「成園くん、わたし……先にいくね? えっと、今日は委員会のある日だから、待たないでくれたほうが嬉しい……かな。お昼ご飯は、一緒に食べよ?」
彼女はぱたぱたと可愛らしい足音を残して去っていった。
廊下でぼけーっとしていた僕が、生徒指導の先生に拳骨で殴られたことは、彼女には秘密だ。体罰だー、教育委員会に訴えてやるー、なんて騒いでもいいのだが、この拳骨の痛みが夢ではない証明になってくれた。それでも夢見心地だったことに変わりはないがな。
昼休みにウハウハなお弁当のオカズ交換イベントを終え、惚けたままの僕は家に帰った。電話もメールもIDも訊いてないなとは後悔したけれど、どうせ明日も会えるんだと楽観して、さらっと眠りについた。
思い返せばここもターニングポイントなんだよなぁ。次の日、僕は地獄を見ることになるなんて……。
はい、回想終了! 続けたって僕のライフが減っていくだけなんだ。早々と切っておく方がいいだろう? 簡単に説明すると、二ヶ月間僕は彼女に冷たくされ続けてきたというわけだ。
まさに、デレないツンデレだよ……。どこがツンデレなのかって? 彼女はな、茨城薔子は、僕にだけ、そういう態度なんだ! 大陸弾道ミサイル級の笑顔を友達や教師に見せているのはたまに目にする。だが! 僕にだけは! カッコ泣カッコトジルなんだよおっ!
僕に何の怨みがあるのさ。会話の場をつくろうと昇降口や校門で時には日が沈むまで待った。それでも彼女は素っ気ない態度を崩さず、警察呼ぶわよなんて言われたこともあったな……。
ツンデレよりは普通な女の子がいいけれど、ツンデレならツンデレなりに少しでもデレ要素を入れてくれ。ツンツンツンツンもう僕のハートはぼろっぼろだよ。
冒頭のセリフじゃなくていいんだ。せめてあの笑顔を、また僕に向けてくれたならそれだけで救われる。
さらに悪いことに明日は一学期の終業式なんだ。つまり夏休みはすぐそこだ。四十日近く話さないとなると、それはもはやただの友達ですらないんじゃないか? (一方的に話しかける、を含む。だ)
それだけは! 絶対に! 嫌だ!
冷たくされてるけれども、僕は薔子さんのことが好きなんだ。彼女の笑顔に惚れたんだ。(たぶん)恋人というステータスさえも失くしたら、僕は薔子さんとの繋がりがなくなってしまう。(たぶん)恋人のステータスだけは、死んでも放さない。
ツンツン彼女をデレさせたい。あの笑顔を再び見たい。僕にだけデレない薔子さんの笑顔を、何としてでも取り戻す!
まずは連絡手段を手に入れよう。電話、メール、SNS。何でもいいから連絡手段を手に入れたい。夏休み、会えない距離を埋めるための道具がほしい。
明日、終業式。僕の幸せな未来が、僕自身の手にかかっている。
頑張れ! 僕!
こんにちは、白木 一です。
ツイッターをやっていて、書きたくなった話です。
ツンデレ出したいなぁと思っていただけなのに、方向性がなぜかずれている?
この小説は、かなりライトノベルを意識しております。
読みにくいかもしれませんが、これは私が楽しみたいために、ある大先生風に言うなれば、100%趣味で思いつき、書かれた小説なのです。
よって、活動報告にもあまりあげないでおきましょう……。
最近風呂敷を広げすぎて、どうやって片付けようか困っている作者ですが、ささやかながらでも応援をよろしくお願いいたします。