表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
3/8

2 本入部

 4月の30日、今日から本入部の日。

 その日は、カラッとした晴れの日だった。


「それでは、自己紹介を行います! じゃあ、まずは俺から……」


 顧問の先生が自己紹介を始めた。


「えーっと、先生の名前は小坂文也。陸上は小学生の頃からやっていました! まだ27だしいろいろ経験不足なところもあるけれど、先生は精一杯頑張っていきますから、皆さんもご協力よろしくお願いします」


 顧問は小坂先生、顧問は小坂先生……

 頭のなかで復唱して覚える。笑顔が素敵な爽やか先生だ。


「じゃあ、部長からよろしく」

「はい。えーっと、俺の名前は……」



 自己紹介が完了いたしました、中原勇輝です。

 はっきり言っちゃうと、覚えきれる量ではなかった。

 なにせ、陸上部は2~3年だけで45人の大所帯。そこに1年生17人が加わるから、総人数62人ということになる。

 でも…… やっぱり人数が多いほうが楽しいかな。

 俺は静かに微笑んだ。




「それじゃあ、長距離と短距離分かれて~」


 部長が声を掛けると、みんな一斉に分かれて準備を始めた。キビキビしているところとかすごく憧れる。


「じゃあ……今日は上級生が5000を一周48でずっと。1年生は4000を52で頑張ってみようか! 女子は上級生が3000を55、55、50で、1年生は3000を60で頑張ろう!」

「はい!」


 小坂先生が指示を出し、俺達はスタートラインに着いた。


「初めての本格的練習、緊張する~」


 明らかに緊張なんてしていない様子の浅井を横目に、俺は考える。

 1周――200メートル――を50秒で4000メートル。最初の練習としては決して苦でも楽でもない絶妙な距離とスピード。


 ……あの先生、やるな!



「……ねえ、早く行こうよ……」




 走りだすと、まずは2周ほど使ってペースを作った。ピッタリ50秒のペースになる。

 その後は、ラスト3週あたりから少し呼吸が乱れたが余裕を持ってゴール。和也も正樹も余裕そうな顔をしていた。


「ナイスラン~」


 先にゴールしていた先輩が声をかけてくれた。


「お前ら全員余裕そうじゃん。なかなかだな」

「ありがとうございます」


 三人とも先輩という存在に慣れていないためか、ガチガチの表情でお礼を言う。


「まあまあそう固くなんなって。俺の名前はわかる?」

「田中先輩、ですよね」

「正解~! お前、浅井って言ったっけ? 良い走りっぷりだなー。てか、今年の1年みんな速えじゃねえか」

「あ、ありがとうございます……」


 先輩って……やっぱりかっこいいな。ちょっと緊張してお礼を言う。


「それじゃあ、ダウンするよー」


 長距離ブロック長の村上彰先輩が皆に指示を出して、ダウンを始めた。




 ゆっくりしたペースで走ると、クールダウンになるし疲労も抜ける。俺達は少しお喋りも交えながら三周走った。


「どうだった? 今日の練習」


 村上先輩が声をかけてくれる。


「あ、なんとかいけました!」

「余裕そうだなー、俺、最初の時は3000メートルを55でもかなりキツかったんだよなー」

「そうなんですかー、意外ですね」


 流石は浅井、先輩相手にも笑顔では話している。もちろん、俺と青木は一言も話せず……


「ところで……おい、青木」


 突然、村上先輩が青木に話しかける。


「は、はいっ!」

「お前って、『あの』青木だよな?」

「あ……多分、そう……だと思います……」

「やっぱか、めっちゃ心強いじゃないか! あと、中原」


 突然、俺。


「はいィっ……」

「ぷっ」


 声が裏返ってしまい、浅井に笑われた……


「お前が一番フォーム綺麗だったよ。お前が一番素質ある! 俺が言うから間違いない」

「えー、先輩俺は~?」


 何故か田中先輩も会話に混ざる。


「お前も中々だって。皆速えよ」


 ……ここで3周終わった。




「皆、どこまで行けるのかな?」


 終わった後のストレッチ。3人で押し合ったりして筋肉をほぐす。


「……どこまで、って?」

「市大会はもちろん、県大会とかー、全国とか! 行けるといいな~って」

「うーん、青木はもう全国レベルだろ」

「そ、そんなこと……」

「お前なあ……」


 会ったばかりだけど、ちょっと不安に思っていたからここで話しておこうかなぁ……


「もっと自分に自信もてよ。全国3位だろ? 俺達に言わせてみればすごすぎるんだって。自信もてば、見える世界が変わってくるし」

「…そっか」

「まずは喋り方! どもるだけで自信ない人みたいに聞こえちゃうから」

「う、うん! 頑張ってみるよ!」

「よーし、これで正樹が更に強敵になっちゃうよ」


 ちょっと笑って俺が言うと、皆、笑顔で


「そうだね!」

「が、がんばる!」


 とワイワイ騒ぎ始めた。

 ……いいな、この雰囲気。俺はそう思った。




「あなた達が男子の長距離?」


 ストレッチも終わり先輩に教えてもらってマットを片付けようとしていた時に、不意に声を掛けられた。あの人達は、確か女子の1年だ。


「そうだけど」

「だよね! 名前わかるー?」

「確か、三好と、香川と、……」

「あー、中原くん酷いー! 上野だよっ」

「あ、ごめん! よし上野な、覚えた」


 やっぱ、女子って騒がしいなー、とつくづく思ったその時。


「今中原くん、絶対騒がしいとか思ったでしょー」


 ギクッ


「そんなことねぇよ!」

「ふーん、まあ自分たちでわかってんだけどねっ」

「あ、はい」


 焦らせんなし。


 ……こうしてみると、あまり印象的な出会いではなかったんだなぁ、俺達は。 

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ