表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
2/8

1 出会い

「仮入部来てくれてありがとう! 今日は見学だけど、明日からは練習にも参加できるからぜひ来てね!」


 4月の20日、仮入部の初日。


「わー、先輩かっこいい~!」

「すげー、やっぱ先輩ってはえーなー」


 走ることには人を惹きつける力があると、俺は信じている。事前に他に入りたい部活がないから仕方なくと話していた数名も、我を忘れたかのように先輩の走りに見入っていた。

 かくいう俺も、興奮を隠せずにはいられない。知らず知らずのうちに、目を輝かせてしまっていた。

 そのときにやっていたのは、短距離がスタート練で長距離は400のインターバル。やっぱり中学校はレベルが違うなと、ワクワクが湧き出てくる。


「速いね~」


 いつの間にか隣に和也がいた。コイツとは、幼稚園の頃からの大親友だ。


「ああ。本当……」

「楽しみだね、本入部」

「先輩の記録抜かすぞー!」

「勇輝ならやりかねないのが恐怖」

「恐怖とかないだろ」


 2人で笑い合っていると、同じように話しているグループを見つけた。

 いい機会だと、二人で声を掛けに行く。


「はじめまして! 陸上部に入るの?」

「う、うん! はじめまして! 俺、野口。」

「俺は立石って言うんだ。君たちは?」

「俺が浅井で、こっちが中原」


 こっちってなんだよと、内心で毒づきながら尋ねた。


「君は長距離に入るの?」

「いや? 短距離だよ」

「ああ、そう……俺達は長距離だけど、よろしくね!」


 最初はちょっと不発だったみたいだ。


「長距離の人探しに行こ~」

「おう! …さすがに二人だけはないよな……」

「あはは! そんなわけないよ! ……多分。」

「余計な一言加えんなし」

「ごめん」


 果たして。


 和也が言ったことは現実になってしまっていた。陸上部の入部希望者は男子だけでも15人はいる。それぞれが2~3人のグループを作って見学しているが、どこに話しかけても短距離か跳躍希望の人しかいない。投擲だって2人いたのに、だ。


「嘘でしょ。ねえ嘘でしょ勇輝」

「いや、まだあそこに1人いる! 最後の希望だ!」


 半ばおかしなテンションになりながら、最後の子に話しかけた。


「初めまして! 君も陸……」


 浅井は、彼の顔を見た途端に顔色を変えた。

 赤くなったり青くなったり忙しいなとクスリと笑いながら俺もその人の顔を見た。

 持っていたタオルを落としそうになった。


 暫くの沈黙。


「きみ! 全国3位だったN県の青木くん、だよね! 引っ越したって聞いてたけど、まさかこの中学校にくるなんて!」


 最初に稼働しはじめたのはやっぱり浅井だった。

 中学に入ったというのにピョンピョン飛び跳ねたりガキ臭いな、と思っては見たものの、興奮するのもわかる。

 小学生ながら1000mで2分51という好タイムを出し全国三位に輝いた、あの青木正樹。

 あの力強い走りが、俺と浅井の憧れだった。


「あ、ありがとう……」


 困りげに視線を漂わせる青木くん。


「ほら、困ってる」

「ああ、ごめん! やっぱり長距離入るの?」

「そ、そうだよ」

「うわー、俺青木くんと走れるなんてもう光栄だよー」

「そんな、光栄なんて……」

「うん。すごかったよ?」

「うん、どうも……」


 意外だな、と思った。

 全国での入賞者となれば、もっと我が強いものだと思っていたが、こんな感じのひとだったのか。

 尚更親近感が湧いた。


「よろしくな、青木! 今年中には抜かすからな?」

「う、うん! よろしく。僕も抜かされないように頑張るよ」

「おう」



 今年は、かなりいい順位を狙えるんじゃないか。

 期待の持てる1年3人になったと思う。




「という訳で……」


 俺の家の近くにある原っぱ。

 そこへ、俺と和也と青木の3人で集まった。これから、ジョッグがてら会議を行う。


「しっかり自己紹介しましょっかー」

「おおー」

「う、うん……」


 走りだしながらまずは俺から。


「中原勇輝。1000の自己ベストは3分04秒24で、1500はロードで4分50だった。改めてよろしくな」


 言いながら考える。1000の自己ベストの差は13秒程。行ける、行けるぞ……


「浅井和也だよ。1000の自己ベストは3分06秒59。俺は小学校から3000とかよくやってて、ベストは10分32だったと思う。よろしくね!」


 浅井は、距離が長くなれば長くなるほど速くなる。どこからそんな力が湧いてくるのかと、俺でも驚くくらいだ。


「ぼ、僕は青木正樹。1000メートルの自己ベストが2分51。どちらかと言えば短い距離の方が得意かな……」

「うん、改めてよろしくね」

「よろしくな」


 青木に改めてよろしくを言うと、、ホッとした表情を浮かべていた。人付き合いが苦手なのかな?

 それでも、俺の靴紐が解けると黙って止まってくれる辺り根は良さそうな人だ。




「それにしても…」


 和也が言った。


「見事に得意な種目が分かれてるよね~」

「だな」


 俺が1500、浅井は3000、青木は800が速そうだ。


「これはもう、大会で中長距離種目全制覇するしかないな」

「で、できるかな……」 

「できるよ! 本気になれば、きっと」


 十字路を曲がる。この先の交差点を右へ行けば、さっきの原っぱに戻ってくる。

 俺と和也が二人で考えたルートだ。一周で1100m。


「頂点、とってみたくない?」


 こういうことがさらっと言えるあたりが、浅井の良いところだ。


「おお、勿論な!」

「だ、だね!」


「3人で、目指そう。それぞれの種目で、市……いや、県一位を!」

「おオーッ!」


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ