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開く者

作者: 富士見 恒

まただ。


すう、と鼻から吸った息がそのままため息になった。

こうしていても仕方がない。立ち上がって障子を閉めて炬燵に入る。

そうしてまたテレビに視線をもどし、しばらくすると。


すっ。


ひやりとした風が背中を滑る。

首を巡らせ振り返ると、障子がまた少し開いていた。


しかし今度はただ開いているだけではなかった。


少し開いた障子の端、茶色の枠をのっぺりした真っ黒な手が掴んでいる。

立ち上がり障子に近付くと、合計八本の真っ黒な指が、そっと障子の枠に添えられているのが分かった。


ふぅ。


手から目をそらして、障子の前に立って腕を組む。

障子の向こうの暗闇に目を凝らすと、琥珀色に光る二つの目がゆっくりと浮かび上がってきた。

二つの目は瞬きする事もなく、じっとこちらを見ている。


頭をがりがりと掻いて、それに向かって語りかけた。


寒いし、何度も立つのは面倒だ。寒いなら中に入ればいい。


そう言って障子を大きく開いて数秒。

長く伸びた黒い廊下に立つそれが、ゆっくりと部屋の中に入って来た。


黒い布をマントのようにまとった、真っ黒な何か。


マントの前からは二本の黒い手が突き出ており、それ以外はマントの下に隠れて何も見えない。

姿形は人間よりも、『移動する真っ黒な小山』と言った方がしっくりくる気がする。


『移動する真っ黒な小山』は、もそもそと部屋の隅に移動して、床の間の掛け軸の前に座るとこちらを見た。


マントからほんの少し出ている顔も真っ黒で、こちらが視認出来るのは光に透かした鼈甲飴のような光り方をする、不思議な虹彩のみだ。

そして今その二つの目が、何かを期待するようにこちらをじいっと見つめている。


炬燵に入り、また消えていたテレビを付ける。今度は障子は開かなかった。

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