赤と黒
外は朝から降り続く雨。
ふと窓の外を見れば夕方を示す
橙色の光が差し込んでいる。
妙だと思う。
雨が降っている時は大抵
薄曇りか此処に目が覚める直前も
そうだったように殆ど日が差さず
厚い雲に覆われて暗い方が多いのに
こんなに鮮やかな夕日の中、
雨が降っている光景は
そうそう見れるもんじゃない。
思えば日中も朝や昼の区別が
ハッキリつくくらいの日差しだった。
「…………だからなんだ」
たまたまだろうとセキは一旦
思考を区切り、そんなことよりと
現状を思い返す。
兎に角いつまでも
此処にいるわけにはいかない。
この場所が何処かは分から無い以上
出来れば明るいうちに探索に行きたかったが
この足止めで予定が狂ってしまった。
セキはチラリと子供を見遣やった。
唯一尋ねたい相手はこの調子だし、
その親もいまだ帰ってこない。
思わず短く溜息を洩らす。
そもそも自分は何故あんな所に
倒れていたのか。
雨が降って蛍が沢山浮遊してて
それから――
急に背中がゾクリとした。
あの得体のしれない影が出現し
情けなくも気を失ってしまった。
アレは何だったんだ?
しかもその場に倒れていたというのなら
まだ説明もつく。
しかし実際は起きた時の光景は
まるで違っていた。
その上、キリトもトウコも誰一人
見当たらないとか。
俺が気を失っている間に
一体何があったというんだろう。
共通してることといえば
雨が降ってることのみ。
もう何が何だか……
何度考えたところで答えは
一向に見付けられそうにない。
こんな事ならやっぱり昼間にさっさと
おいとまして、倒れていた周辺を
探っておけばよかった。
手がかりがもしかしたら
見付かったかもしれないのにと
考えたところでもう遅い。
もすぐ夜になってしまう今となっては
不慣れな森の中を歩くのは危険だ。
せめてトウコの端末機が生きていれば
スキャンでここら一体の動物や生物
その危険度、行動パターン等が一気に
把握できて危険回避も容易だろうが
やはり壊れてしまってるようで作動しない。
――皮肉なものだ。
遥か昔と比べ医療の進歩に伴って
昨今、自然分娩をする者など
全体の3パーセントにも満たない
現代においてすら、いくら技術が
発達し天候管理も人工知能の叡智を
集結されたロボットや機械も
所詮、壊れてしまえば
ただの鉄屑と化するのみ、か。
こうなった以上、今晩もう一晩だけ
泊めて貰って明日の朝、出ていこう。
「ぐぅぅぅ~~~」
ずっとそれまで子供に気を取られたり
考え事をしていたお陰で朝から
全く食べていない事に今頃気が付いた。
しかも気が付いた途端、空腹感が
一気に増すから不思議だ。
バッグに何か非常食があった筈だと
漁り数種類のお菓子と
チョコレートを発見した。
「君もお腹空かない?
お菓子でも良かったら食べる?」
「………………」
……お菓子で釣れると思ったんだけど
なかなか頑固な子だな。
いや、こっちも意地だ。
この子も食べてないんだから
お腹空いているだろうことは分ってる。
「ね、いい加減機嫌直して
一緒に食べようよ~」
その背中をポンポンと叩いて
出来る限り優しく声をかけると
反射的に振り向いてセキを見、そして
視線を手の上のチョコレートへと移した。
それでも取ろうとしない彼に対し
冗談交じりで、
「遠慮するなんて子供らしくないよ。
どうぞ、怪しいモノじゃないから」
笑いながらその小さな手に渡すと
最初は戸惑いを見せていた彼も
俺が食べてる姿を見て安心したのか
漸く口に入れて食べてくれた。
そして渡したビスケットとチョコを
食べ終わると彼は再び
セキの方を見上げた。
催促とも取れる視線が可愛くて
笑いそうになったけど、ここで
笑うとまたヘソを曲げられそうで
セキはどうにかグッと
自分を押さえ込むことに成功した。
「美味しかったかい?
まだあるから沢山食べて」
その手にお菓子を落とすと
いきなりで驚いたのか
一瞬手を引いたせいで
下に溢れてしまった。
「あ、ごめんごめん」
人見知りが強いのかな?
その時は思った、が
どうも一連の行動には
引っかかるものがある。
「美味しかったかい?
まだあるから沢山食べて」
その手にお菓子を落とすと
いきなりで驚いたのか
一瞬手を引いたせいで下に溢れてしまった。
「あ、ごめんごめん」
人見知りが強いのかな?
その時は思った、が
どうも頭に引っ掛かることがあった。
声をかけても無反応。
機嫌が悪く無視してる、
今の今までそう思っていた。
手を掛けて振り向かせると
さっきもだけどやけにビックリする。
その度につられてこっちも
驚く羽目になっていたけど。
「―――ねぇ、
ここに赤と黒のチョコがあるけど、
因みに黒の方はレプリカなんだ。
なかなかよく出来てるだろ?
友人が開発した面白い玩具でさ
無論、模造品だから食べれないけどね」
差し出したモノを再び受け取ると
彼は赤いチョコを口にした。
余程気に入ってくれたみたいで
美味しそうに食べている。
そして――
セキの目の前で
キラキラと光が弾けた。
少年は驚きで目をパチクリさせている。
「……ソレ(レプリカ)は噛むと
光を放って砕け散る仕組みなんだよ。
あ、体には害は無いから安心して」
彼の口の周りで光っている
光の屑を親指で取り除く。
彼は大きな目を更に大きくした。
「……試すような真似してゴメンね」
そしてその目はセキを見据えたまま
逸らそうとはしなかった。
「気付かなくってゴメン。
……耳が聞こえていなかったんだね」