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禁忌犯の末路



「愚かなり」



嘲笑うコウから目が離せない。



その言葉は悔しいが事実だ。


行き方も分からない場所に

どうやって行くというのか。




「それでも俺は―――」




無理だと分かっていても

行かなければならない。


そんな気がするんだ。




「良いでしょう、

貴方は現実を知るべきですね」




「ッ!?」




一瞬の閃光の後、

セキが再び目を開けると

そこはあの池のほとりだった。





「コウ……」




「礼には及びません、

貴方に使う時間が勿体ないからです」




ヤツが先にそう口にしなければ

わざわざ連れてきてくれて、と

危うく言いそうになった。



「ああ、だろうな」



悪態をついたところで心の中を

見透かせるヤツにはどうせ無意味だろうが。



「さて、ここからが見ものですが、

どうやって行かれるおつもりなのでしょう?」



分かりきった問を笑みも浮かべず

コウはセキの反応を見ている。




つくづく性格が悪い。



この男……


あの穏やかで協調性の塊だったコウを

よく演じていたものだ。





勿論アテなどない。


が、此処に来れば何かヒントに

なるものがないかとセキは必死に探し回った。



此処で雨と雷、そして……蛍。





見上げた空には雲一つかかっていない

抜けるような青空が広がっている。


とてもじゃないがそうそうその条件が

揃うとは思えない。



何故あの時イゼルの世界に行けたのだろうか?


偶然にしては出来過ぎた話だ。




“贄としての召喚をした”



もし、それが真意であるなら

自分は呼ばれたから行けたわけで

こちらの意思は通用しないのか?




「ご納得頂けましたか?」



「してない」



コウは大袈裟に溜息をついた。





「俺は、大事な人を残して

一人で帰ってきてしまったんだ」



どうやって戻ってきたか曖昧で

正直彼の声も表情も殆ど分からない。




ただ、




あの時誰かが涙を流しているのを

微かに覚えている。



声にならない言葉が聞こえた気がして

それが胸の奥に刺さっている。





『――行く……な、嫌だ、行くな!

もう、一人にしないで……一緒にいきたい』




あれはイゼルの心の叫びでは

なかったろうか。







「バカバカしい」




それは眉をひそめ珍しく負の感情を露わにした

コウの台詞だった。



「……んだと?」



セキが語気を荒げても怯むことなく、

今度は下らないと言ってのけた。




「コウ……いや、ラウル。

お前が人の感情も分からない存在だとしても

そんな事を言われる道理はない」



それでもコウは、そんなことよりと、

セキの気持ちを逆撫でするような言葉を

意図的に選んでいるようだった。




「本当は……もっと貴方の足掻く様を

見物しようと思っていたのですが。

いい加減それも飽きてきました」



「ふざけるなっ!」



殴りかかろうとしたセキに、




「ああ、確か現実をお教えするのでしたね?

ご心配は無用ですよ、行けませんから。

……無論、この私ですら、ね」



どう言う意味だ?という言葉が喉の奥に

引っ掛かって声に出すのを躊躇ってしまった。



嫌な予感しかしない。




「おや?聞かないのですか?理由」




加えて薄ら笑っているかの如く

口を歪ませている男の顔を見たら、

尚の事その懸念が濃くなった。




「ハッキリ言いましょう。

気の毒ですが四時彷徨狭時空は

現在閉鎖されたと聞いています」



「閉……鎖?」



「つまり、あの空間そのものが

存在しないんですよ」




「嘘だっ!」





「時空間自体の閉鎖はよくあることです。

またずぐに別の空間が発生し、新たな

管理官が派遣されるそれだけのこと」



「あそこにはイゼルが、

イゼルがいるんだぞ!!」



「例の不肖番人の名ですね。

色々不祥事を起こして謹慎期間に

また問題を起こした」



謹慎?



セキの脳裏に子供の姿をしていた

彼の姿が過ぎった。





「あのデスィルは幾つもの禁忌を犯している。


まず、響闇吏に結界を張る権限は

与えられていない。


異端者狩りの放棄。


異世界から供物として授けられた贄を

殺しもせず元の世界へと帰しています、

それも二度も」



貴方のことですよ、と言わんばかりに

セキを見た。



「統治者最有力候補生でありながら

絶望的な失態です」




更にはと続く言葉は、セキを驚愕させた。





「その空間を閉じたのが、

そのデスィル自身ではないかと

我々は疑っている訳です」



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