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コードネーム

「セキ、昨日はどうだった?

学生時代の友人らと山に行ったんだろ、

少しは気分転換になったか?」



声を掛けてきた同僚の顔を見て

セキはホッとした。



どうやら人の顔の見分けがつかなかくなった

訳ではないらしい、これで少なくとも

突発性相貌失認の線は消えた。



「妹の事代わりに診てもらって助かった」



「診るっていっても

アレじゃ実質何もしてないのと一緒だが……」




「…………。」



「あ、悪い!えっとその俺、

まだ診察残ってるんだった、じゃ又な」



取って付けたように慌てて

フロアを駆けて行く姿をセキは黙って見送った。










「セキ先生、リンゼさんのカルテです」




「ありがとう。

悪いけど少し外しててくれないか?」




渡された記録に目を通し終わると

セキはそのまま視線を下に向けた。



銀色のメタリックカプセルの窓越しに見える

栗色の髪の長い少女は眠るように瞼を

固く閉ざしている。



“眠るように”とは文字通りで両親が亡くなったのを機に

それまで頑なに反対していたコールドスリープに応じたからだ。




その無機質な個体に手を置いて静かに滑らせた。






「……俺は最低な兄だ」















(…………!)




気配がする。




―――そして俺にはこれに覚えがあった。






「それが世に聞く懺悔とかいうものですか?」





そのたったワンフレーズに込められた

悪意と侮蔑をこうもあからさまに

表現できる言い方は例のアイツしか

知らないとセキは思った。



背後を振り向くとやはりソイツはそこにいた。



背の高い見たこともない衣装を身に纏った

……声からして男だと思う。



曖昧なのは前回と同様、表情は疎か

その視線が何処にあるのか

分からないままだったからだ。




「此処は関係者以外立ち入り禁止だぞ、どうして入れた」



病院といってもライセンスに関わる

機密事項の特殊な研究部署を抱えている為、

最新鋭のセキュリティが施されており

部外者がそう易々とは入れる筈はないのだ。




「おかしいとは思いましたが、

その様子からしてどうやら無効化されてるようですね」




まともな答えなど期待していなかったが、

その見当違いな返事が、聞いている者に

えも知れぬ恐怖と焦燥感を抱かせる。



そして、またしても、




「……ああ、そういう事ですか」





「お前、いったい何を言ってる?」





「……余程貴方を守りたかったのでしょうね」




「いい加減にしろ!オイ!!」




「無駄だと解っているでしょうに」




誰に向けての言葉なのか奴は独り事のように呟く。




意味不明な台詞と存在……見えない顔、

疑問が尽きることはない。




どうやって此処に侵入した?



どうして監視モニターに反応しているだろう

コイツを誰も排斥しに来ない?




それ以前に……



さっき自分が部屋に入って来た時

奴はいなかった、これは確かだ。


その後、人払いをして今まで扉が開いた形跡は無い。



途端、恐怖がぶり返してきた。






「お前は……何だ?」





以前のように体の自由を奪われていないと

振り向いた時に分かったセキは

駆け寄ってその顔無しの胸ぐらを掴んだ。



が、その手は自分でも

どうしようもないくらい震えている。



それでも問いただすべくその容貌を

確認しようとするが、どうしたことか

息さえ届きそうなこの距離に置いてなお

顔が読み取れない。




やはり“コレ”だけがおかしい。




何故だ?



さっきまで病院スタッフや同僚の顔は

覚えていたし、なんら違和感もなかったのに。







「私の顔が覚えられませんか?」






セキの行動の意味を察してかソレは

穏やかな声で問い返してきた。




「――く!!」




胸ぐらを掴んでいた手を物凄い力で握られた。





「自己紹介が未だでしたね。

改めまして、私はそうですね

仮にレゼィヴ・ラウとしておきましょうか」



「そのラウさんが……ッ、何の用だ?」



掴まれている手がキリキリと音を立て

このままでは骨を砕かれてしまいかねない。



「どうしました?あ、もしかして痛いんですか?

本当に人間って弱いんですね」



せせら笑う様な言い方をしながらやっとその手を離した。



なんて馬鹿力だ。




「何故、お前の顔が見れない?」




「知る必要はありませんよ」



「質問に答えろ!」




「……そこまで言うのであれば、

私はこの世界の管理統括総帥より

派遣された御使いの一人、

この度、還り人の貴方の監視役を

仰せつかった者です。



因みに、この任務におけるコードネームは、


―――コウと申します」




いきなり目の前で誰かにパンと

手を叩かれたような衝撃と共に

それまでどうやってもあやふやにしか

映らなかったモノが突如人の顔として

認識することができた。




しかも……




「コ、コウ!?」


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